上 下
439 / 657
エルフ王国 決戦編

爆発物

しおりを挟む
「ぐうっ……な、何だ!?」
「こ、ここは……」
「うおっ!?」
「……どうやら全員正気に戻ったようですね」
「ぐぅうっ……!!」


魔法陣に乗り込んだ瞬間に虚ろな瞳をしていた兵士達が意識を取り戻し、イヤンの口を塞いだ状態で抑え込んだリンは安堵の息を吐く。その様子を困惑した表情で国王とヤミンは見つめ、一体何が起きたのかを問う。


「イヤンよ……お主、兵士達に何をしたのだ?」
「いえ、国王様。どうやら彼等を洗脳していたのはイヤン王子ではありません」
「え、どういう事ですの?」
「それは私から説明させてください」


最初に正気を取り戻した兵士が国王とヤミンに自分の身に起きた事を説明し、この世界樹の中に人間のしかも魔王軍の関係者が存在したという話に二人は驚き、同時にイヤンが魔王軍と手を組んだ事に怒りを抱く。


「イヤンよ!!お主、誇り高きエルフ王族でありながら他国の侵略者と手を組んだというか!!何と愚かな事を……!!」
「お兄様、嘘でしょう!?嘘だと言ってくださいまし!!」
「……黙れ、これが最善の方法なんだ!!」


兵士達を正気に取り戻した事で口を塞ぐ必要はないと判断したリンはイヤンの口元だけを解放すると、彼はこの状況にも関わらずに悪態を吐き、自分の判断が間違っていない事を断言する。


「このままではこの国は終わりだ……それならば王族である我等だけでも生き延び、何時の日か王国を再建するのだ!!例え他国に従属する事になろうと我々は王族として生き延びねばならない!!違うのですか父上!?」
「馬鹿者が!!どうして儂に相談せず、そのような判断を下した!?」
「何度も俺はこの話をしました!!ですが、父上は聞く耳を持ってくれなかっただけではないですか!!」
「お、お兄様……本当にどうしたのですの?」
「……イヤン王子、申し訳ありませんが貴方にも魔法陣の上に立ってもらいます」


イヤンの様子がおかしい事に国王たちは戸惑い、いち早く彼の異変が洗脳によるものではないかと考えたリンは王子を魔法陣に近付けさせる。最初は抵抗していたイヤンだったが、魔法陣に踏み込んだ瞬間に嘘のように大人しくなった。


「離せリン!!貴様、この僕を誰だと思って……ぐうっ!?」
「王子、気をしっかり持って下さい!!貴方は騙されていたのです!!」
「そ、そんな事は……何だ、これは……うああっ!?」
「リン!?イヤンが苦しんでいる、早く出せ!!」


他の兵士達は魔法陣に踏み込んだ瞬間に正気を取り戻したが、イヤンの場合は魔法陣に乗り込んだ途端に頭を抑え、苦しみも学。その様子を見て心配した国王がイヤンを出す様に促す、リンは彼を魔法陣に抑えつける。


「イヤン王子!!どうか正気に戻ってください!!」
「うああっ……そ、そうだ。俺は、何でこんな事を……」
「お兄様!?」


イヤンは頭を抱えながらも自分のしてきた行為を思い返して違和感を抱き、自分の行為の過ちに気付いたように膝を崩す。リンは魔法陣からイヤンを引きずり出すと彼の元に国王とヤミンが近寄り、彼の身体を抱きしめる。


「イヤンよ、平気か?身体に異常はないか?」
「お兄様、貴方のヤミンはここにいますわ!!」
「ああっ……父上、妹よ……俺はなんてことを」
「……どうやらイヤン王子も洗脳されていたようですね」


命令を聞くだけの傀儡と化していた兵士と比べればイヤンの洗脳は完全な物ではなかったらしく、現に彼自身は国王や妹を拘束するだけで暴行を加える様子もなく、共に転移結晶を使って脱出しようとしていた。そう考えるとイヤンは心の底まではクズノに屈服していたわけではないらしく、彼は自分の行為に後悔したように二人の身体を抱きしめた。

幸運にも勇者が残した聖遺物のお陰で正気を取り戻したイヤンと兵士達は集まり、彼等から事情を尋ねて魔王軍の目的を考察する。最初の兵士のように他の兵士は最後に残っている記憶は自分達が洗脳された場面しか覚えていなかったが、イヤンの場合は完全には洗脳されていなかった事でクズノが話していた恐るべき計画を話す。


「あ、あいつはこう言っていた。数が増えすぎた昆虫種を一掃するため、この世界樹ごと吹き飛ばすと……その方法は既に準備が出来ていると言っていた気がする」
「世界樹を吹き飛ばす……だと!?」
「そんな事をすればこの国はどうなってしまうのですか!?」
「いえ、それよりもそんな方法が本当にあるのですか!?」


クズノから聞いた計画を語るイヤンの顔色は悪く、彼の表情から察するに本当に世界樹を吹き飛ばす準備が進められていたらしく、昆虫種共々邪魔な存在を消すためにクズノが仕掛けた方法を話す。


「や、奴はこう言っていた……既に世界樹の内部には爆発性の高い高純度の火属性の魔水晶を至る箇所に仕掛けていると……後は火種をやれば各所に設置した魔水晶が連鎖して大爆発を引き起こすと言っていた」
「そんな!!」
「その爆弾の居場所は!?」
「分からない……知らないんだ!!あいつにはもう準備は出来ているから脱出するように俺は言われただけなんだ!?」


イヤンもクズノが仕掛けた爆発物の場所は知らないらしく、これが事実ならば途轍もない大惨事が引き起こされようとしており、このままでは世界樹に集まった大勢の森人族の命が危ない。



※今回の投稿の?秒前

カタナヅキ「あれ、勝手に公開されてる!?」Σ(゚Д゚;)
リーリス「出番ないからこれを押しました」(・ω・)/公開ボタン
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。