最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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エルフ王国 決戦編

洗脳の解除

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「おい、お前、何時までそこに居る気だ。とっとと下がれ!!」
「え、あっ……はい」


イヤンに怒鳴られた兵士は戸惑いの表情を浮かべながらも下がるが、状況をよく理解していないように他の兵士に視線を向ける。そんな兵士の態度の変化に気付いたリンは違和感を抱き、先ほど兵士が乗り込んだ魔法陣に視線を向けた。


(あの魔法陣はどうやら生物の魔力を吸い上げるようですが……もしかすると)


リンは兵士に視線を向け、自分に気付くように祈る。壁際まで下がった兵士は何が起きたのか混乱しているかのように頭を抑え、イヤンに気付かれないように他の兵士に話しかける。


「なあ、おい……俺達、何でこんな事を」
「…………」
「おい?聞いてるのか?」
「貴様、うるさいぞ!!黙っていろ!!」
「ひっ!?も、申し訳ありません!?」


混乱した様子の兵士は隣に立っていた兵士に話しかけるが、何も反応が返ってこない事に違和感を抱き、肩を掴もうとした時に台座を調べていたイヤンが怒鳴りつけて慌てて謝罪する。しかし、その様子を見ていたリンは彼が他の兵士達と違って正気を取り戻した事を確信した。

恐らくだがイヤンに付き従っている兵士達は「洗脳」の類のスキルで操られている可能性が高く、もしも魔法の類によって兵士達が操られているとした場合、魔法陣に乗り込んだ兵士が正気を取り戻したのもおかしくはない。どうやら台座を取り囲む魔法陣はあらゆる魔法の力を吸い上げる機能があるらしく、魔法によって操られていた兵士の洗脳を解いたのだ。


(という事は兵士達があの魔法陣の上に乗り込めば元に戻るのでは……?)


都合が良い話ではあるが実際に兵士の洗脳が解除されたのは間違いなく、他に方法はないのでリンは自分を取り囲む兵士に視線を向け、彼等をどうにか魔法陣の上に誘導出来ないのかを考える。


(魔法陣に乗り込めさえすれば……お願いします、どうか気付いて下さい)


リンは洗脳を解いた兵士に必死に目配せすると、彼はリンの視線に気づいたのか訝し気な表情を浮かべるが、すぐに意図を察して頷く。王子に怪しまれないように兵士はリンの元へさり気無く近寄り、その様子を拘束されている国王とヤミンも目撃していた。


「くそ、起動方法が分からない……やはり、10人の魔術師を集めないとならないのか?む、ここに何か書いてあるな……一体何だこれは?」


台座を調べる事に夢中なイヤンはリン達の行動に気付かず、彼に従う他の兵士達は何も反応を示さない。どうやら与えられた命令以外では動かないらしく、リン達は拘束されてはいるがそれいじょうの危害を加える様子はない。


(リン様、お呼びですか?)
(良かった、やはり正気に戻ったのですね?)
(は、はい……正直、何が起きているのか理解できないのですが……)


洗脳を解いた兵士はリンに近付いてイヤンに聞こえないように話しかけると、彼の反応から自分の予想通りに兵士が洗脳を受けていた事を確信したリンは安心した表情を浮かべる。長年の間、自分と共に王族を守り続けてきた兵士達がイヤンに寝返った事に疑問を抱いていたため、彼等の裏切りが洗脳の力であった事に安堵した。

その一方でエルフ王国の中でも王族の護衛を任される程の兵士や騎士達が簡単に洗脳されてしまった事にリンは疑問を抱き、どのような手段でイヤンは兵士達を洗脳したのか気にかかる。だが、今は国王とヤミンを救い出すため、リンは兵士から情報を聞き出す。


(今から貴方が知っている限りの事を話してください。貴方は何処までの事を覚えていますか?)
(それが……よく分からないのです。自分が巡回の仕事中、倉庫の方で聞きなれない声がしたので調べてみたら人間の男が居ました。最初は黒髪だった事からナオ様かと驚いたのですが、顔も背丈も違ったのですぐに別人だと気づきましたが……)
(ダーリン……いえ、ナオ様と見間違えた?)
(えっ……今、何て……)
(何でもありません。続きを答えなさい!!)


リンの言葉に兵士は呆気に取られたが、彼女は頬を赤くして話を続きを促す。兵士は戸惑いながらも自分の記憶を掘り起こし、倉庫で何が起きたのかを説明する。


(そこから先はよく覚えていないのですが、確か男が話しかけてきました。最初は捕まえようとしたのですが、男の言葉を耳にする内に意識が朦朧として……気づいた時にはこの場所に居ました)
(洗脳されていた間の事は覚え居ないのですか?意識を失うとき、何か薬を嗅がされたのでは……)
(……覚えていません。ですが、男と話したときは何も臭わなかったと思います。多分ですが……)


兵士の曖昧な言葉にリンは眉をしかめ、現状では兵士を洗脳した男の正体を掴むのは難しく、仕方なく彼女は現状を打破するために台座に刻まれた文字を読み取ろうとするイヤンに視線を向けた。どうやら勇者が記した文章らしく、この世界の文字ではないので解読する事が出来ない様子であり、苛立ちの表情を浮かべながら台座を蹴りつけていた。
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