436 / 657
エルフ王国 決戦編
転移結晶の使用法
しおりを挟む
――時刻は戻り、遂に家族への説得を辞めて強硬手段に陥ったイヤンは国王の案内の元、世界樹の頂上部に存在する転移結晶が管理されている広間へと到着する。広間の中央部には石材製の台座が存在し、その上には巨大な水晶の塊が浮揚していた。台座の周囲には10個の魔法陣が展開され、天井には天使が描かれたステンドグラスがはめ込まれていた。
「なんと神秘的な……父上、これが転移結晶なのですか!?」
「そうじゃ……ここに訪れる事が許されるのは本来は国王と王位継承権を与えられた子供だけだ。お前もまだ子供の頃に一度だけ連れて来た事があるがな……」
「言われてみれば確かに見覚えがある。なるほど、これが転移結晶だったのか……!!」
兵士に抑えつけられた状国王の説明によればこの転移結晶の存在を知っているのは城内でも限られた人数しかおらず、国王も先代の王が死ぬ間際に教わったという。その先代の王も先々代から王位を引き継ぐ際に教わったらしく、王族のみが入室を許可される特別な広間らしい。
この転移結晶は元々は勇者が作り出した聖遺物だが、現在ではエルフ王国の家宝として扱われ、緊急時以外の使用を禁止された危険な代物だと伝わっていた。だからこそ国王はイヤンにその存在を知らせても使用は控えていたのだが、伝承など信じないイヤンはどのように扱えば転移結晶が発動するのかを問う。
「さあ、父上!!この転移結晶を使って我々だけでも脱出をしましょう!!」
「考え直せイヤン!!これは危険な物じゃ……迂闊に使っていい代物もではない!!」
「お兄様!!正気に戻ってください!!」
「くどいぞ!!僕は正気だ、おかしいのはお前達の方だろうが!!」
イヤンを止めようと国王とヤミンは説得するが、聞く耳持たずにイヤンは台座に近付いて転移結晶を覗き込み、周囲に並べられた魔法陣を確認する。魔法陣の大きさは人間が一人入れる程度の小規模の魔法陣だと気づいたイヤンは掌を構えると、同行した兵士の一人に立つように告げる。
「おい、そこのお前!!この上に立て!!」
「はっ!!」
唐突に声を掛けられた兵士は即座に魔法陣の上に移動すると、唐突に魔法陣が光り輝き、一本の光の線が床に表示されて台座と繋がる。それを確認したイヤンは驚くと、魔法陣の上に立った兵士が呻き声を上げた。
「うっ……!?」
「おい、どうした?」
「身体が、急に重く……魔力を吸われているような感覚が……」
「魔力……なるほど、そういう事か」
魔法陣の上に立つ兵士が体調不良を訴えると、イヤンは笑みを浮かべて魔法陣の起動方法を推理する。まず台座の周囲に存在する魔法陣はどうやら人間が立つ事で発動し、魔法陣の上に立った人間の魔力を吸い上げて台座に送り込む仕掛けで間違いない。
重要なのは魔法陣が10庫も存在する事から「生贄」は10人必要だと考え、それに兵士の疲労の具合から考えても戦闘職ではなく、魔法職の人間が最適だと考えたイヤンは即座に兵士達に命令する。
「おい、今すぐに魔術兵を呼んで来い。人数は……念のために20人だ」
「イヤン、その魔法陣は……」
「おっと、父上は黙っていて下さい。余計なことを言われると困るので、ね!!」
「むぐっ!?」
「お父様!?」
イヤンの命令を聞いて国王は止めようとするが、すぐに兵士が口元に猿ぐつわを行って口を塞ぐ。さらに命令していないのにヤミンにも同様に口を塞ぐと、邪魔にならないように広間の隅に立たせた。
「念のために魔法を使わないように注意しておけ。父上、妹よ……しばらく大人しくしていて貰おうか」
「むぐぐっ……!?」
「んん~!?」
必死にイヤンを止めようと国王とヤミンは暴れるが、数人の兵士に捕らえられては抵抗出来ず、その間にイヤンはエルフ王国の中でも優秀な魔術兵を呼び寄せようとする。だが、それを黙ってリンが見ているわけはなく、彼女は数人の兵士に囲まれながらも脱出する機会を伺う。
(イヤン王子の様子がおかしい。他人は厳しくとも家族にだけは優しい御方だったのに……それにこの兵士達も様子がおかしい。どうしてイヤン王子に協力する?)
リンは自分達を見張る兵士の様子を確認して疑問を抱き、彼等の殆どは長年の間、国王の側近として傍に仕えていた兵士や騎士達である。リンの知る彼等は国王を裏切るような性格ではなく、忠誠心の厚い者達だった。そんな彼等が王子とはいえクーデターを起こしたイヤンに従う事が信じられず、王子に聞こえないように尋ねる。
「貴方達、こんな真似が許されると思っているのですか?」
「…………」
言葉を掛けても兵士達は虚ろな瞳をリンに向けるだけで他に反応は行わず、王子に彼女の様子を報告をする事もなく待機する。そんな彼等の態度にリンは違和感をますます強く感じ、他の兵士の様子を伺うと先ほど魔法陣に立たされた兵士が妙にそわそわとしている事に気付く。
「なんと神秘的な……父上、これが転移結晶なのですか!?」
「そうじゃ……ここに訪れる事が許されるのは本来は国王と王位継承権を与えられた子供だけだ。お前もまだ子供の頃に一度だけ連れて来た事があるがな……」
「言われてみれば確かに見覚えがある。なるほど、これが転移結晶だったのか……!!」
兵士に抑えつけられた状国王の説明によればこの転移結晶の存在を知っているのは城内でも限られた人数しかおらず、国王も先代の王が死ぬ間際に教わったという。その先代の王も先々代から王位を引き継ぐ際に教わったらしく、王族のみが入室を許可される特別な広間らしい。
この転移結晶は元々は勇者が作り出した聖遺物だが、現在ではエルフ王国の家宝として扱われ、緊急時以外の使用を禁止された危険な代物だと伝わっていた。だからこそ国王はイヤンにその存在を知らせても使用は控えていたのだが、伝承など信じないイヤンはどのように扱えば転移結晶が発動するのかを問う。
「さあ、父上!!この転移結晶を使って我々だけでも脱出をしましょう!!」
「考え直せイヤン!!これは危険な物じゃ……迂闊に使っていい代物もではない!!」
「お兄様!!正気に戻ってください!!」
「くどいぞ!!僕は正気だ、おかしいのはお前達の方だろうが!!」
イヤンを止めようと国王とヤミンは説得するが、聞く耳持たずにイヤンは台座に近付いて転移結晶を覗き込み、周囲に並べられた魔法陣を確認する。魔法陣の大きさは人間が一人入れる程度の小規模の魔法陣だと気づいたイヤンは掌を構えると、同行した兵士の一人に立つように告げる。
「おい、そこのお前!!この上に立て!!」
「はっ!!」
唐突に声を掛けられた兵士は即座に魔法陣の上に移動すると、唐突に魔法陣が光り輝き、一本の光の線が床に表示されて台座と繋がる。それを確認したイヤンは驚くと、魔法陣の上に立った兵士が呻き声を上げた。
「うっ……!?」
「おい、どうした?」
「身体が、急に重く……魔力を吸われているような感覚が……」
「魔力……なるほど、そういう事か」
魔法陣の上に立つ兵士が体調不良を訴えると、イヤンは笑みを浮かべて魔法陣の起動方法を推理する。まず台座の周囲に存在する魔法陣はどうやら人間が立つ事で発動し、魔法陣の上に立った人間の魔力を吸い上げて台座に送り込む仕掛けで間違いない。
重要なのは魔法陣が10庫も存在する事から「生贄」は10人必要だと考え、それに兵士の疲労の具合から考えても戦闘職ではなく、魔法職の人間が最適だと考えたイヤンは即座に兵士達に命令する。
「おい、今すぐに魔術兵を呼んで来い。人数は……念のために20人だ」
「イヤン、その魔法陣は……」
「おっと、父上は黙っていて下さい。余計なことを言われると困るので、ね!!」
「むぐっ!?」
「お父様!?」
イヤンの命令を聞いて国王は止めようとするが、すぐに兵士が口元に猿ぐつわを行って口を塞ぐ。さらに命令していないのにヤミンにも同様に口を塞ぐと、邪魔にならないように広間の隅に立たせた。
「念のために魔法を使わないように注意しておけ。父上、妹よ……しばらく大人しくしていて貰おうか」
「むぐぐっ……!?」
「んん~!?」
必死にイヤンを止めようと国王とヤミンは暴れるが、数人の兵士に捕らえられては抵抗出来ず、その間にイヤンはエルフ王国の中でも優秀な魔術兵を呼び寄せようとする。だが、それを黙ってリンが見ているわけはなく、彼女は数人の兵士に囲まれながらも脱出する機会を伺う。
(イヤン王子の様子がおかしい。他人は厳しくとも家族にだけは優しい御方だったのに……それにこの兵士達も様子がおかしい。どうしてイヤン王子に協力する?)
リンは自分達を見張る兵士の様子を確認して疑問を抱き、彼等の殆どは長年の間、国王の側近として傍に仕えていた兵士や騎士達である。リンの知る彼等は国王を裏切るような性格ではなく、忠誠心の厚い者達だった。そんな彼等が王子とはいえクーデターを起こしたイヤンに従う事が信じられず、王子に聞こえないように尋ねる。
「貴方達、こんな真似が許されると思っているのですか?」
「…………」
言葉を掛けても兵士達は虚ろな瞳をリンに向けるだけで他に反応は行わず、王子に彼女の様子を報告をする事もなく待機する。そんな彼等の態度にリンは違和感をますます強く感じ、他の兵士の様子を伺うと先ほど魔法陣に立たされた兵士が妙にそわそわとしている事に気付く。
2
お気に入りに追加
11,309
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。