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エルフ王国 決戦編
転移結晶の使用法
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――時刻は戻り、遂に家族への説得を辞めて強硬手段に陥ったイヤンは国王の案内の元、世界樹の頂上部に存在する転移結晶が管理されている広間へと到着する。広間の中央部には石材製の台座が存在し、その上には巨大な水晶の塊が浮揚していた。台座の周囲には10個の魔法陣が展開され、天井には天使が描かれたステンドグラスがはめ込まれていた。
「なんと神秘的な……父上、これが転移結晶なのですか!?」
「そうじゃ……ここに訪れる事が許されるのは本来は国王と王位継承権を与えられた子供だけだ。お前もまだ子供の頃に一度だけ連れて来た事があるがな……」
「言われてみれば確かに見覚えがある。なるほど、これが転移結晶だったのか……!!」
兵士に抑えつけられた状国王の説明によればこの転移結晶の存在を知っているのは城内でも限られた人数しかおらず、国王も先代の王が死ぬ間際に教わったという。その先代の王も先々代から王位を引き継ぐ際に教わったらしく、王族のみが入室を許可される特別な広間らしい。
この転移結晶は元々は勇者が作り出した聖遺物だが、現在ではエルフ王国の家宝として扱われ、緊急時以外の使用を禁止された危険な代物だと伝わっていた。だからこそ国王はイヤンにその存在を知らせても使用は控えていたのだが、伝承など信じないイヤンはどのように扱えば転移結晶が発動するのかを問う。
「さあ、父上!!この転移結晶を使って我々だけでも脱出をしましょう!!」
「考え直せイヤン!!これは危険な物じゃ……迂闊に使っていい代物もではない!!」
「お兄様!!正気に戻ってください!!」
「くどいぞ!!僕は正気だ、おかしいのはお前達の方だろうが!!」
イヤンを止めようと国王とヤミンは説得するが、聞く耳持たずにイヤンは台座に近付いて転移結晶を覗き込み、周囲に並べられた魔法陣を確認する。魔法陣の大きさは人間が一人入れる程度の小規模の魔法陣だと気づいたイヤンは掌を構えると、同行した兵士の一人に立つように告げる。
「おい、そこのお前!!この上に立て!!」
「はっ!!」
唐突に声を掛けられた兵士は即座に魔法陣の上に移動すると、唐突に魔法陣が光り輝き、一本の光の線が床に表示されて台座と繋がる。それを確認したイヤンは驚くと、魔法陣の上に立った兵士が呻き声を上げた。
「うっ……!?」
「おい、どうした?」
「身体が、急に重く……魔力を吸われているような感覚が……」
「魔力……なるほど、そういう事か」
魔法陣の上に立つ兵士が体調不良を訴えると、イヤンは笑みを浮かべて魔法陣の起動方法を推理する。まず台座の周囲に存在する魔法陣はどうやら人間が立つ事で発動し、魔法陣の上に立った人間の魔力を吸い上げて台座に送り込む仕掛けで間違いない。
重要なのは魔法陣が10庫も存在する事から「生贄」は10人必要だと考え、それに兵士の疲労の具合から考えても戦闘職ではなく、魔法職の人間が最適だと考えたイヤンは即座に兵士達に命令する。
「おい、今すぐに魔術兵を呼んで来い。人数は……念のために20人だ」
「イヤン、その魔法陣は……」
「おっと、父上は黙っていて下さい。余計なことを言われると困るので、ね!!」
「むぐっ!?」
「お父様!?」
イヤンの命令を聞いて国王は止めようとするが、すぐに兵士が口元に猿ぐつわを行って口を塞ぐ。さらに命令していないのにヤミンにも同様に口を塞ぐと、邪魔にならないように広間の隅に立たせた。
「念のために魔法を使わないように注意しておけ。父上、妹よ……しばらく大人しくしていて貰おうか」
「むぐぐっ……!?」
「んん~!?」
必死にイヤンを止めようと国王とヤミンは暴れるが、数人の兵士に捕らえられては抵抗出来ず、その間にイヤンはエルフ王国の中でも優秀な魔術兵を呼び寄せようとする。だが、それを黙ってリンが見ているわけはなく、彼女は数人の兵士に囲まれながらも脱出する機会を伺う。
(イヤン王子の様子がおかしい。他人は厳しくとも家族にだけは優しい御方だったのに……それにこの兵士達も様子がおかしい。どうしてイヤン王子に協力する?)
リンは自分達を見張る兵士の様子を確認して疑問を抱き、彼等の殆どは長年の間、国王の側近として傍に仕えていた兵士や騎士達である。リンの知る彼等は国王を裏切るような性格ではなく、忠誠心の厚い者達だった。そんな彼等が王子とはいえクーデターを起こしたイヤンに従う事が信じられず、王子に聞こえないように尋ねる。
「貴方達、こんな真似が許されると思っているのですか?」
「…………」
言葉を掛けても兵士達は虚ろな瞳をリンに向けるだけで他に反応は行わず、王子に彼女の様子を報告をする事もなく待機する。そんな彼等の態度にリンは違和感をますます強く感じ、他の兵士の様子を伺うと先ほど魔法陣に立たされた兵士が妙にそわそわとしている事に気付く。
「なんと神秘的な……父上、これが転移結晶なのですか!?」
「そうじゃ……ここに訪れる事が許されるのは本来は国王と王位継承権を与えられた子供だけだ。お前もまだ子供の頃に一度だけ連れて来た事があるがな……」
「言われてみれば確かに見覚えがある。なるほど、これが転移結晶だったのか……!!」
兵士に抑えつけられた状国王の説明によればこの転移結晶の存在を知っているのは城内でも限られた人数しかおらず、国王も先代の王が死ぬ間際に教わったという。その先代の王も先々代から王位を引き継ぐ際に教わったらしく、王族のみが入室を許可される特別な広間らしい。
この転移結晶は元々は勇者が作り出した聖遺物だが、現在ではエルフ王国の家宝として扱われ、緊急時以外の使用を禁止された危険な代物だと伝わっていた。だからこそ国王はイヤンにその存在を知らせても使用は控えていたのだが、伝承など信じないイヤンはどのように扱えば転移結晶が発動するのかを問う。
「さあ、父上!!この転移結晶を使って我々だけでも脱出をしましょう!!」
「考え直せイヤン!!これは危険な物じゃ……迂闊に使っていい代物もではない!!」
「お兄様!!正気に戻ってください!!」
「くどいぞ!!僕は正気だ、おかしいのはお前達の方だろうが!!」
イヤンを止めようと国王とヤミンは説得するが、聞く耳持たずにイヤンは台座に近付いて転移結晶を覗き込み、周囲に並べられた魔法陣を確認する。魔法陣の大きさは人間が一人入れる程度の小規模の魔法陣だと気づいたイヤンは掌を構えると、同行した兵士の一人に立つように告げる。
「おい、そこのお前!!この上に立て!!」
「はっ!!」
唐突に声を掛けられた兵士は即座に魔法陣の上に移動すると、唐突に魔法陣が光り輝き、一本の光の線が床に表示されて台座と繋がる。それを確認したイヤンは驚くと、魔法陣の上に立った兵士が呻き声を上げた。
「うっ……!?」
「おい、どうした?」
「身体が、急に重く……魔力を吸われているような感覚が……」
「魔力……なるほど、そういう事か」
魔法陣の上に立つ兵士が体調不良を訴えると、イヤンは笑みを浮かべて魔法陣の起動方法を推理する。まず台座の周囲に存在する魔法陣はどうやら人間が立つ事で発動し、魔法陣の上に立った人間の魔力を吸い上げて台座に送り込む仕掛けで間違いない。
重要なのは魔法陣が10庫も存在する事から「生贄」は10人必要だと考え、それに兵士の疲労の具合から考えても戦闘職ではなく、魔法職の人間が最適だと考えたイヤンは即座に兵士達に命令する。
「おい、今すぐに魔術兵を呼んで来い。人数は……念のために20人だ」
「イヤン、その魔法陣は……」
「おっと、父上は黙っていて下さい。余計なことを言われると困るので、ね!!」
「むぐっ!?」
「お父様!?」
イヤンの命令を聞いて国王は止めようとするが、すぐに兵士が口元に猿ぐつわを行って口を塞ぐ。さらに命令していないのにヤミンにも同様に口を塞ぐと、邪魔にならないように広間の隅に立たせた。
「念のために魔法を使わないように注意しておけ。父上、妹よ……しばらく大人しくしていて貰おうか」
「むぐぐっ……!?」
「んん~!?」
必死にイヤンを止めようと国王とヤミンは暴れるが、数人の兵士に捕らえられては抵抗出来ず、その間にイヤンはエルフ王国の中でも優秀な魔術兵を呼び寄せようとする。だが、それを黙ってリンが見ているわけはなく、彼女は数人の兵士に囲まれながらも脱出する機会を伺う。
(イヤン王子の様子がおかしい。他人は厳しくとも家族にだけは優しい御方だったのに……それにこの兵士達も様子がおかしい。どうしてイヤン王子に協力する?)
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「貴方達、こんな真似が許されると思っているのですか?」
「…………」
言葉を掛けても兵士達は虚ろな瞳をリンに向けるだけで他に反応は行わず、王子に彼女の様子を報告をする事もなく待機する。そんな彼等の態度にリンは違和感をますます強く感じ、他の兵士の様子を伺うと先ほど魔法陣に立たされた兵士が妙にそわそわとしている事に気付く。
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