最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
435 / 657
エルフ王国 決戦編

クズノからの提案

しおりを挟む
『こ、この俺に何をさせる気だ!?』
『別にそれほど難しい事ではありません。そして貴方にも大きな利益がある話ですよ』
『利益だと……』
『イヤン王子、貴方がエルフ王国の国王になる時が来たのです』
『なん、だと……!?』


国王という言葉にイヤンは目を見開き、どうしてこの状況下で自分が国王になるのかと動揺を隠せないがクズノはステッキを振り回しながらイヤンに語り掛ける。


『この国はもう昆虫種によって壊滅寸前……仮に援軍が訪れたとしてもエルフ王国の軍隊ですら手に負えなかった昆虫種を他国の軍隊がどうにか出来るはずがない。それは理解していますか?』
『だ、だが……帝国にはルノがいる!!貴様等が送り込んだ土竜を殺した魔術師だぞ!?』
『ええ、確かにあの方ならばこの国を救う事が出来るでしょう。しかし、考えても見てください。どうしてあれほどの力を持つ存在が未だにここに現れないのか?』


ルノの力を知っているイヤンは彼ならば昆虫種が相手であろうと圧倒する強さを持っていると確信していた。しかし、クズノの言う通りに帝国に援軍の派遣要請を行ったが、未だにルノどころか軍隊が訪れる様子はない。


『彼の力ならば帝国からこのエルフ王国まで時間を掛けずに到着する事が出来るはずです。それこそ、あの氷の竜に乗ってすぐに駆け付ける事が出来るでしょう。なのにどうして現れないのか……それが重要です』
『何を言っている……?』
『ここまで話しても分かりませんか?帝国はあなた方を見限った。それだけです』
『馬鹿な!!帝国は我等の同盟国だぞ!?』
『あちらはそうは思っていないのではないですか?これまでにエルフ王国がどれだけ帝国に厄介事を持ち込んだと思っているんですか?無断に領地に侵入して大量の薬草の伐採、デブリ王子の儀式のために帝国の重要人物との交戦、何よりもエルフ王国で暴れていた土竜を帝国領地内に招きよせてしまった』
『くっ……全てお前達のせいではないか!!』


クズノの言葉にイヤンはこれまでのエルフ王国の失態は魔王軍の仕業である事を告げるが、クズノは悪びれもせずに彼の正論に対して詭弁を返す。


『確かにその通り、ですが帝国からすれば全ての責任が魔王軍にあると思いますか?本当にエルフ王国には何の否がないと?切っ掛けはどうであれ、貴方達は帝国に対して多大な迷惑を掛けたのは事実。そもそも薬草の伐採やデブリ王子の件は事前に帝国に協力を申し込めば良かった話です』
『ぐうっ……』
『既に帝国は貴方達を不要な存在と判断して見捨てるつもりですよ。他の二カ国と敵対しているエルフ王国に援軍がが送り込まれることはない。それとも日の国という小国に助けを求めますか?』
『…………』


イヤンはクズノの言葉に何も言い返すことが出来ず、エルフ王国とは親交がない日の国に救援を求めるなど出来るはずもなく、だからといってこのまま耐え続けても帝国からの援軍が本当に訪れるかも分からない。

冷静に考えれば考える程にイヤンは自分達の国の状況が不味い事に陥っている事を知り、一体どうすれば王国が生き残れるのか分からず、ステッキを振り回しながら自分の事を見つめるクズノに対してイヤンは助けを求めるように声を絞り出す。


『ならば……どうすればいい。お前達の目的は何だ』
『やっと自分達の状況を理解しましたか。ならば話は簡単です、貴方のやるべき事は国王の元へ訪れて自分を王位を引き継ぐことを宣言しなさい』
『俺が王位に……?』
『そうです。そして国王となった貴方が行うべき事はこの城の何処かに隠されている勇者の聖遺物を利用して脱出しなさい。そうすれば命だけは助かるはずです』
『聖遺物……そういえば前に父上から聞いたことがあるが、本当にそんな物があるのか?』
『必ず存在します。それを利用すればほんの一部の森人族が生き残れるはずです。ここから脱出を行った後、国王となった貴方が国を導くのです。その協力は私がしましょう』
『どうしてだ?お前はエルフ王国を亡ぼすといったばかりではないか』
『無論、私に服従するという条件ならば力を貸すという事です。この条件を受け入れれば魔王軍が貴方達を保護しましょう……貴方は新たな国の国王となり、同時に魔王軍の幹部として働いてもらいますよ』
『服従……だと?』
『嫌ならここで死ぬまで大人しく過ごす事です。あと数日もすればこの世界樹は昆虫種に食い尽くされるでしょうね』


服従しなければ死ぬだけだと暗に伝えてくるクズノにイヤンは歯を食いしばるが、彼の動かすステッキを見ていると不思議と頭が落ち着き、どうせ死ぬぐらいならば恥を忍んでクズノの要求を呑む事にした。


『一つだけ聞かせろ。俺が王になる、それでいいんだな?』
『約束しますよ。そうそう、既に国王の側近の兵士には話を伝えています。貴方の忠実な僕として動くでしょう』
『ちっ……何から何まで準備済みというわけか。いいだろう、お前の話に乗ってやる』
『ああ、ですが今から行動するのは止めてください。貴方にはまだ準備すべき事がある』
『なんの準備だ?』
『……この世界樹ごと昆虫種を亡ぼす手があります』


クズノの言葉にイヤンは目を見開き、そんな彼の顔を見てクズノは笑みを浮かべ、その恐るべき手段を伝えた――
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。