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エルフ王国 決戦編

その頃、エルフ王国では……

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――魔王軍によって大量の昆虫種の大群に襲撃を受けたエルフ王国では現在生きのこった民衆は世界樹と呼ばれる大樹に集まっていた。世界樹とは天まで届くのではないかと思われる程に巨大な樹木であり、今尚も成長を続ける巨木である。

エルフ王国に住む森人族は世界樹を中心に街を築き上げ、王族とその配下達は世界樹の内部をくり貫いて城の代わりに利用して暮らしていた。自然と一体化して暮らす事を信条とする森人族達は人間のような煉瓦製の建物は好まず、自然に育った木造製の建物か、あるいは大木をくり貫いて家とする事でしか暮らさない。

世界樹を囲むように形成された都には数万人の森人族が暮しいていたが、現在では半数近くの人数しか残っていない。その理由は昆虫種の大群の襲撃によって大勢の森人族が命を落とし、生き延びた者たちも世界樹に逃げ込むか国の外へ逃げ延びていた。

今現在ではエルフ王国の生き残りは全員が世界樹に集まり、昆虫種に取り囲まれた状態で他国からの援軍が到着するのを待ち続ける日々を送っていた。既にエルフ王国の軍隊は昆虫種によって壊滅状態に陥り、籠城を維持するのも限界が近い状態だった。


「父上!!このままでは我等は全滅です!!もう一刻の猶予もありません、脱出するしましょう!!」
「またその話か……」


世界樹の頂上に存在する玉座の間にてエルフ王国の国王であるミャクは、自分の息子であるイヤンの言葉に深いため息を吐き出す。数日程前から世界樹からの脱出を進言する息子に対して国王は痛む頭を抑えながら説明する。


「いい加減にせんかイヤンよ。我々はここで帝国からの援軍を待つ、そう決めたはずだぞ」
「しかし父上!!貧弱な人間が我が軍隊が敗れた昆虫種の大群に太刀打ち出来るはずがありません!!そのような援軍を待つぐらいならば我々だけでも脱出するべきです!!」
「お兄様、ですが帝国には例の魔術師様が居られますわよ?」


帝国からの援軍など期待していないイヤンに対して妹のヤミンが言い返すと、玉座の間に存在した全員の脳裏に2体の土竜を圧倒したルノの存在を思い出す。竜種を圧倒する力を持つルノならば昆虫種の大群が相手であろうと十分に対抗できるだろう。


「た、確かに奴ならば昆虫種も相手にならないだろうが……だが、既に援軍の要請をしてからどれほどの時が経過している!?もう既にナオの奴は帝国に辿り着いているはずだ!!なのに未だに援軍が訪れる気配もない!!」
「それは……そうかもしれませんけど」


イヤンの言葉に全員の顔色が変わり、エルフ王国は自分達が召喚したナオを帝国へ送り出してから既に一か月近くが経過していた。ナオが無事ならば帝国に辿り着いている事は間違いなく、帝国が援軍の派遣を行っているのならば既に到着していてもおかしくはない。


「イヤンよ、他国に軍隊を派遣するというのはそれなりに時間と準備を必要とするのじゃ。そもそも帝国は我等よりも広大な領地を持っているが、その分に土地を守るために大勢の兵士を必要とする。彼等が兵を集めるまでには時間が掛かるのは仕方ない事だ」
「父上は本当にそう思われるのですか?奴等がこの期を利用してナオを篭絡し、帝国に招き込んで我等が滅びるのを待っているとお考えにならないのですか!?」
「な、ナオ様はそのような方ではありません!!」


あまりにも失礼なイヤンの言葉にナオの恋人であり、国王の護衛騎士を任されているリンが言い返すが、イヤンは彼女の言葉に不機嫌そうに言い返す。


「ふん、たかが騎士風情が俺と父上の会話に張り込むな!!そもそも奴の事は前々から気にくわなかった……あんな貧弱な勇者に何が出来る!?」
「でも、兄上はナオ殿に何度も負けていらっしゃるのでは?」
「何だと!?貴様、誰に向かってそんな口の利き方を……で、デブリ?」


背後から聞こえてきたデブリの声にイヤンは振り返ると、そこには以前のようなオークと見間違える程の肥満体型だった弟の姿は存在せず、代わりに全身が筋肉の鎧で構成されているのではないかと思う程に見事な肉体美を誇るデブリの姿が存在した。

一体この数か月の間に彼の身に何が起きたのか、まるでボディビルダーのように露出の激しい恰好で現れたデブリに玉座の間に存在した全員が冷や汗を流し、変わり果てた息子の姿に国王は戸惑いながらも質問する。


「お、おおっ……デブリ、戻って来たのか」
「はい父上!!先ほど、樹皮を食い破って内部に侵入しようとしてきた昆虫種を1体仕留めてきました!!あ、破られた箇所は石材で封鎖してきたのでしばらくは大丈夫のはずです」
「そ、そうか……それはよくやったのう」
「ありがとうございます!!あ、これが先ほど仕留めた昆虫種の死骸です」
「ひいっ!?」


デブリは背中に抱えていた人間並みの大きさを誇る蟷螂の死骸を地面に下ろし、その死骸の頭部は力尽くで握り潰された状態だった。
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