最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
418 / 657
獣人国

閑話 〈ユニコーンの発見〉

しおりを挟む
「リーリス……?」
「いや、あの……わざとじゃないんですけどごめんなさい」
「あっ……何かすいません」


いきなり立ち上がって叫び声を上げたナオと飲み水を顔面に浴びて静かな怒りを示すジャンヌに周囲の人間達が何事かと視線を向け、慌ててウエイトレスが近寄ってくる。


「お客様、どうかされましたか!?」
「あ、すいません。何でもないです!!本当に何でも!!ちょっとテンションが高くなって大きな声を上げただけですよね!?」
「そ、そうなんです!!すいません、静かにしますので……」
「は、はあ……気を付けてくださいね」


リーリスは慌ててハンカチを取り出してジャンヌの顔を拭き、ナオはぺこぺこと謝ると酒場の人間達は呆れた表情を浮かべながらも食事を再開する。どうにか誤魔化したリーリスはナオの席に近付き、小声で問いただす。


「もう、急に騒ぐから怪しまれたじゃないですか。気を付けてくださいよ」
「す、すいません……でも、見つけたんです。ユニコーンを」
「それは本当ですか!?」
「お客様!?今度はどうしました?」
「何でもないですって!!本当にごめんさい!!」


ナオの言葉にジャンヌが大きな声を上げ、近くにいたウエイトレスが再び驚いた表情を浮かべる。慌ててナオとリーリスは口元に指を当てて静かにするように促すと、ジャンヌは恥ずかし気に頷いて口を抑えた。

これ以上に騒ぐと営業妨害とみなされて酒場から追い出される危険性もあるため、3人は他の人間に聞こえない程度の声量で話し合う。早速ナオは千里眼の能力を使用してユニコーンが存在する森の中の湖の事を話す。


「ユニコーンを見つけました。ここから東側に存在する森の中心部にある湖です」
「本当にユニコーンなんですか?ちゃんと角は確かめました?」
「間違いありません。何だか白く光り輝く水晶のような角が額にあります」
「まさか、本当に居たなんて……」


千里眼で湖の様子を確認したナオの言葉にユニコーンが実在した事が発覚し、リーリスとジャンヌは驚きを隠せない。帝国北部に本当にユニコーンが実在した事は喜ばしい事実だが、それでも疑問は残る。


「ですが、それなら王都に報告を行った兵士の言葉も事実だったのでしょうか?街の人たちがユニコーンの事を知らないのは兵士達だけが情報を秘匿しているのでは……」
「いえ、それは考えにくいですね。人間の中にはどうしても隠し事を話したくなる人物も居ます。全く情報が街の住民に広がっていないというのは不自然です」
「じゃあ、報告は偽物だったけど本当にユニコーンがこの地方に存在したという事ですか?」
「その可能性が一番高いと思います。だけど、重要なのはユニコーンを発見したという事です。これで王女様の病気を治せますよ」
「ああっ……夢みたいです」


現在は症状は押されえられているが、ジャンヌは重病を抱えており、その治療には精霊薬と呼ばれる伝説の秘薬が必要不可欠だった。そして精霊薬の制作するための最後の素材はユニコーンの角のため、何としても捕獲しなければならない。

だが、ユニコーンは危険種としても指定されているため、捕獲するには入念な準備が必要となる。しかも薬の素材として必要なのは正確にはユニコーンの「成体」のため、子供のユニコーンの角では素材としては不安が残る。


「ナオさん、ユニコーンの大きさは分かりますか?」
「えっと……うわ、何だこの大きさ、普通の馬の3倍ぐらい大きいんだけど……」
「よし!!ユニコーンの成体で間違いありませんね……」


子供のユニコーンでも普通の馬の成体と同程度の大きさだが、大人のユニコーンは3倍近くも身体が成長し、その戦闘力もサイクロプスやミノタウロスを角で一突きするだけで殺害する程に強い。場合によっては竜種よりも危険な存在に扱われ、気性も荒い個体が多い。

この面子で戦闘を挑む場合は必然的に勇者であるナオが戦い、リーリスは回復魔法で支援を行う事になる。だが、王女であるジャンヌはこれまでに野生の魔物と戦った経験がないため、戦力になる可能性は低い。ならばユニコーンを二人が倒して角を採取するという手段もあるが、現状ではユニコーンに確実に勝てるとは言い切れない。


「ナオさんの見た感じではユニコーンはどんな風に見えます?一人で倒せます?」
「いや、見ているだけで圧倒されるんだけど……正直、勝てる気がしない」
「だ、大丈夫ですか?やはり今からお父様の元へ戻り、事情を話して援軍を連れてくる方が確実なのでは……」
「いえ、そんな事をしていたら折角見つけたユニコーンも見失う可能性があります。ここは私達だけで捕獲しますよ」
「マジで?」


リーリスの言葉にジャンヌとナオは不安そうな表情を浮かべるが、そんな二人にリーリスはこの日のために作り出した薬を置く。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。