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獣人国
その頃のガルル王子は……
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――ルノ達とガウ王子が合流した頃、13番街から離れた荒野にてガルファンとガルルが同じ馬に乗って港町に向かっていた。どちらも何日もまともな食事を取っていないので痩せ細っており、ガルルに至っては半病人のように必死にガルファンに縋りつく。
「ガルファンよ……余は、喉が渇いた。水をくれ……」
「……ちっ」
ガルルの言葉に無造作にガルファンは腰に取り付けていた水筒を渡すと、ガルルは必死に蓋を開いて中身を飲み込もうとするが、数適の水が流れ落ちただけで空になってしまう。どれだけ水筒を振っても水が出ない事にガルルは乾いた唇を噛み締め、ガルファンに抗議する。
「ガルファンよ、もう水が入っていないぞ……」
「王子様が先ほどがぶがぶと飲んでいたせいですよ。もう少し進めば川が見つかるかもしれないので我慢してください」
「くうっ……何故だ、何故こんな事に……」
数日前までは大勢の兵士に身を守られ、満足な食事を取れていたにも関わらずに今の自分達の有様にガルルは悔し気な表情を浮かべる。それはガルファンも同じであり、彼の場合はガルル以上に屈辱を味わっていた。
(くそっ……どうして俺がこんな役立たずの面倒を見ないといけない!!だが、ここでこのガキを殺せば俺に後はない……)
ガルファンとしては自分に面倒をかけるガルルなど荒野に捨ておきたいところだが、腐っても王子であるガルルを見捨てれば彼は生涯国家の反逆者として指名手配されるだろう。将軍であるガルファンがガルルを見捨てれば王都に戻った所で責任の追及は逃れられず、処刑されるのが目に見えていた。
半病人のガルルを連れながらガルルが向かうのは数日前まで滞在していた港町であり、そこには少数ではあるが獣人国軍の兵士が残っている。そしてガルルによって牢屋に捕まったウォンも存在し、情けない話だがガルファンとガルルが頼れる人物はもうウォンしか存在しない。
(あの男はガルルに忠誠を誓っている。ならば奴を利用し、もう一度軍隊を立て直すのだ……そして奴にガオンを始末させればもう一度罠に嵌めればいい)
正統な大将軍であるウォンの人望は非常に厚く、この国の誰よりも戦上手で知られている。獣人国軍の大半はガオンに降伏してしまったが、それでもウォンならばなんとか出来るのではないかとガルファンとガルルは考えた。しかし、同時に将軍であるガルファンはウォンの力を借りる事に屈辱を覚える。
(やっとガオンもウォンも追い詰めたと思ったのに……あの忌々しい魔術師め!!奴さえいなければ今頃は俺がこの国の王になれたというのに!!)
自分を打ち破ったルノの事を思い出すだけでガルファンは苛立ちを隠しきれず、無意志に気に馬の手綱を握り締める。もしもルノが現れなかったら今頃は13番街を征服し、ガオンの首を討ち取った後にガルルを内密に始末して獣人国を支配する予定だったが、全ての計画がルノによって失敗してしまう。
(だが、あの奇妙な男の話が少し気になるな……奴め、何者だ?)
3日前にガルファンは牢獄に居たときに脱走の手引きをしてくれた細目が特徴的なシルクハットを被った男の事を思い出し、自分を脱走させたばかりか拘束されていたガルルも連れ出してきた「クズノ」という男の事を思い出す。
『貴方達に死なれてもらったら少し困るんですよ。もう少しだけあの方をこの地に留めてもらえませんかね?』
脱走の際にクズノが告げた言葉の意味をガルファンとガルルは理解できなかったが、クズノは二人を街の外に連れ出して馬を1頭渡した後に消えてしまう。何者なのかは不明だったが、お陰で脱走する事が出来た二人はクズノ事は気にせずに港町に向かう。
既に軍隊はガオンの管理下に置かれており、衰弱した状態のガルルの世話を見る事が限界のガルファンでは逃げる事しか出来ず、一刻も早く港町に帰還するために馬を走らせる。不思議な事に移動の最中に魔物に襲われる事はなく、二人はクズノが用意してくれた食料と水を分け合って何とかここまで来れた。
「もう少しですよ王子……ほら、街が見えてきました」
「おおっ……やっとか」
ガルファンの言葉を聞いてガルルは遠目ではあるが街が見えて笑みを浮かべ、これで命は助かったと安心してしまったのか、不意に一言呟いてしまう。
「街に戻ったら、ウォンに謝らねばならないな……やはり、大将軍を任せられるのはお前だけだと」
「っ……!?」
ガルルの何気ない言葉を聞いたガルファンは目を見開き、馬の足を止めてしまう。しかし、半ば意識を失いかけているガルルは彼の異変に気付かずに言葉を続ける。
「そもそも余が間違っていたのだ……ウォンは父上から託された忠臣、あいつ以外に大将軍を務まる男などいない。帰ったらすぐに謝らなければ……」
「……何だと」
黙って話を聞いていたガルファンは怒りの表情を浮かべてガルルに振り返り、やっとガルファンの異変に気付いたガルルは戸惑いの表情を浮かべる。
※第一巻発売を記念して本日2話目です!!
リディア「私がメインヒロインの獣人国編が書籍化されるまで何年かかるのかしら……」
カタナヅキ「多分、順調に言っても4、5年ぐらいかな……」
ルノ「そんなに!?」
「ガルファンよ……余は、喉が渇いた。水をくれ……」
「……ちっ」
ガルルの言葉に無造作にガルファンは腰に取り付けていた水筒を渡すと、ガルルは必死に蓋を開いて中身を飲み込もうとするが、数適の水が流れ落ちただけで空になってしまう。どれだけ水筒を振っても水が出ない事にガルルは乾いた唇を噛み締め、ガルファンに抗議する。
「ガルファンよ、もう水が入っていないぞ……」
「王子様が先ほどがぶがぶと飲んでいたせいですよ。もう少し進めば川が見つかるかもしれないので我慢してください」
「くうっ……何故だ、何故こんな事に……」
数日前までは大勢の兵士に身を守られ、満足な食事を取れていたにも関わらずに今の自分達の有様にガルルは悔し気な表情を浮かべる。それはガルファンも同じであり、彼の場合はガルル以上に屈辱を味わっていた。
(くそっ……どうして俺がこんな役立たずの面倒を見ないといけない!!だが、ここでこのガキを殺せば俺に後はない……)
ガルファンとしては自分に面倒をかけるガルルなど荒野に捨ておきたいところだが、腐っても王子であるガルルを見捨てれば彼は生涯国家の反逆者として指名手配されるだろう。将軍であるガルファンがガルルを見捨てれば王都に戻った所で責任の追及は逃れられず、処刑されるのが目に見えていた。
半病人のガルルを連れながらガルルが向かうのは数日前まで滞在していた港町であり、そこには少数ではあるが獣人国軍の兵士が残っている。そしてガルルによって牢屋に捕まったウォンも存在し、情けない話だがガルファンとガルルが頼れる人物はもうウォンしか存在しない。
(あの男はガルルに忠誠を誓っている。ならば奴を利用し、もう一度軍隊を立て直すのだ……そして奴にガオンを始末させればもう一度罠に嵌めればいい)
正統な大将軍であるウォンの人望は非常に厚く、この国の誰よりも戦上手で知られている。獣人国軍の大半はガオンに降伏してしまったが、それでもウォンならばなんとか出来るのではないかとガルファンとガルルは考えた。しかし、同時に将軍であるガルファンはウォンの力を借りる事に屈辱を覚える。
(やっとガオンもウォンも追い詰めたと思ったのに……あの忌々しい魔術師め!!奴さえいなければ今頃は俺がこの国の王になれたというのに!!)
自分を打ち破ったルノの事を思い出すだけでガルファンは苛立ちを隠しきれず、無意志に気に馬の手綱を握り締める。もしもルノが現れなかったら今頃は13番街を征服し、ガオンの首を討ち取った後にガルルを内密に始末して獣人国を支配する予定だったが、全ての計画がルノによって失敗してしまう。
(だが、あの奇妙な男の話が少し気になるな……奴め、何者だ?)
3日前にガルファンは牢獄に居たときに脱走の手引きをしてくれた細目が特徴的なシルクハットを被った男の事を思い出し、自分を脱走させたばかりか拘束されていたガルルも連れ出してきた「クズノ」という男の事を思い出す。
『貴方達に死なれてもらったら少し困るんですよ。もう少しだけあの方をこの地に留めてもらえませんかね?』
脱走の際にクズノが告げた言葉の意味をガルファンとガルルは理解できなかったが、クズノは二人を街の外に連れ出して馬を1頭渡した後に消えてしまう。何者なのかは不明だったが、お陰で脱走する事が出来た二人はクズノ事は気にせずに港町に向かう。
既に軍隊はガオンの管理下に置かれており、衰弱した状態のガルルの世話を見る事が限界のガルファンでは逃げる事しか出来ず、一刻も早く港町に帰還するために馬を走らせる。不思議な事に移動の最中に魔物に襲われる事はなく、二人はクズノが用意してくれた食料と水を分け合って何とかここまで来れた。
「もう少しですよ王子……ほら、街が見えてきました」
「おおっ……やっとか」
ガルファンの言葉を聞いてガルルは遠目ではあるが街が見えて笑みを浮かべ、これで命は助かったと安心してしまったのか、不意に一言呟いてしまう。
「街に戻ったら、ウォンに謝らねばならないな……やはり、大将軍を任せられるのはお前だけだと」
「っ……!?」
ガルルの何気ない言葉を聞いたガルファンは目を見開き、馬の足を止めてしまう。しかし、半ば意識を失いかけているガルルは彼の異変に気付かずに言葉を続ける。
「そもそも余が間違っていたのだ……ウォンは父上から託された忠臣、あいつ以外に大将軍を務まる男などいない。帰ったらすぐに謝らなければ……」
「……何だと」
黙って話を聞いていたガルファンは怒りの表情を浮かべてガルルに振り返り、やっとガルファンの異変に気付いたガルルは戸惑いの表情を浮かべる。
※第一巻発売を記念して本日2話目です!!
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ルノ「そんなに!?」
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