上 下
410 / 657
獣人国

牙竜VS赤毛熊

しおりを挟む
「ウガアアッ……!?」
「グガァアアアッ!!」


牙竜は赤毛熊の死骸から離れると、今度は兵士達と戦闘している残りの2体に視線を向け、樹木を破壊しながら突進する。唐突に出現した牙竜に兵士達は戸惑い、慌ててその場を離れた。


「牙竜だとっ!?退避、退避しろ!!」
「なんでこんな森の中に……うわぁっ!?」
「ガアアッ!!」


赤毛熊との戦闘を中断して兵士達は牙竜に道を開くと、牙竜は近くに存在した赤毛熊の肩に食らいつき、押し倒す。必死に赤毛熊は逃れようとしたが、下位とはいえ竜種である牙竜の力に敵わず食い千切られる。


「グガァッ!!」
「ガァアッ!?」
「ウガァッ!!」


仲間の肩を食い千切った牙竜に対してもう1体の赤毛熊が怒ったように後ろから飛び掛かり、牙竜の首元を掴む。必死に仲間を救うために牙竜を引き剥がそうとするが、自分の首を絞めつける赤毛熊に対して牙竜は尻尾を振り回して顔面を叩く。


「グガァッ!!」
「ガウッ!?」


顔面に強烈な一撃を受けた救出に向かった赤毛熊は怯んでしまい、その間にも牙竜は肩を食い千切った赤毛熊に対して牙を剥け、今度は容赦なく喉元へ食らいついた。


「アガァアアアッ!!」
「アアアアッ!?」
「うえっ……酷いな」


喉の肉を食いちぎられた赤毛熊の悲鳴が森中に響き渡り、その光景を間近で目撃したトラネコは顔をしかめ、大量の出血をしながら赤毛熊が地面に倒れ込むのを目撃する。食い千切った肉を咀嚼しながら牙竜は自分の背中から離れた最後の赤毛熊に視線を向けると、体当たりを仕掛けて近くの樹木に衝突させた。


「グガァアアッ!!」
「アウッ!?」


体当たりをまともに受けた赤毛熊は樹木に衝突して血反吐を吐き、このままでは殺されると判断して痛みを堪えて逃げようとするが、牙竜は隙だらけの獲物を逃すはずがなく背後から赤毛熊の頭部を掴んで地面に叩きつけた。


「ガアアアッ!!」
「ギャウッ!?」


逃げる隙も与えずに赤毛熊は取り抑えられ、右前脚で抑え込みながら牙竜は口元を開き、顎が外れるほどに開いた口で今度は腕に噛みつこうとした。だが、牙が触れる寸前で動作を停止させ、何かに気づいたように牙竜は洞窟に視線を向ける。

攻撃を中断した牙竜を見て周囲で様子を伺っていた兵士達は疑問を抱き、牙竜が何かに気付いたのかと全員が洞窟に視線を向けると、洞窟の奥から小柄の赤毛熊が出現して牙竜の元へ向かう。


「ガウガウッ!!」
「ッ……!?」


体長がまだ2メートルにも満たない小柄な赤毛熊は牙竜の元へ向かい、左前脚に食らいつく。しかし、頑丈な皮膚に覆われている牙竜の肉体には子供の赤毛熊では傷を与える事も出来ず、煩わしそうに牙竜が軽く突き飛ばすと赤毛熊は地面に転がる。


「ギャうッ……!?」
「ガアアアアアッ!!」


地面に倒れた子供の赤毛熊に対して牙竜は咆哮を放つと、子供の赤毛熊は怯えたように身体を震わせるが、それでも牙竜に抑えつけられている母親の赤毛熊を見て勇気を振り絞るように指先に噛みつく。


「ガウッ!!」
「グギィッ……!?」
「ガアッ……ウガァッ!!」


牙竜の指先に噛みついた子供の赤毛熊を見て抑えつけられている母親熊は逃げるように鳴き声を上げるが、子供は意地でも母親熊を助けるために牙竜に食らいつく。そんな子供を見て牙竜は何かを考え込むように視線を向け、ゆっくりと右前脚を退かして赤毛熊を解放した。


「ガアッ!!」
「ウガァッ……!?」
「ギャンッ!?」
「……見逃した?」


牙竜が母親熊と子供を解放した姿を見て兵士達は動揺し、どんな相手であろうと情け容赦なく蹂躙する存在として恐れられている牙竜が自分と敵対する赤毛熊を解放した姿を見て驚きを隠せない。それは開放された赤毛熊の母子も同じらしく、母親熊は子供を咥えると慌てて洞窟の奥へ避難した。

2体の赤毛熊が洞窟に戻った事を確認すると、牙竜は少しつまらなそうに首を振り、やがて自分の周囲に存在する兵士達に視線を向ける。赤毛熊が消えた事で今度は自分達に襲い掛かるつもりなのかと兵士は身構えるが、予想に反して牙竜は観察するように兵士達の様子を伺う。


「…………」
「ふ、副団長……どうしますか?」
「どうするも何も逃げるしかないだろ。流石にこんな化物を相手に勝てるはずがないからね……けど、こいつさっきから動く気配がないのが気になるね」
「もしかして我々を助けたのでは……?」
「馬鹿な、牙竜が人間を助けるなど有り得ない!!」
「だが、実際に我々を襲っていた赤毛熊を撃退してくれたんだぞ?もしかしたら……」


一向に襲い掛かる様子がない牙竜を見て兵士達は混乱を引き起こし、状況的に考えれば牙竜が赤毛熊を撃退した事で兵士達は命拾いした事になるのだが、やはり相手が竜種という時点で警戒を解くことが出来ず、判断に困った兵士達はこの場の指揮官であるトラネコに指示を仰ぐ。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。