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獣人国
ガウの危機
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――時刻は数分前に遡り、200人の兵士と共に待機していた獣人国の第二王子であるガウは森の中に存在する洞窟の中で過ごしていた。ほんの数週間前までは王都で何不自由のない生活を送っていたのだが、現在は各地を転々と移動しながら実の兄であるガルルの目の届かぬ場所で身を潜めていた。
「……コネコはまだ戻らないのか?」
「王子、将軍は先ほど向かわれたばかりです。そんなにすぐには帰りませんよ」
「そうか……そうだな」
洞窟の中で痩せ細った青年が深いため息を吐き出し、そんな彼を気遣うように筋骨隆々の女性が肩を叩く。彼女はコネコの副官である「トラネコ」という名前の女性騎士であり、王子の周囲には大勢の女騎士も待機していた。
女将軍であるコネコが指揮している部隊は全員が女性で統一されており、王子を除けば全ての兵士が女性である。男性の兵士が存在しないのはコネコが別に男嫌いという理由ではなく、彼女がまだ若い頃に女性という理由で将軍職に中々就かせ貰えなかった過去が原因だった。
コネコが将軍になったのは20代前半だが、彼女の功績を考えれば本来ならば10代の頃に将軍の職に就けてもおかしくはなかった。しかし、女性なのに自分達よりも手柄を上げる彼女に男性の将軍達が嫉妬し、彼女を将軍の位に昇格させたことを反対した事が原因でコネコは国王が皆の反対を押し切って将軍職に就かせてくれるまで不遇な扱いを受けてしまう。
そのため、コネコは自分のような扱いを受けさせないために優先的に国に仕えている女性兵士を部隊に招き、何時の間にか女性だけの部隊が出来上がっていた。そして彼女はガオンやウォンに次ぐ名将軍として名を馳せるようになり、国王からも信頼されて第二王子の指導役も任される。子供の頃からガウの面倒を見ているコネコはガウからも信頼され、ガオンやウォンからも一目置かれていた。
――だが、国王の死後に彼女は第一王子のガルルと対立し、ガルルの手にかかる前にガウを救出して自分の部隊と共に城を抜け出す。その後は獣人国軍の追跡を逃れながら各地の領地を任されている貴族の元へ赴き、ガウ王子の保護を願うが、既に大将軍であるウォンを味方につけたガルルを恐れて貴族たちはガウを見捨ててしまう。
ここまでに来る道中で多くの配下を失っており、ガウ自身も自分のせいで次々と兵士達が犠牲になる事に心を追い詰められていく。それでもコネコは諦めずに自分達を救ってくれる存在を探していると、風の噂でガオン将軍が強力な魔術師を味方にして獣人国軍と対立したという噂を聞きつけた。
コネコは噂の真偽を確かめるためにガオンの軍隊が拠点としている13番街に赴き、自分がガオンの元へ訪れて確かめると言って単騎で街へ向かう。その様子を見送る事しか出来なかったガウは自分の不甲斐なさに嫌気が差し、自分の安全を守る兵士達に愚痴ってしまう。
「お前達には本当に苦労を掛けるな……私のせいでこんな目に遭わせて済まない」
「今更何を言ってんですか。ここまで来たら死なばもろともですよ、あはははっ!!」
「トラネコ、お前はこういう時でも明るい奴だな……」
「だって落ち込んでても状況は何も変わらないでしょ?だったら思いっきり笑って嫌な気持ちを晴らしましょう!!ほら、王子も笑いましょうよ!!あははははっ!!」
「あ、あははっ……」
このような状況でも陽気なトラネコの言葉にガウは乾いた笑い声をあげるが、確かに彼女の言葉は一理あった。暗い状況だからといって落ち込んでばかりでは何も好転せず、何時までもくよくよとしていないで現状を打破する方法を考える事にした。
「トラネコ、礼を言うぞ。お前の言うとおりだ……落ち込んでいても前には進めない。ここはコネコを信じて待とう」
「お?やっと元気が出てきましたね。その調子ですよ王子さん!!」
「……トラネコ、敬語を使えとは言わないが、せめて王子である私をさん付けで呼ぶのはどうかと思うぞ」
王族相手であろうと馴れ馴れしく接してくるトラネコにガウは苦笑いを浮かべるが、今の状況では彼女の明るさに心が救われ、多少の無礼は我慢する事にした。だが、頭が落ち着いた事でガウは自分の今の状況に疑問を抱き、洞窟の中を見渡す。
「ところでトラネコ……さっきから気になっていたのだが、他の兵士達はどうした?」
「ん?周囲の見張りをしていますよ」
「いや、そうではなくてお前以外にも護衛の兵士が居ただろう?その者たちは何処へ消えた?」
「ああ、あいつらはこの洞窟の奥を調べさせてますよ。かなり奥まで続いているみたいですから……」
「ちょっと待て、この洞窟が安全だと確認してから私をここへ連れて来たわけではないのか!?」
トラネコの言葉にガウは慌てて洞窟の奥に視線を向け、彼はトラネコがこの場所に案内した時点で事前に洞窟の内部の安全性を確かめた後だと判断していたのだが、兵士が奥に向かったまま帰ってこないという情報を聞いて不安を抱く。
※発売日が近づいたので投稿速度を上げようと頑張りましたが、しばらくは展開を見直すために1話投稿に戻ります。
「……コネコはまだ戻らないのか?」
「王子、将軍は先ほど向かわれたばかりです。そんなにすぐには帰りませんよ」
「そうか……そうだな」
洞窟の中で痩せ細った青年が深いため息を吐き出し、そんな彼を気遣うように筋骨隆々の女性が肩を叩く。彼女はコネコの副官である「トラネコ」という名前の女性騎士であり、王子の周囲には大勢の女騎士も待機していた。
女将軍であるコネコが指揮している部隊は全員が女性で統一されており、王子を除けば全ての兵士が女性である。男性の兵士が存在しないのはコネコが別に男嫌いという理由ではなく、彼女がまだ若い頃に女性という理由で将軍職に中々就かせ貰えなかった過去が原因だった。
コネコが将軍になったのは20代前半だが、彼女の功績を考えれば本来ならば10代の頃に将軍の職に就けてもおかしくはなかった。しかし、女性なのに自分達よりも手柄を上げる彼女に男性の将軍達が嫉妬し、彼女を将軍の位に昇格させたことを反対した事が原因でコネコは国王が皆の反対を押し切って将軍職に就かせてくれるまで不遇な扱いを受けてしまう。
そのため、コネコは自分のような扱いを受けさせないために優先的に国に仕えている女性兵士を部隊に招き、何時の間にか女性だけの部隊が出来上がっていた。そして彼女はガオンやウォンに次ぐ名将軍として名を馳せるようになり、国王からも信頼されて第二王子の指導役も任される。子供の頃からガウの面倒を見ているコネコはガウからも信頼され、ガオンやウォンからも一目置かれていた。
――だが、国王の死後に彼女は第一王子のガルルと対立し、ガルルの手にかかる前にガウを救出して自分の部隊と共に城を抜け出す。その後は獣人国軍の追跡を逃れながら各地の領地を任されている貴族の元へ赴き、ガウ王子の保護を願うが、既に大将軍であるウォンを味方につけたガルルを恐れて貴族たちはガウを見捨ててしまう。
ここまでに来る道中で多くの配下を失っており、ガウ自身も自分のせいで次々と兵士達が犠牲になる事に心を追い詰められていく。それでもコネコは諦めずに自分達を救ってくれる存在を探していると、風の噂でガオン将軍が強力な魔術師を味方にして獣人国軍と対立したという噂を聞きつけた。
コネコは噂の真偽を確かめるためにガオンの軍隊が拠点としている13番街に赴き、自分がガオンの元へ訪れて確かめると言って単騎で街へ向かう。その様子を見送る事しか出来なかったガウは自分の不甲斐なさに嫌気が差し、自分の安全を守る兵士達に愚痴ってしまう。
「お前達には本当に苦労を掛けるな……私のせいでこんな目に遭わせて済まない」
「今更何を言ってんですか。ここまで来たら死なばもろともですよ、あはははっ!!」
「トラネコ、お前はこういう時でも明るい奴だな……」
「だって落ち込んでても状況は何も変わらないでしょ?だったら思いっきり笑って嫌な気持ちを晴らしましょう!!ほら、王子も笑いましょうよ!!あははははっ!!」
「あ、あははっ……」
このような状況でも陽気なトラネコの言葉にガウは乾いた笑い声をあげるが、確かに彼女の言葉は一理あった。暗い状況だからといって落ち込んでばかりでは何も好転せず、何時までもくよくよとしていないで現状を打破する方法を考える事にした。
「トラネコ、礼を言うぞ。お前の言うとおりだ……落ち込んでいても前には進めない。ここはコネコを信じて待とう」
「お?やっと元気が出てきましたね。その調子ですよ王子さん!!」
「……トラネコ、敬語を使えとは言わないが、せめて王子である私をさん付けで呼ぶのはどうかと思うぞ」
王族相手であろうと馴れ馴れしく接してくるトラネコにガウは苦笑いを浮かべるが、今の状況では彼女の明るさに心が救われ、多少の無礼は我慢する事にした。だが、頭が落ち着いた事でガウは自分の今の状況に疑問を抱き、洞窟の中を見渡す。
「ところでトラネコ……さっきから気になっていたのだが、他の兵士達はどうした?」
「ん?周囲の見張りをしていますよ」
「いや、そうではなくてお前以外にも護衛の兵士が居ただろう?その者たちは何処へ消えた?」
「ああ、あいつらはこの洞窟の奥を調べさせてますよ。かなり奥まで続いているみたいですから……」
「ちょっと待て、この洞窟が安全だと確認してから私をここへ連れて来たわけではないのか!?」
トラネコの言葉にガウは慌てて洞窟の奥に視線を向け、彼はトラネコがこの場所に案内した時点で事前に洞窟の内部の安全性を確かめた後だと判断していたのだが、兵士が奥に向かったまま帰ってこないという情報を聞いて不安を抱く。
※発売日が近づいたので投稿速度を上げようと頑張りましたが、しばらくは展開を見直すために1話投稿に戻ります。
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