最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

一騎打ち

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「一騎打ちですか……いいですよ。それなら一対一で戦いましょうか?」
「な、何だと……!?」


ルノの言葉にガルファンは動揺を隠せず、まさか魔術師であるルノが一騎打ちを受けるとは思わなかったのだろう。他の人間も同じ反応を示し、普通は魔術師が騎士が行う一騎打ちを引き受けるはずがない事だった。しかし、当のルノ本人はふざけているわけではなく、それでガルファンが納得するのならば一騎打ちを行う事を宣言する。

一騎打ちを宣言した事で自然と兵士達はガルファンとルノの元から離れ、2人は5メートルほど離れた距離で向かい合う。ガルファンは半信半疑といった表情で紅蓮を構え、その一方でルノは腕を組んだまま向かい合う。


「……貴様、本気で一騎打ちでこの俺と戦うつもりか?」
「ええ、まあ……」
「何処まで人を嘗め追って……後悔するがいい!!」


剣士と魔術師の一騎打ちの場合、基本的には剣士の方が有利とされている。決闘の条件によっては絶対的に剣士が有利というわけではないが、主に距離がそれほど離れていない状態での戦闘の場合は剣士の方が圧倒的に有利である。

理由としては剣士の方が魔術師よりも身体能力(同じレベル、あるいはレベルがそれほど離れていない場合)が高く、魔術師が魔法を発動させる前に先手を打つことが出来るため、大抵の決闘では剣士が先に動いて魔術師を抑えつければ勝利してしまう。一流野魔術師だろうと魔法の発動には一瞬の溜めを必要とするため、必然的に剣士が先に動くため迎撃で迎え撃たなければならない。

しかし、魔術師は剣士と比べて身体能力や五感が劣り、魔法を発動させる前に相手に切りつけられて敗北する場合が多い。それに比べて剣士は初撃のみに気を付ければいいので相手が魔法を発動する寸前に接近し、仕留める事に成功すれば勝利する。だからこそガルファンは相手がどれほど腕の立つ魔術師だろうと一騎打ちならば自分が負けるはずがないと判断していた。


(この男は得体が知れない……しかし、自分の腕を過信したな!!この距離ならば貴様が魔法を使う前に首を切り裂いてやる!!)


ガルファンは紅蓮を握り締めながら決闘の合図を待ち構え、号令が掛けられた瞬間に飛び出してルノの首を切り裂く準備を整える。仮にルノが魔法の類で攻撃を防ごうとしても紅蓮の力を使えば防御こそ突破する事が出来ると確信していた。


(見せてやろう、この俺の究極の戦技を!!)


兵士に目配せを行い、号令の合図を行うように指示したガルファンは剣を握り締める力を強め、自分が最も得意とする戦技の発動準備を行う。ガルファンが得意とするのは「回転」と呼ばれる戦技であり、こちらの戦技は剣士の場合は回転切りの要領で相手に剣を振り払う剣技である。


「それでは決闘を開始します!!……始めっ!!」
「うおおおおっ!!」


その場に居た兵士の一人が決闘の号令を行った瞬間、ガルファンはルノに向けて突進して紅蓮を振り払う。その様子を見たルノは直前まで動く様子を見せず、黙ってガルファンが接近するのを待つ。


(愚かな!!魔法を発動する事もせんとは!!)


ガルファンは迎撃も防御も行う様子がないルノに対して違和感を抱くが、すぐに攻撃に集中して身体を回転させながら紅蓮を振り払う。しかし、ルノは自分に向けて接近する刃を冷静に後ろに下がって回避すると、紅色の刃は虚しく空を切った。


「何っ!?このっ、ガキがっ!!」
「おっと」


まさか攻撃を回避されるとは予想していなかったガルファンは慌てて何度も刀を振るが、ルノは並外れた動体視力と反射神経で刃を回避する。紅蓮の刃は衝撃を受けると爆炎を生み出す妖刀だが、刃に触れさえしなければ普通の刀と変わりはなく、ルノは回避に専念すれば何も問題はない。

必死な表情を浮かべながらガルファンは紅蓮を放つが、帝国の将軍である剣の達人のギリョウと比べるとガルファンの攻撃は隙が多く、動作も読みやすい。だからルノは避ける事に専念すれば攻撃は掠りもせず、やがて体力が切れたのかガルファンは息を荒げながら攻撃を止めた。


「はあっ、ぜえっ……き、貴様!!」
「降参します?」
「この、ふざけるな!!」


ルノの言葉を挑発と受け取ったガルファンは意地でも攻撃を当てようとするが刃はルノに掠りもせず、その様子を観察する兵士達も騒ぎ始める。傍目から見ても二人の実力差ははっきりと分かり、このままではガルファンが体力切れを起こして倒れるのは明白だった。


「なあ、おい……将軍、もしかして本当は弱いんじゃないか?」
「な、何を言い出すんだ!?」
「だってよ、あんなガキ相手に言いようにされてるんだぜ?そもそもあの人、魔剣がなかったら将軍として認められてないんじゃないのか?」
「言われてみれば……」
「いや、相手が強すぎるだけじゃないのか?」
「でも、あのガキはどう考えても魔術師だろ?筋肉の付き方から見ても戦闘職の人間には見えねえぞ?」


遂には兵士達も二人のやり取りを見て本当にガルファンが強いのか疑問を抱き、妖刀さえ存在しなければガルファンの力量はそれほど高くないのではないかと疑われ始める。
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