最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
391 / 657
獣人国

ガルファン将軍の後悔

しおりを挟む
「何だこれは?この箱がどうした?」
「あ、将軍も居られたのですか……いえ、それよりもこの中身をご覧ください!!」
「中身だと?」


兵士が運び出してきた木箱を開いて将軍と警備隊長に中身を見せつけると、そこには凍結化された状態の武器が収納されており、凍り付いた武具を見て二人は唖然とする。


「な、何だこれは……どうして凍っている!?」
「理由は分かりません。ですが、武具の殆どは凍らされているのです!!予備として運んでいた武具の殆どがこの箱と同じ状態なんです!!」
「有り得えない!!何故こんな事が!?」


獣人国は冬の季節を迎えても気温が他の国より高く、雪が降り積もる事もないので自然に武器が凍り付いたという事は有り得ず、そもそも武具が凍り付くほどの気温ならば兵士達が無事なはずがない。考えられるとしたら何者かが武具を凍結化させた事になるが、普通の魔術師がこのような芸当が出来るはずがない。

当然、この武具の類を凍結化させたのはルノであり、軍隊に忍び込んだ際に食料の回収の他に武具が搭載された木箱の中に氷塊の魔法で生み出した氷を仕込み、頃合いを図って「絶対零度」のスキルを発動させて木箱に仕込んだ氷を利用して武具を凍結化させた。しかし、その事実を知らないガルファンと警備隊長は何が起きたのか理解できず、急いで他の物資の安全を確かめる。


「おい!!残りの食料と薬の数はどれ程残っているのだ!?」
「まだ調査中ですが、恐らく食料の方は明日の分まで持つかどうか……薬剤に関しては被害は軽微でしたが、せいぜい数百個の回復薬がある程度です」
「たった数百……だと」


5万人の兵士を総動員させた事が仇となり、獣人国軍はここまでの道中で行軍するだけでも大量の物資を消耗していた。それでも1、2週間は戦える程の準備を整えていたのだが、僅か1日で食料の殆どを奪われ、武具の類も大損害を受けてしまい、頼みの綱も薬剤自体も心もとない。

13番街のガオンの勢力や住民がどの程度の食料を備蓄しているのかは不明だが、少なくとも明日の夜には食料が尽きてしまう獣人国軍よりも食料は確保している事は間違いなく、籠城戦に持ち込めばいずれ降伏するだろうと考えていたガルファンの考えが覆る。これでは逆に獣人国軍が先に食料が尽きてしまい、追い詰められてしまう。

獣人族は普通の人間よりも食事量が多いため、もしも満足な食事を与えられなかったら過度な負荷が溜まり、精神的にも肉体的にも追い詰められる。そうなれば必然的に兵士の士気は乱れ、やがて取り返しのつかない事態に陥る可能性も高かった。


(ど、どうすればいいのだ……食料がなければ離反を考える者も現れるかもしれん。そ、そうだ!!ならば食料を集めればいいのだ!!)


籠城して街の外に抜け出せない13番街の勢力に対し、獣人国軍は街を包囲しながらも周辺の村や街から食料を調達し、荒野に生息する魔獣を狩猟する事も出来ると考えたガルファンは即座に食料確保のために兵士に命令を下す。


「今すぐに兵を集めろ!!牙竜の討伐は後回しにして食料の調達へ向かう!!」
「調達と言われましても……この地方の村や街の物資は既にガオン将軍が回収済みでは?」
「あっ……!?」


ガルファンの言葉を聞いた警備隊長は事前の密偵の報告で13番街の周辺地方の村や街には既にガオン将軍の配下や金で雇った傭兵が派遣され、住民から大量の食料や武具を強奪したという連絡は獣人国軍にも届いていた。即ち既に食料品の類をガオン将軍の配下に奪われている村や街に向かったところで食料の調達が出来るはずがない。


「い、いや……まだ余分に食料が残っている村や街があるかもしれんだろう!!仮に大部分がガオンに奪われていたとしてもまだ食料を隠し持っている奴等がいるはずだ!!住民達から食料を徴収しろ!!」
「ですが、そんな事をすれば住民の不満を買います!!それに我々は兵士です、盗賊の紛いごとなど……」
「やかましい!!このままでは我々は敗北するのだぞ!?反逆者に屈するつもりか!!」
「し、しかし……」
「これは命令だ!!俺の言う事に従えっ!!」


既にガオンによって苦しめられた住民達から更に食料を奪うように命じるガルファンの言葉に警備隊長は反対するが、このままでは獣人国軍の食料が先に尽きてしまうのも事実であり、結局は従うしかなかった。ガルファンは急遽牙竜の討伐のために集めた兵士達を今度は食料の調達のために村や街に派遣させる事を命じた。


「良いか!!今からお前達はこの周辺地域の村から食料を集めてこい!!何としても6日分……いや、1週間分の食料を用意するのだ!!そうすれば王都からの救援物資が届くはずだ!!」
「ですが、もしも住民の反抗にあった場合はどうすればいいのですか?」
「我々は国を守る立場にある!!そんな我々に抵抗する人間は非国民だ!!抵抗する者は全員力ずくでも叩き伏せろ!!」
『…………』


ガルファンの命令を受けた兵士達は彼の言葉に黙り込み、自分達に盗賊のように住民から食料を強奪しろと命じるガルファンに対して不満を蓄積する。彼等は誇り高き獣人国軍の精鋭であり、本来は守るべき立場の住民から食料を奪うという行為に兵士達は不満を抱かざるを得ない。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無能と呼ばれた魔術師の成り上がり!!

春夏秋冬 暦
ファンタジー
主人公である佐藤光は普通の高校生だった。しかし、ある日突然クラスメイトとともに異世界に召喚されてしまう。その世界は職業やスキルで強さが決まっていた。クラスメイトたちは、《勇者》や《賢者》などのなか佐藤は初級職である《魔術師》だった。しかも、スキルもひとつしかなく周りから《無能》と言われた。しかし、そのたったひとつのスキルには、秘密があって…鬼になってしまったり、お姫様にお兄ちゃんと呼ばれたり、ドキドキハラハラな展開が待っている!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。