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獣人国

ガルファンの目的

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「何度でも言うぞ!!今すぐに王子を渡し、謀反人のガオンを差し出せば住民全員の命を助けてやる!!さあ、降伏しろ!!」


再三にわたってガルファンは降伏勧告を行うが、防壁を警備する兵士達は反応を示さず、黙って様子を伺う。その彼等の態度に苛立ちを抱いたガルファンは側近として控えさせていた魔術兵の一人に声を掛け、門を指差す。


「おい、お前の魔法で攻撃をしろ」
「えっ!?いや、それは流石に……」
「いいから黙って俺の言う事を聞け!!奴らに立場の違いを教えてやるのだ……王子など居なくても俺達はどうでにもなるという事を知らしめてやらんとな」


王子が人質に取られているにも関わらずに街の攻撃を命じたガルファンに兵士達は動揺するが、彼にとって王子という存在など既にどうでもいい存在だった。



――実はガルファンの狙いは軍隊の全権を握る事であり、王子にウォンを幽閉させて自分が軍隊の指揮権を得た時点で目的を果たしている。彼の真の狙いは軍隊を操る事で自分こそが獣人国の国王に成り上がる事だった。獣人国は武力を重視する国家であり、実際に過去の歴史で忠誠を誓っていた主人を裏切って国に謀反を起こし、遂には国を征服した人間も存在した。



ガルファンは軍隊を指揮する事で邪魔ものを排除し、その過程で自分が国王になる際に邪魔となる3人の王の息子を殺して自分こそが国王を名乗る予定だった。この彼の計画はクズノによる物ではなく、あくまでもガルファンの独断なので彼の計画を知る人間はいない。

既に軍隊の指揮権を得ているガルファンにとってはガルル王子など邪魔者でしかなく、誰にも気づかれないように殺害するつもりだったが、ルノが彼を誘拐した事で計画に大きな支障をきたす。しかし、ガルルが誘拐された事を逆に利用してガルファンは13番街の住民ごと彼を殺す計画に変更する。


(奴等が降伏しなければ王子ごと殺せばいい。もしも降伏しても厄介なガオンと奴の配下を殺して王子を取り返す事が出来る。正に完璧な計画だ!!)


自分が考え抜いた隙の無い計画にガルファンは我ながら惚れ惚れとしてしまうが、そんな彼の態度に訝し気に思った兵士達は顔を見合わせる。攻撃を命じられた魔術兵はどうするべきか悩みながら杖を握り締め、街の城門に視線を向けて本当に攻撃するのかを確認する。


「ほ、本当によろしいのですか?まだ街の中には王子様が……」
「構わん!!これ以上に奴等を付けあがらせれば逆に王子様の身が危ないのだ。さあ、遠慮なくやれ!!」
「で、では……」


魔術兵は戸惑いながらも馬から降り立ち、精神を集中させて杖先に火属性の魔力を発現させ、先端に取り付けた火属性の魔石から熱線を発した。


「フレイム……カノン!!」
「おおっ!!」


火属性の魔法の中でも上位に位置する砲撃魔法が放たれ、衝突すればマダラバイソンでも一撃で仕留めきれる威力の熱線が城壁に向かう。直後に城門に激しい爆発が引き起こされ、煙が扉を覆いこむ。その光景を見てガルファンは笑みを浮かべるが、不意に違和感を抱く。


「ふうっ……危ないな」
「な、何だあれは!?」


煙が晴れた城門の前には空中を浮揚する氷鎧を装着したルノが存在し、両手を前に突き出した状態で浮かんでいた。その姿を見てガルファンは最初は理解できなかったが、すぐに魔術兵が異変を理解して驚愕の声を上げる。


「あ、有り得ない……私の魔法を受け止めた!?そんなバカな……!!」
「何だと!?どういう事だ!?」
「あの者は正面から私の魔法を受け止めて攻撃を防いだのです!!でも、そんなのあり得るはずがない……上級の砲撃魔法を受け止められる人間がいるはずがない……!!」
「そんなバカな……」


攻撃を仕掛けた魔術兵はその場でへたり込み、空中を浮かぶルノに視線を向けて恐怖の表情を浮かべる。魔術兵の中でも数人しか扱えない上級魔法を正面から受け止め、無傷で防いだルノに対して魔術兵は圧倒的な魔術師としての力量の差を思い知らされ、戦意を喪失してしまう。

その一方で城門を守るために姿を現したルノは王子が存在するにも関わらずに躊躇なく攻撃を仕掛けた獣人国軍に警戒心を抱き、これ以上に攻撃をさせないため、ガルファンに視線を向ける。氷鎧越しに視線を向けられたガルファンは全身の毛が逆立ち、異様な恐怖心を抱いて退却を命じた。


「ひ、退け!!退くのだっ!!陣に戻るぞ!!」
「あ、将軍!?」
「お待ちください!!」


ルノが何かを仕掛ける前に危険を察したガルファンは馬を走らせて本隊が築いた陣に戻り、慌てて他の兵士達は地面にへたり込んだ魔術兵を連れて将軍の後に続く。自分が何を課する前に逃走してしまったガルファンを見てルノは構えていた腕を下ろし、溜息を吐きながら城壁に帰還した。
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