最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
370 / 657
獣人国

猛虎部隊の降伏

しおりを挟む
各地に派遣していた猛虎部隊の本隊が帰還してから翌日の朝、13番街の城壁では大量の兵士と民衆が溢れかえっていた。兵士に強制的に連れ出された一般人は全員が解放され、更に運び出された大量の物資は元の街に戻す事が決まり、ついでにルノが量産した大量の食料も送り届ける準備を行う。


「食料は沢山あります!!焦らず並んで受け取ってください!!」
「怪我をされた方はこちらへ来てください!!すぐに治療を行いますので!!」
「追加分の荷物が届きました!!」


街の外では配給が行われ、大勢の人間の行列が出来上がっていた。13番街の住民だけではなく、他の村や街の人間も数多く並んでおり、その数は数万人は存在した。その様子を防壁の上からルノ達は眺め、リディアは呆れた表情を浮かべる。


「とんでもない数の人間が集まってるわね……それだけ苦しめられた人間がいると考えると複雑な気持ちになるわね」
「魔王軍に行動していた時に何十万人の人を苦しめようとしたリディアが言うと違和感あるけどね」
「……昔の話よ、もう黒歴史だから忘れなさいよ」


ルノの言葉を聞いてリディアは自分の過去の所業を思い出し、眉をしかめる。まだルノと出会う前は彼女は他人がどうなろうと知った事ではないと考えていたが、数多くの苦しんでいる人々を目の当たりにすると自分の行為の愚かさに罪悪感を抱く。


「ちょっとあんた、そんな所でサボってないでこっちの仕事を手伝いな!!まだまだ運び出す荷物はあるんだからね!!」
「くそっ……どうして俺がこんなことを」
「そこのあんたも文句を言ってないでさっさと荷物を運びな!!たくっ、碌に使えない奴だね!!」


防壁の下では配給用の食料が詰め込まれた布袋を運ぶミルとガインの姿もあり、二人以外にも大勢の街の住民が荷物の運搬を手伝っていた。勿論、このような事態を引き起こした要因である猛虎部隊の兵士達も参加しており、彼等は自分達が奪い取った物資を送り返す作業に集中していた。


「なあ……どうしてこんな事になったんだ?泣く子も黙る猛虎部隊の精鋭である俺達がどうしてこんな事を……」
「仕方ないだろ……逆らえば何をされるか分からないんだ。それにガオン将軍の命令だぞ」
「でも、俺は少しだけ安心したかな。一般人から無理やり食料や金品を奪うなんて盗賊みたいな事なんてもう二度とやりたくねえよ」
「……俺もだよ」


帰還した猛虎部隊の兵士達は今度は回収した物資を返却するために派遣された村や街に送り返される事が決まり、ガオンの指示の元で彼等は大量の荷物を今度は連行した民衆の力を借りずに送り届ける事になった。一部の人間は自分達の扱いに不満を抱くが、今回の命令を下したのはガオンではなく彼に指示を与えたルノだと知ると文句を言う事も出来ない。

昨夜にルノの力を思い知らされた猛虎部隊の兵士達は彼には絶対にか敵わない事を悟り、更に将軍であるガオンが屈服した時点で猛虎部隊はルノに降伏した事に等しい。逆らおうにも荒野の一帯を凍り付かせたり火の海へと変えたルノの力を思い知らされた彼等に戦うという手段は考えられなかった。


「あいつらも随分と大人しくなったわね……でも、正直に言えばあんたが魔法を使えばぱぱっと荷物を運び出せるんじゃないの?」


兵士の様子を見て不意に疑問を抱いたリディアがルノに話しかけるが、彼女の言葉を聞いたルノは首を振る。


「そんな事をすれば兵士達の罰にならないでしょ。それに俺達は別の用事があるんだから、ここにはもう長居出来ないよ」
「わうっ?お兄さんとお姉さんは何処かへ行っちゃうんですか?」


会話の途中で聞きなれた女の子の声が響き渡り、何時の間にか存在したのかワン子が階段を駆け上がって二人の元へ訪れる。今日は両親の姿も見えず、買い物の途中なのか背中には大量の果物が入った籠を背負っていた。


「あれ、ワンちゃん?どうしたのこんな所で?」
「実はお母さんから買い物を頼まれたんですけど、お兄さんとお姉さんの匂いがしたのでここに来ました!!」
「相変わらず鼻がいいわね。ねえ、ちなみに私達の匂いってどんな感じなの?」
「ルノのお兄さんは向日葵のような匂いです!!リディアのお姉さんは……血の滴る生肉のような匂いです!!じゅるりっ……」
「どんな匂いよ!?あんた、私を食べる気!?」
「あはははっ」


ワン子の言葉にリディアは突っ込むと、その様子を見ていたルノは笑い声をあげ、最初の頃と比べるとリディアも随分と丸くなった事が伺える。だが、そんな3人の元に暗い表情を浮かべたガオンが姿を現す。


「おおっ……やっと見つけたぞ」
「あ、ガオンのおじさんです」
「む、お前は……い、いや、貴方様はワン子殿か」
「……殿?」


ガオンはワン子の姿を見て慌てて言い方を変え、その場に跪く。そんなガオンの行動に3人は首を傾げるが、未だにルノ達が連れているワン子の事を獣人国の第一王女だと勘違いしたままのガオンは態度を改める。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。