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獣人国

説得

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「そんなに俺達の話が信じられませんか?それなら、ガオン将軍をこの場に連れてくれば納得しますか?」
「な、何だと……?」
「もう一度聞きます。ガオン将軍を連れてくれば話を聞いてくれますか?」
「……い、いいだろう。本当にガオン将軍を連れてこれるのならばな」


ルノの言葉に部隊長は冷や汗を流しながらも頷き、相手の承諾を得たルノはリディアに振り返ると頷き、この場を彼女に任せて飛翔術を利用して街へ向かう。


「じゃあ、今から呼んでくるので待っていてください」
「待つだと……うおっ!?」
「と、飛んだ!?」


兵士達の目の前でルノは空の上に飛び立ち、まずは防壁で警護を行っている民衆の元へ向かう。彼等は空を飛んで訪れたルノに戸惑うが、今は余計な問答をしている暇はないのでルノは用件だけを尋ねる。


「ガオン将軍は何処ですか?」
「え、あ、あの……」
「い、今こちらに向かっているはずです!!少し前に迎えの馬車を向かわせました!!」


唐突に訪れたルノに対して警備兵と民衆は混乱するが、尋ねられた質問に対して慌てて答える。既にガオンがこちらに移送されているという言葉にルノは防壁の上から街の様子を調べ、観察眼の能力を発動させてそれらしき馬車を捜索し、それらしき馬車を発見して防壁から飛び立つ。


「見つけた!!」
「え、あの……うわぁっ!?」


防壁の上から再び空に飛んだルノは馬車の元へ向かい、馬車の進行方向に降り立つ。上空から突然現れたルノに御者は慌てて馬を引き留め、馬車はルノの前に止まる。


「うわっとと……あ、危ないだろうが!!一体何の真似だ!?」
「あ、ごめんなさい……でも、急いでるんです。すいませんけどこの中にガオン将軍は居ますか?」
「は、はあっ……?何を言ってるんだお前……」


突如として空から舞い降りてきたルノに対して御者は戸惑うが、外から聞こえてきた声に反応して馬車の中に乗り込んでいたガオンが窓から身を乗り出し、顔を出す。


「おい、今の声はあの鎧男か?」
「見つけた!!」
「む、なんだこのガキは……うおっ!?」


ルノの素顔を知らないガオンは窓から顔を出して氷鎧を装着した状態のルノを探すが、声の主が人間の少年だと気づいて疑問を抱くが、説明している暇はないのでルノは馬車の扉を力尽くで引き剥がすとガオンの身体を掴む。


「じゃあ、この人を連れて行きますから!!詳しい事情は防壁を守っている人達に聞いて下さい!!」
「え、ちょっと!?そいつを何処へ連れて行く気だあんた!?」
「いだだだっ!?おい、髭を掴むな!?」


ガオンの顎髭を掴んだ状態で無理やりに馬車から降ろすと、ルノはガオンの後ろ側に回り込み、彼の両肩を胴体を抱きしめるように掴むと飛翔術を利用して浮上する。


「じゃあ、行くよ!!舌を噛まないように気を付けてね!!」
「うおぁあああああっ!?」
『えええっ!?』


巨体のガオンを持ち上げた状態で空を高速移動するルノの姿を見て街の住民達は驚愕と困惑が入り混じった声を上げ、置いてけぼりにされた御者は唖然とした表情を浮かべて見送るしかなかった。


「しっかり掴まってください!!多分、落ちたら死にますよ!!」
「あががががっ!?」


正面からの風圧にガオンは大口を開いてしまい、髪の毛も髭も逆立ってしまう。やがて防壁を潜り抜けて先ほどの場所に到着すると、ルノは速度を落としてガオンを降ろす。


「到着……ほら、連れてきましたよ!!」
「ぐええっ……」
『…………』


余りの出来事に付いていけずに人が変わったように意気消沈したガオンをルノが差し出すと、部隊長を含めた兵士達は自分達が仕える主人の姿を見て黙り込む。


「ぐふっ……げほげほっ!!し、死ぬかと思った……い、一体何が起きたのだ」
「ほら、ガオンさんからも話して下さい。貴方の部下が戻ってきたんですよ」
「ま、待て……吐き気が止まらん。少し待ってくれ……うぷっ!!」
「ちょ、ここで吐くのは止めなさいよ!?ああもう……ほら、あそこに岩陰があるから吐いてきなさいよ!!」
「す、すまん……うおぇえええっ……!!」
『…………』


人目に付かないように岩陰に移動して嘔吐するガオンの姿を確認し、普段の彼の勇ましい姿を知っている猛虎部隊の兵士達にとっては信じられない光景であり、獣人国最強の将軍の情けない姿を見て現実が受け入れられない。


「しょ、将軍……ですか?」
「ま、待て……まだ終わっていない、うぷっ!?」
「…………」


部隊長が恐る恐る岩陰に隠れるガオンに話しかけるが、返ってきた言葉は威厳を微塵も感じさせない弱弱しい声音に部隊長は黙り込み、やがて頬を赤くしてルノに怒鳴りつけた。


「こ、こ、こんな奴が将軍のはずがないだろうがぁああっ!!貴様、偽物を連れてきたな!!」
「ええっ!?」
「あちゃ~……」


予想外の部隊長の反応にルノは驚くが、隣のリディアはこのような反応を薄々と予感していたのか頭を抑える。
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