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獣人国
帰還部隊
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「もう無暗に人は脅かさない!!分かった?」
「ク、クゥ~ンッ……」
「牙竜が犬みたいな鳴き声を出して怯えてる……」
ルノに頬をは叩かれた牙竜は怯えたように身体を縮こまらせ、その様子を見たリディアは冷や汗を流す。まさか凶悪な竜種を素手でしかも魔術師の職業の人間が抑えつけるなど有りえず、改めてルノの規格外さを思い知らせる。
「よし、それなら今日からは君はキバ君だ。ごめんね、叩いちゃって……」
「ガアッ」
「しかも懐いているし……」
キバと名付けられた牙竜はルノに頬を撫でられるとくすぐったそうな声を上げ、圧倒的な強者を前にして完全に屈服したのか拾い上げられた犬のように懐いてしまう。長い舌を出してルノの顔を嘗めやり、頭を押し付ける姿にリディアは頭を抑えた。
「はあっ……あんたといると驚きすぎてその内に心臓発作を起こしそうになるわ」
「大丈夫だよ。その時は電撃で心臓マッサージするから」
「止めなさいよそんな拷問!?全く……ほら、背中に乗せなさい。街に帰るわよ」
「ガアアッ……」
リディアの命令に仕方がないとばかりに牙竜は彼女を背中に乗せ、街の方角へ向けて駆け出させる。その後にルノも氷板を作り出して後を追い、牙竜と並走して移動を行う。
「ガアアアッ!!」
「うわ、ちょっ、もうちょっと静かに走りなさいよ!?」
「でも早いよ。俺の氷板と殆ど同じ速度だ」
牙竜は竜種の中では下位の存在ではあるが、その移動速度に関しては他の竜種を勝り、空を飛ぶ火竜でさえも本気で逃走する牙竜を捕まえる事は出来ない。だが、乗り心地に関しては振り落とされないようにしがみつくしかないため、リディアは必死に背中に張り付く。
「うぷっ……久々に乗ったから酔ってきたわ」
「大丈夫?俺のに移る?」
「平気よ!!というか、あんたの乗り物は冷たいから嫌なのよ!!」
「冷気は出来るだけど抑えてたんだけど……そんなに嫌だったの?」
ルノが作り出す氷自動車は空を移動できるので振動はあまり伝わらないが、リディア曰く氷の塊に乗り込むので毛布の類を身に着けていなければ長時間の滞在は出来ず、牙竜の背中の方がまだ安心できるという。一応はルノも氷塊の魔法の冷気を抑えてはいたが、他人にとってはそれでも十分に寒いらしい。
「ウガアアッ!!」
「あ、こら!?そっちじゃないわよ!!何処へ行く気よ!?」
「あっ……あっちの方に大きな猪がいる。お腹すいたのかな?」
「餌なら後で用意するから命令を聞きなさいよ!?」
だが、牙竜は移動の最中に丸々と肥え太った魔獣を発見して方向転換を行い、食欲に従うままに襲い掛かろうとする。慌ててリディアが命令を下して下がらせようとするが、牙竜は聞く耳を持たずに猪の元へ向かう。移動中はリディアの意識が乱れるせいで命令の影響力も弱まるらしく、暴れ馬のように勝手に動き回る牙竜に振り回されてしまう――
――同時刻、無事に二人が牙竜を従えさせた頃に13番街の方でも異変が起きており、最初に異変に気付いたのは街を取り囲む城壁の上に見張り役を行っていた兵士達だった。彼等は街を守る警備兵であり、元々はこの街の出身の兵士だったのでガオンの配下ではなく、街を守るためにむしろ彼の命令に反対していた人間達だった。
ガオンは自分に逆らう街の警備兵の殆どを刑務所に送り込んだが、ルノ達の活躍によって警備兵は全員解放され、本来の職務に復帰していた。兵士が存在しなければ街を守る者もいなくなるので彼等の解放は民衆も反対せず、むしろこれからは共に戦う仲間として協力してくれていた。
「お、おい見ろ!!遂に奴等が戻ってきやがったぞ!!」
「すぐに街長に知らせろ!!それと戦える奴等は呼んで来い!!」
「くそ、もう戻ってきたのか!?」
だが、防壁を警備していた兵士達の視界に街に向けて接近する兵士の大群の光景を確認し、慌てて城門を閉じる。そして街の中の人間達に危機を知らせるために街長の元に伝令兵が送り込まれ、兵士以外の人間でも戦える者は防壁の上に集まる。
「ガオンが派遣していた部隊が戻ってきたぞぉっ!!」
「すぐに刑務所からガオンを連れてこい!!なんとしてもこの街を守るんだ!!」
「俺たちの街は俺たちが守る!!もうこいつらの好き勝手にはさせないぞ!!」
反乱に加担した民衆も集まり、ガインの指導を受けて戦闘の基本を学んだ人間達は警備兵と共に防壁の守護を行う。そして刑務所に監禁されているガオンを呼び出し、彼を人質にして交渉を持ち掛ける準備も整える。
「あの鎧の人と魔物使いの姉ちゃんは何処に行った!?一緒に戦ってくれれば百人力なんだが……」
「駄目だ、あの人は食料集めに行ってから帰ってきていない」
「甘ったれた事を言うな!!俺達を救ってくれた恩人をこれ以上巻き込めるか!!あの人抜きでも俺はやるぞ!!」
「お、おおっ!!」
ルノ達の協力を得られずとも街を守る事を決意した警備兵と民衆の士気は高く、各地に派遣して必要な物資を集めて戻ってきたガオンの部隊に対抗するため、彼等は籠城戦の用意を整えた――
「ク、クゥ~ンッ……」
「牙竜が犬みたいな鳴き声を出して怯えてる……」
ルノに頬をは叩かれた牙竜は怯えたように身体を縮こまらせ、その様子を見たリディアは冷や汗を流す。まさか凶悪な竜種を素手でしかも魔術師の職業の人間が抑えつけるなど有りえず、改めてルノの規格外さを思い知らせる。
「よし、それなら今日からは君はキバ君だ。ごめんね、叩いちゃって……」
「ガアッ」
「しかも懐いているし……」
キバと名付けられた牙竜はルノに頬を撫でられるとくすぐったそうな声を上げ、圧倒的な強者を前にして完全に屈服したのか拾い上げられた犬のように懐いてしまう。長い舌を出してルノの顔を嘗めやり、頭を押し付ける姿にリディアは頭を抑えた。
「はあっ……あんたといると驚きすぎてその内に心臓発作を起こしそうになるわ」
「大丈夫だよ。その時は電撃で心臓マッサージするから」
「止めなさいよそんな拷問!?全く……ほら、背中に乗せなさい。街に帰るわよ」
「ガアアッ……」
リディアの命令に仕方がないとばかりに牙竜は彼女を背中に乗せ、街の方角へ向けて駆け出させる。その後にルノも氷板を作り出して後を追い、牙竜と並走して移動を行う。
「ガアアアッ!!」
「うわ、ちょっ、もうちょっと静かに走りなさいよ!?」
「でも早いよ。俺の氷板と殆ど同じ速度だ」
牙竜は竜種の中では下位の存在ではあるが、その移動速度に関しては他の竜種を勝り、空を飛ぶ火竜でさえも本気で逃走する牙竜を捕まえる事は出来ない。だが、乗り心地に関しては振り落とされないようにしがみつくしかないため、リディアは必死に背中に張り付く。
「うぷっ……久々に乗ったから酔ってきたわ」
「大丈夫?俺のに移る?」
「平気よ!!というか、あんたの乗り物は冷たいから嫌なのよ!!」
「冷気は出来るだけど抑えてたんだけど……そんなに嫌だったの?」
ルノが作り出す氷自動車は空を移動できるので振動はあまり伝わらないが、リディア曰く氷の塊に乗り込むので毛布の類を身に着けていなければ長時間の滞在は出来ず、牙竜の背中の方がまだ安心できるという。一応はルノも氷塊の魔法の冷気を抑えてはいたが、他人にとってはそれでも十分に寒いらしい。
「ウガアアッ!!」
「あ、こら!?そっちじゃないわよ!!何処へ行く気よ!?」
「あっ……あっちの方に大きな猪がいる。お腹すいたのかな?」
「餌なら後で用意するから命令を聞きなさいよ!?」
だが、牙竜は移動の最中に丸々と肥え太った魔獣を発見して方向転換を行い、食欲に従うままに襲い掛かろうとする。慌ててリディアが命令を下して下がらせようとするが、牙竜は聞く耳を持たずに猪の元へ向かう。移動中はリディアの意識が乱れるせいで命令の影響力も弱まるらしく、暴れ馬のように勝手に動き回る牙竜に振り回されてしまう――
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ガオンは自分に逆らう街の警備兵の殆どを刑務所に送り込んだが、ルノ達の活躍によって警備兵は全員解放され、本来の職務に復帰していた。兵士が存在しなければ街を守る者もいなくなるので彼等の解放は民衆も反対せず、むしろこれからは共に戦う仲間として協力してくれていた。
「お、おい見ろ!!遂に奴等が戻ってきやがったぞ!!」
「すぐに街長に知らせろ!!それと戦える奴等は呼んで来い!!」
「くそ、もう戻ってきたのか!?」
だが、防壁を警備していた兵士達の視界に街に向けて接近する兵士の大群の光景を確認し、慌てて城門を閉じる。そして街の中の人間達に危機を知らせるために街長の元に伝令兵が送り込まれ、兵士以外の人間でも戦える者は防壁の上に集まる。
「ガオンが派遣していた部隊が戻ってきたぞぉっ!!」
「すぐに刑務所からガオンを連れてこい!!なんとしてもこの街を守るんだ!!」
「俺たちの街は俺たちが守る!!もうこいつらの好き勝手にはさせないぞ!!」
反乱に加担した民衆も集まり、ガインの指導を受けて戦闘の基本を学んだ人間達は警備兵と共に防壁の守護を行う。そして刑務所に監禁されているガオンを呼び出し、彼を人質にして交渉を持ち掛ける準備も整える。
「あの鎧の人と魔物使いの姉ちゃんは何処に行った!?一緒に戦ってくれれば百人力なんだが……」
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「甘ったれた事を言うな!!俺達を救ってくれた恩人をこれ以上巻き込めるか!!あの人抜きでも俺はやるぞ!!」
「お、おおっ!!」
ルノ達の協力を得られずとも街を守る事を決意した警備兵と民衆の士気は高く、各地に派遣して必要な物資を集めて戻ってきたガオンの部隊に対抗するため、彼等は籠城戦の用意を整えた――
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