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獣人国
食料の配給
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「ふむ、この果物は獣人国ではあまり見かけない代物ですね。よろしければ味見しても構いませんか?」
「どうぞ、いっぱい余っているので遠慮しないでください」
「すいません、有難くいただかせてもらいます。あむっ……おお、これは美味い!?」
ケンは果物にかぶりつくと歓喜の声を上げ、そのまま夢中に果物をかじりつく。やがて芯だけが残ると彼は満足そうに頷き、口元に果汁を付けた状態で感動したようにルノの両手を握りしめる。
「これは素晴らしい!!こんなに美味しい果物を食べたのは久しぶりです!!一体どこで手に入れたのですが?」
「それは……ちょっと、言いにくいんですけど」
「おっと、これはすいません。これほどの品物の入手元をこのような場所で話せるはずがありませんね。ですが、この果物ならば売り物としても十分でしょう」
「そうなんですか?」
「ちなみにこの果物はどの程度の量を保有していらっしゃるのですか?」
ルノは異空間内に預けていた果物の量を思い出し、海獄島に存在した全ての果物は持ち帰っている。量に関してもルノが魔法を使えば果物の種を急成長させて何度でも収穫できるため、質量に関しては限度はない。
「そうですね……多分、この街の人たち全員に渡せる程の量はあると思いますよ」
「な、なんと……それは本当の話ですか?」
「ちょっと、そんな事を言って大丈夫なの?この街の人間がどれくらいいると思っているのよ?海獄島の囚人達よりずっと多いのよ?」
「わふ?囚人……?」
「いや、何でもないよワン子ちゃん……ちょっと、もう少し声を抑えてよ」
「うっ……今のは私が悪かったわ」
海獄島や囚人の事を迂闊に口にしたリディアに耳が良いワン子は首を傾げ、事情を話すわけにはいかないのでルノはリディアに注意する。そんな二人のやり取りに不思議に思いながらもケンは提案を行う。
「失礼ですがお二人はすぐに大金が必要なのですか?時間を掛ければ私がこの街の友人に頼んで果物の売買を協力してもらう事も出来ますが、今は街がこのような状態なので商売も上手くいくか分かりません。しかし、確実に短期間で目標金額の金貨を集められる方法もあります。最もこちらの方法は本当に目標金額分程度の稼ぎしか得られないと思いますが……」
「回りくどいわね……どんな方法よ?」
「お二人はこの13番街の街長の事はご存じですか?」
「昨日の夜に顔を合わせてますけど……」
ケンの言葉にルノとリディアの脳裏に昨夜に遭遇した老人を思い出す。人の好さそうな顔立ちの男性であり、後で聞いた話によればこの街の住民からも慕われている存在らしい。その街長がどうかしたのかとルノは問うと、ケンは彼に協力があればすぐに大金が得られる事を説明する。
「この街は現在食料不足の危機に陥っています。周辺の村や街も同様の状態なので救援を求める事も難しい状態です。しかも兵士の凶行によって金銭の類も徴収されています。もしもこの状態で商売を始めたとしても上手くはいかないでしょう」
「それならどうすればいいのよ」
「そこで街長に協力してもらい、お二人の所有する果物をこの街の住民に配給という形で与えるのはどうでしょうか?」
「配給?」
「街長ならばお二人が欲する金額の程度の金銭を持っているでしょう。そして街長としても住民達の食料を欲しているはずです。この方法ならばお二人が商売をする必要もなく、食料を引き渡せばすぐに資金を得られるはずです」
街長の協力があればルノ達は果物を利用してわざわざ商売を始める必要もなく、商人と契約するような面倒な手続きも要らない。さらに街長としても当面の住民達の食料を得られるというのであれば有難い話であり、ケンの予想では十中八九は断られることはないという。
確かにルノとしても大量の果物を持ち合わせた所で自分達が当面食べる分だけの量を確保すれば余りものはいらず、異空間に預けていれば腐る事はないとはいえ持て余す必要性もない。正直に言えば果物だけの食事もルノ達は飽き飽きとしており、それならば食料に困っている街の人間に無料とは言わないが格安の値段で渡す方が効率的だと考えたルノはケンの提案を受け入れる。
「そうですね、確かにその方法なら俺たちは必要な額のお金は稼げるし、この街の人たちにも利があるならその方法が一番だと思います」
「でも、本当にそれでいいの?時間を掛ければもっとお金を稼げるかもしれないわよ?」
「別にお金稼ぎが目的じゃないからいいよ。それにこの街の人たちも放っておけないし、俺は別にいいよ」
「申し訳ありません、正直に言えばこの話はあまりルノ様の利の方が少ないかもしれません……ですが、他に方法はないと思います」
話を聞く限りでは双方に得があるように思えるが、実際の所は食料を提供するルノの方が利が少ない。時間さえあれば街の住民を相手に商売を行い、大金を稼ぐ事も出来たかもしれないが、時間を惜しむルノはケンの提案を受け入れ、早急にミルから指定された金額の金貨を得るために街長の元へ向かう。
「どうぞ、いっぱい余っているので遠慮しないでください」
「すいません、有難くいただかせてもらいます。あむっ……おお、これは美味い!?」
ケンは果物にかぶりつくと歓喜の声を上げ、そのまま夢中に果物をかじりつく。やがて芯だけが残ると彼は満足そうに頷き、口元に果汁を付けた状態で感動したようにルノの両手を握りしめる。
「これは素晴らしい!!こんなに美味しい果物を食べたのは久しぶりです!!一体どこで手に入れたのですが?」
「それは……ちょっと、言いにくいんですけど」
「おっと、これはすいません。これほどの品物の入手元をこのような場所で話せるはずがありませんね。ですが、この果物ならば売り物としても十分でしょう」
「そうなんですか?」
「ちなみにこの果物はどの程度の量を保有していらっしゃるのですか?」
ルノは異空間内に預けていた果物の量を思い出し、海獄島に存在した全ての果物は持ち帰っている。量に関してもルノが魔法を使えば果物の種を急成長させて何度でも収穫できるため、質量に関しては限度はない。
「そうですね……多分、この街の人たち全員に渡せる程の量はあると思いますよ」
「な、なんと……それは本当の話ですか?」
「ちょっと、そんな事を言って大丈夫なの?この街の人間がどれくらいいると思っているのよ?海獄島の囚人達よりずっと多いのよ?」
「わふ?囚人……?」
「いや、何でもないよワン子ちゃん……ちょっと、もう少し声を抑えてよ」
「うっ……今のは私が悪かったわ」
海獄島や囚人の事を迂闊に口にしたリディアに耳が良いワン子は首を傾げ、事情を話すわけにはいかないのでルノはリディアに注意する。そんな二人のやり取りに不思議に思いながらもケンは提案を行う。
「失礼ですがお二人はすぐに大金が必要なのですか?時間を掛ければ私がこの街の友人に頼んで果物の売買を協力してもらう事も出来ますが、今は街がこのような状態なので商売も上手くいくか分かりません。しかし、確実に短期間で目標金額の金貨を集められる方法もあります。最もこちらの方法は本当に目標金額分程度の稼ぎしか得られないと思いますが……」
「回りくどいわね……どんな方法よ?」
「お二人はこの13番街の街長の事はご存じですか?」
「昨日の夜に顔を合わせてますけど……」
ケンの言葉にルノとリディアの脳裏に昨夜に遭遇した老人を思い出す。人の好さそうな顔立ちの男性であり、後で聞いた話によればこの街の住民からも慕われている存在らしい。その街長がどうかしたのかとルノは問うと、ケンは彼に協力があればすぐに大金が得られる事を説明する。
「この街は現在食料不足の危機に陥っています。周辺の村や街も同様の状態なので救援を求める事も難しい状態です。しかも兵士の凶行によって金銭の類も徴収されています。もしもこの状態で商売を始めたとしても上手くはいかないでしょう」
「それならどうすればいいのよ」
「そこで街長に協力してもらい、お二人の所有する果物をこの街の住民に配給という形で与えるのはどうでしょうか?」
「配給?」
「街長ならばお二人が欲する金額の程度の金銭を持っているでしょう。そして街長としても住民達の食料を欲しているはずです。この方法ならばお二人が商売をする必要もなく、食料を引き渡せばすぐに資金を得られるはずです」
街長の協力があればルノ達は果物を利用してわざわざ商売を始める必要もなく、商人と契約するような面倒な手続きも要らない。さらに街長としても当面の住民達の食料を得られるというのであれば有難い話であり、ケンの予想では十中八九は断られることはないという。
確かにルノとしても大量の果物を持ち合わせた所で自分達が当面食べる分だけの量を確保すれば余りものはいらず、異空間に預けていれば腐る事はないとはいえ持て余す必要性もない。正直に言えば果物だけの食事もルノ達は飽き飽きとしており、それならば食料に困っている街の人間に無料とは言わないが格安の値段で渡す方が効率的だと考えたルノはケンの提案を受け入れる。
「そうですね、確かにその方法なら俺たちは必要な額のお金は稼げるし、この街の人たちにも利があるならその方法が一番だと思います」
「でも、本当にそれでいいの?時間を掛ければもっとお金を稼げるかもしれないわよ?」
「別にお金稼ぎが目的じゃないからいいよ。それにこの街の人たちも放っておけないし、俺は別にいいよ」
「申し訳ありません、正直に言えばこの話はあまりルノ様の利の方が少ないかもしれません……ですが、他に方法はないと思います」
話を聞く限りでは双方に得があるように思えるが、実際の所は食料を提供するルノの方が利が少ない。時間さえあれば街の住民を相手に商売を行い、大金を稼ぐ事も出来たかもしれないが、時間を惜しむルノはケンの提案を受け入れ、早急にミルから指定された金額の金貨を得るために街長の元へ向かう。
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