最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

獣人国

ガインとガオンの対処法

「おい、気を付けろ……こいつは盗賊の職業だ。この程度の縄なら抜け出す事も出来るぞ」
「え？そうなんですか？」
「なっ……てめえ！？」
「ふんっ！！隙を突いて逃げるつもりだったんだろうが、生憎と貴様だけは許さんぞ……共に地獄に堕ちようではないか」
「く、くそったれがぁっ！！」


事前に能力をばらされたガインは一か八か「縄抜け」の能力を発動させて両手と両足の縛り付けられた縄から逃れるが、当然だがルノが先に彼の頭を掴む。


「おっと、逃がしませんよ」
「ぎゃああっ！？」
「い、今のは……縄抜けだと！？」
「本当に盗賊だったのか……俺達には剣士だと言い張っていたくせに！！」
「職業まで騙していたのか！！」


盗賊にしか扱えない能力を披露した事でガインの職業が盗賊であると判明し、住民達は更に激怒する。彼は自分の職業を偽って戦闘訓練の指導をした事になり、次々と発覚したガインの嘘に住民達は彼を袋叩きにしようとした。


「もう我慢できねえ！！やっちまえ！！」
「そうだそうだ！！」
「ぶっ殺せ！！」
「あ、それは駄目です」
「うおおっ！？」


我を忘れてガインを殴りつけようとした住民達に対してルノは掌を構えて制止すると、彼を自分達の味方だと思い込んでいた住民は慌てふためく。ルノの行動にガインもガオンも同じく困惑し、どうしてルノが庇ったのか理解できない。


「お、おい……あんた、何の真似だよ？こいつが何を仕出かしたのか分かってるのか？」
「ええ、まあ……でも、このままだと殺されそうなので止めました」
「こいつは殺されて当然の事をしただろうが！！」
「そうかもしれませんね。だけど、殺すのは駄目です。他の方法で罰を与えてください」
「そ、そうは言ってもよ……」


ガインが人々を騙して自分だけ逃げようとしたのは事実であり、彼に罰を与えるという点はルノも賛成だった。しかし、このまま彼を住民に引き渡せば殺されてしまう可能性が高く、自分のせいで死人が出るのは嫌がったルノは別の方法でガインに罰を与えるように伝える。


「どんな理由があろうと、人殺しは駄目です。そんな事をすれば貴方達だって辛い思いをするはずです」
「そんなの構うもんか！！こいつは殺されても文句を言えない奴なんだぞ！！」
「本当にそう思っているんですか？」
「あ、いや……それは、その……」


怒鳴り返した男性にルノは振り返ると、尋ね返された男性はルノの気迫に威勢がなくなり、他の住民も本能的にルノに逆らえなかった。人間でありながら獣の特徴も継いでいる獣人族だからこそ生存本能が鋭く、圧倒的な力を持つ存在を目の前にすれば怯えるのも無理はなかった。


「確かにガインさんは悪い事をしました。でも、結果的にガインさんの指導で貴方達が兵士に立ち向かう術を身に付けたのも事実ですよね？」
「それはそうだけどよ……」
「勿論、この人が皆さんからお金を得ていたのは事実です。それ相応の対価を払っているんだからその事で恩を感じる必要はないかも知れません。でも、もしもそのお金を何十倍にも返すと言ったらどうですか？」
「金を返す？」
「ガインさんの罪はこの街に償う事だと思うんです。だからこの人にはこの街に残って働かせたらどうでしょうか？」
「な、何だと！？」


予想外のルノの言葉にガインは目を見開き、住民達も困った風にルノとガインを交互に見渡す。ルノの意見も分からなくはないが、片足が義足で年齢も若いと言えないガインに出来る事は限られており、今までに指導料として渡していた金銭の数十倍の額を借金させるとしても返済までにどれ程の時間が掛かるのか分からない。それこそ一生掛けても支払えるか分からないだろう。


「ちょ、ちょっと待てよ！！俺の身体を見ろよ！？こんな状態の俺に何が出来るって言うんだ！？」
「義足が無くても片足だけ逃げ出そうとした時点で実は本当は十分に動けるんでしょう？それに盗賊の職業の人間はどんな鍵も開錠出来ると聞いてますから、ここは鍵屋にでもなったらどうですか？」
「ふざけんなっ！！そんな真似が出来るか！！」
「……じゃあ、仕方ありませんね。それなら街の人達の気が済むようにしてください」
「え、ちょっ……ま、待ってくれ！？」


拒否を示すガインに対してルノは住民に引き渡そうとすると、彼は慌ててルノの足元に縋り付き、怒りを露わにした住民達に伝える。


「分かった！！もうどんな事でもするから、命だけは助けてくれぇっ！！」
『…………』


情けなく命乞いを行うガインに住民達は顔を見合わせ、あまりにも惨めな姿に怒りも収まり、仕方なく彼等はガインの件は金銭の返却という形で許す事にした。


「あの、ちょっといいですか？」
「ん？貴方は？」


ガインを引き剥がそうと足元に手を伸ばしたルノに対し、一人の男性が近寄る。小髭族のように立派な髭を生やした初老の男性は自分がこの街の代表である事を話す。


「申し遅れました、私はこの１３番街の街長を務めるアオンです」
「街長……？それは村長みたいな役柄ですか？」
「え、ああっ……まあ、そうですね。他の国の方には聞きなれない役職かもしれませんが……」


初めて聞く単語にルノは疑問を覚え、街長を名乗るアオンは村を収めるのが村長のように街を収めるのは街長であると伝える。