上 下
338 / 657
獣人国

ガインの嘘

しおりを挟む
「流石に地下の方はまだ大丈夫ね。でも、早々に立ち去った方がいいわね」
「そうだね。なら、早く脱出しないと……」
「ぐぐぐっ……!!」


抵抗も出来ずにガオンはルノに担がれるままに地下牢にまで運び込まれ、非常に癪な事ではあるがこのまま外まで運び出されるまで大人しく連行される事を決めた。ここで逆らえば燃え盛る建物内に取り残される可能性があり、そうなれば命が助かる保証はない。


(くっ……この屈辱、必ず晴らすからな!!)


ルノに肩で担がれたままガオンは憎々し気に睨みつけるが、そんな彼の態度に気付いた素振りも見せずにルノ達は牢屋に入る。先にガインが脱出しているので扉に鍵の類は施されておらず、3人は彼の情報通りに一番奥の牢屋に向かう。


「あいつの話によるとこの牢の中に脱出路があるはずらしいけど……ちょっと待って、嘘でしょう?こんな小さな穴から脱出しろっていうの!?」
「うわ、もしかしてこの穴が脱出路なの?」


一番奥の牢屋の隅には子供が一人通れる程度の小さな穴が存在し、脱出路を作り上げたのが大人でも人間の子供の背丈程度しか存在しない小髭族ドワーフのため、想定していたよりも脱出路に繋がる穴の大きさが小さい。これではワン子はともかく、ルノ達が通り抜けるにはあまりにも小さかった。


「ふざけんじゃないわよ!!こんな小さな穴でどうやって脱出しろというのよ!?」
「でも、この穴だとガインさんも通れないし……もしかして別の場所に脱出路があるんじゃないの?」
「……いや、それはないわね。ガインの職業は盗賊なのよ。あいつならこれぐらいの穴でも通り抜けられるわ」
「こんなに小さい穴なのに!?」


穴の規模を考えても成人男性のガインが先に脱出したとは思えないが、リディアによれば盗賊の職業の人間は特殊な技能スキルを習得しており、彼女の推理ではガインは先に穴を抜けて外に脱出したと確信した。


「盗賊の人間は自分の関節を外して狭い場所を潜り抜ける「蛇動」というスキルがあるのよ。だから潜入という能力に関してはもしかしたら暗殺者よりも優れているかもしれないわ」
「関節を外すって……」
「まあ、見た目はきもいけど確かに便利なスキルよ。子供の頃にあいつが酒に酔っぱらった時によく見せてくれたわ。本物の蛇のように手や足を使わずに身体をくねらせていどうしていたわ」
「匍匐前進みたいな能力なのかな……」


リディアの推測ではガインがこの穴から抜け出した事は間違いなく、当然だが「蛇動」を習得していないルノ達が真似して穴の中を潜り抜ける事は出来ない。だが、この中で最も小さいワン子ならば脱出路を通じて移動する事は出来る。


「わぅんっ!!ワン子ならこの穴の中を入る事が出来ます!!外に脱出して他の大人の人に皆さんを助けて貰うように説得してきます!!」
「むぐっ……!?」
「う~ん……でも、外の人達に助けを求めてもどうにかなるのかな?」


ワン子が外の住民へ救助を求める事を進言するが、仮に住民にルノ達の存在を知らせた所で救出のために向かえに行く人間が現れる可能性は低い。既に建物内の地下牢を除く場所には炎が広がっていると考えるべきであり、下手に救助を求めれば被害が増す可能性も高い。


「しょうがない、ここは俺の魔法でどうにかするよ。要するにこの穴を掘り進めばいいんでしょ?」
「それはそうだけど……どうするつもりよ?」
「どうやら穴の中は地面に繋がっているようだし、土塊の魔法で土砂を掻き分けながら移動すれば何とかなると思う」


ルノは牢屋の穴を拡大化するために両手を構えると、まずは中身の土砂を操作するために土塊の魔法を発動させて脱出路の道幅を拡大化させる事に集中した。


「よし、こんな感じかな?」
「あんた、本当に何でもできるのね」
「わふっ!?穴が大きくなりました!?」
「ふががっ……!?」


出入口の穴を破戒して脱出路を確保すると、ルノが先頭に移動して土塊の魔法で土砂を操作して道幅の規模を変化させ、その後にリディアとワン子が後に続く。本当ならばもっと簡単に外に抜け出す方法はあるのだが、先に逃げたガインを追いかけるためにルノは敢えて彼が通った脱出路を利用して外へ向かう。


(何なのだこの男は!?それに先ほどから声を聞く限り、まだガキではないか……!?)


移動中、ガオンは自分を担ぐルノに違和感を抱き、分厚い甲冑(氷鎧)に覆われているのでガオンは彼の事を成人男性だと思い込んでいた。しかし、声音を聞く限りではまだ少年のような幼さが感じられ、しかも普通の魔術師が扱う砲撃魔法ではなく、誰もが扱える初級魔法を巧みに利用している事に疑問を抱く。


(こいつ、本当に何者だ?待て、そういえば先ほどの小娘が自分の名前を「ワン子」と言っていたような……まさか!?行方不明の王女か!?という事はこいつは王女の護衛を任された魔術師なのか!?)


獣人国の王女である「ワン子」と同じ名前を語る少女、そして彼女と共に行動を行う得体の知れない魔法の力を扱うルノに対してガオンはとんでもない勘違いをしてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。