最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

ガインの嘘

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「流石に地下の方はまだ大丈夫ね。でも、早々に立ち去った方がいいわね」
「そうだね。なら、早く脱出しないと……」
「ぐぐぐっ……!!」


抵抗も出来ずにガオンはルノに担がれるままに地下牢にまで運び込まれ、非常に癪な事ではあるがこのまま外まで運び出されるまで大人しく連行される事を決めた。ここで逆らえば燃え盛る建物内に取り残される可能性があり、そうなれば命が助かる保証はない。


(くっ……この屈辱、必ず晴らすからな!!)


ルノに肩で担がれたままガオンは憎々し気に睨みつけるが、そんな彼の態度に気付いた素振りも見せずにルノ達は牢屋に入る。先にガインが脱出しているので扉に鍵の類は施されておらず、3人は彼の情報通りに一番奥の牢屋に向かう。


「あいつの話によるとこの牢の中に脱出路があるはずらしいけど……ちょっと待って、嘘でしょう?こんな小さな穴から脱出しろっていうの!?」
「うわ、もしかしてこの穴が脱出路なの?」


一番奥の牢屋の隅には子供が一人通れる程度の小さな穴が存在し、脱出路を作り上げたのが大人でも人間の子供の背丈程度しか存在しない小髭族ドワーフのため、想定していたよりも脱出路に繋がる穴の大きさが小さい。これではワン子はともかく、ルノ達が通り抜けるにはあまりにも小さかった。


「ふざけんじゃないわよ!!こんな小さな穴でどうやって脱出しろというのよ!?」
「でも、この穴だとガインさんも通れないし……もしかして別の場所に脱出路があるんじゃないの?」
「……いや、それはないわね。ガインの職業は盗賊なのよ。あいつならこれぐらいの穴でも通り抜けられるわ」
「こんなに小さい穴なのに!?」


穴の規模を考えても成人男性のガインが先に脱出したとは思えないが、リディアによれば盗賊の職業の人間は特殊な技能スキルを習得しており、彼女の推理ではガインは先に穴を抜けて外に脱出したと確信した。


「盗賊の人間は自分の関節を外して狭い場所を潜り抜ける「蛇動」というスキルがあるのよ。だから潜入という能力に関してはもしかしたら暗殺者よりも優れているかもしれないわ」
「関節を外すって……」
「まあ、見た目はきもいけど確かに便利なスキルよ。子供の頃にあいつが酒に酔っぱらった時によく見せてくれたわ。本物の蛇のように手や足を使わずに身体をくねらせていどうしていたわ」
「匍匐前進みたいな能力なのかな……」


リディアの推測ではガインがこの穴から抜け出した事は間違いなく、当然だが「蛇動」を習得していないルノ達が真似して穴の中を潜り抜ける事は出来ない。だが、この中で最も小さいワン子ならば脱出路を通じて移動する事は出来る。


「わぅんっ!!ワン子ならこの穴の中を入る事が出来ます!!外に脱出して他の大人の人に皆さんを助けて貰うように説得してきます!!」
「むぐっ……!?」
「う~ん……でも、外の人達に助けを求めてもどうにかなるのかな?」


ワン子が外の住民へ救助を求める事を進言するが、仮に住民にルノ達の存在を知らせた所で救出のために向かえに行く人間が現れる可能性は低い。既に建物内の地下牢を除く場所には炎が広がっていると考えるべきであり、下手に救助を求めれば被害が増す可能性も高い。


「しょうがない、ここは俺の魔法でどうにかするよ。要するにこの穴を掘り進めばいいんでしょ?」
「それはそうだけど……どうするつもりよ?」
「どうやら穴の中は地面に繋がっているようだし、土塊の魔法で土砂を掻き分けながら移動すれば何とかなると思う」


ルノは牢屋の穴を拡大化するために両手を構えると、まずは中身の土砂を操作するために土塊の魔法を発動させて脱出路の道幅を拡大化させる事に集中した。


「よし、こんな感じかな?」
「あんた、本当に何でもできるのね」
「わふっ!?穴が大きくなりました!?」
「ふががっ……!?」


出入口の穴を破戒して脱出路を確保すると、ルノが先頭に移動して土塊の魔法で土砂を操作して道幅の規模を変化させ、その後にリディアとワン子が後に続く。本当ならばもっと簡単に外に抜け出す方法はあるのだが、先に逃げたガインを追いかけるためにルノは敢えて彼が通った脱出路を利用して外へ向かう。


(何なのだこの男は!?それに先ほどから声を聞く限り、まだガキではないか……!?)


移動中、ガオンは自分を担ぐルノに違和感を抱き、分厚い甲冑(氷鎧)に覆われているのでガオンは彼の事を成人男性だと思い込んでいた。しかし、声音を聞く限りではまだ少年のような幼さが感じられ、しかも普通の魔術師が扱う砲撃魔法ではなく、誰もが扱える初級魔法を巧みに利用している事に疑問を抱く。


(こいつ、本当に何者だ?待て、そういえば先ほどの小娘が自分の名前を「ワン子」と言っていたような……まさか!?行方不明の王女か!?という事はこいつは王女の護衛を任された魔術師なのか!?)


獣人国の王女である「ワン子」と同じ名前を語る少女、そして彼女と共に行動を行う得体の知れない魔法の力を扱うルノに対してガオンはとんでもない勘違いをしてしまう。
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