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獣人国

ガインとガオン

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「貴方がどう言い繕うとこの街の人達を騙した事に変わりはないし、自分だけ特をしていますよね。リディアの言う通りにそれは間違いだと思います」
「わぅんっ!!泥棒はいけない事です!!」
「まあ、私達も人の事は言えないんだけどね……」
「うるせえ!!こんな好機を逃がせるはずがないだろうが!!」


3人の言葉にガインは悪びれもせずに怒鳴り返し、氷鎧の状態のルノに近づいて彼の胸元を叩く。ガインとしては自分だけが悪者扱いされる事に納得できず、事情も知らない人間に悪党呼ばわりされる謂れはなかった。


「言っておくが俺がいなければこの街の奴等は何も出来ずに軍隊の奴等に好き勝手にさせるだけだろうが!!戦う術も知らない奴等を俺がどれほど苦労して鍛え上げたと思っている!?」
「だからそれは貴方の言い分でしょう?結果的には街の人達からお金を貰っておいて、自分だけがこの街や他の街から集められた金品を独り占めにしている時点で貴方は間違っています。もしも自分が正しいならこの街の人達に全部本当の事を話せるんですか?」
「ぐうっ……!?」


ルノの言葉にガインは黙り込み、流石に街の連中に自分の行動を全て話せるはずがなく、リディアは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「ふんっ!!こんな子供に言い負かされるなんてあんたも堕ちたわね。それでも元将軍なのかしら?」
「てめえっ!!その話は止めろと言っただろうが!?」
「将軍?」
「こいつは傭兵になる前は将軍を務めていたのよ。まあ、部下に支払うはずの給金を誤魔化して自分の懐に入れていたのがばれて解雇されたらしいけどね」
「え、なら悪い人だったんですか?」
「こ、このガキ……!!」


昔からガインは色々と問題を起こしていたらしく、リディアから言わせれば根っからの「小悪党」の気質らしい。大きな犯罪は侵さないが、他の人間に気付かれるか気付かれない程度の小さな犯罪を繰り返す癖があるらしく、昔から金に汚いので同僚からは嫌われていたという。


「ちっ!!いいから黙ってついて来い!!言っておくが、俺が盗んだ事を街の連中に言いふらしたらお前等を殺すからな!!」
「やれるものならやってみなさいよ。どうせ後悔する事になるわよ……確実に」


ガインの言葉にリディアは苦笑いを浮かべ、竜種を従えていた自分でもどうしようも出来なかったルノをガインがどうにか出来るとは思えず、外に出て後悔するのはガインの方である事を確信する。しかし、今は建物を脱出するために彼に従い、地下牢へ続く通路を移動する。


「くぅんっ……何だか苦しくなってきました」
「かなり火が回っているからな……煙を吸わないように気を付けないと」
「くそがっ……お前等と言い争いしていたから思ったよりも時間が掛かっちまった。ほら、この階段を下りれば地下牢に入れる」
「この通路……薬品庫がすぐ近くにあるわね」


駐屯所の地下牢に続く階段は薬品庫に続く通路の途中に存在し、ガインが階段を下りる様に急かす。炎は地下までには広まっておらず、煙は上に向かうので地下の方が安全かもしれない。


「おら、さっさと来い!!天井が崩壊して崩れる前に逃げるぞ!!」
「その前に脱出路は何処に繋がっているのか教えなさいよ。まさかこの建物の敷地内に出るんじゃないでしょうね?」
「安心しろ、この駐屯所の隣に存在する空き家の敷地だ」


脱出路は地下牢の奥に存在する牢屋の壁から抜け出せるらしく、ガインを先頭に全員が地下に続く階段を降りようとした時、通路側から轟音が響き渡る。


「何だ!?何の音だ!?」
「まさか、建物が崩壊を始めたの!?」
「いえ……誰がかこっちに向けて走ってきてます!!」
「誰か?」


通路側から鳴り響く轟音に気付き、この中で最も聴覚に優れているワン子によると音の正体が「足音」だと判明し、不思議に思ったルノは彼女を下ろして通路の様子を伺う。そして燃え盛る通路の中から姿を現したのは全身に軽い火傷を負いながらも右肩に大理石の柱を抱えた大男が現れた。


「ぜえっ……はあっ……な、何者だ貴様等!!」
「お前は……ガオン!?まだ生きていたのか!?」


現れた大男の正体に気付いたガインは顔色を青くさせ、その一方でガオンの方もガインの顔を見て驚いた表情を浮かべるが、すぐに憎々し気な表情を浮かべる。


「貴様……見覚えがあるぞ!!俺が将軍になる前にこき使ってくれたガインだな!!」
「へ、へへっ……そ、そんな事もありましたかな?」


先程までの威勢はどうしたのかガオンと相対するとガインは媚びへつらう様に口調を変えて後退り、階段を振り返る。二人は昔は同じ職場で働いていたが、ガオンはガインに対して大きな恨みを抱いていた。


「貴様の事は一度も忘れたことはないぞ!!俺が上げた功績を自分の手柄と称して上層部に報告していたそうだな!!それに俺に支払われる給金の半分近くも奪いおっていたと聞いているぞ!!」
「そ、そうでしたっけ?何分、昔の事なのでよく覚えてなくて……」


ガオンの激怒した表情を見てガインは顔色を青くさせ、どうにか誤魔化そうとしたが状況的に言い訳できるはずがなく、しかも運が悪い事に上着の中に隠していた小袋の一つが地面に落ちてしまう。
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