最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
335 / 657
獣人国

ガインの目的

しおりを挟む
「くっ……本格的に不味くなってきたな。おい、今は喧嘩している場合じゃないんだぞ!!俺に付いて来い!!」
「リディア、このままだと俺達も危ないと思うけど」
「あんたの魔法でどうにか出来るんじゃないの?」
「下手に俺が魔法を使えば建物が崩壊するかも知れないけど……」


ルノの魔法ならば火災でも容易く防げるのではないかとリディアは考えていたが、予想以上に火災の進行速度が速く、建物の耐久性も限界に近付いている。このような状態で強力な魔法を発動させれば建物が崩壊する危険性も高いため、ルノとしてもガインの提案には賛成だった。


「よし、そっちの鎧の奴は真面なようだな。ならさっさと俺に付いて来い!!焼け死ぬ前に抜け出すぞ!!」
「仕方ないわね……」
「わぅうっ……」


ガインの言葉に渋々とリディアは従い、ワン子は炎を怖がるようにルノの背中に張り付く。完全に通路が火の海と化す前にガインの案内の元、全員は外へ繋がる脱出口へ向かう。


「正面扉と裏口はもう駄目だ。だから地下の牢獄に向かうぞ」
「牢獄?どうしてそんな所に向かうんですか?」
「ふっ……少し前に俺の知り合いの傭兵が馬鹿をやって兵士に掴まった事があってな、そいつは自力で牢獄から脱出するために壁を掘り進めて地上へ繋がる脱出路を作り出したんだ。そこから外へ逃げるぞ」
「はあ!?そんな脱出路なんてすぐに見つかって取り壊されるに決まってるでしょ!?」
「生憎だが俺は何度かその脱出路を利用してこの駐屯所に潜り込んだ事がある。巧妙に隠されているから兵士達も気付いていないんだよ。ちなみにその脱出路を作り出したのは小髭族だ。奴等の手先は器用だからな……簡単に見つかるような脱出路なんて用意しねえんだよ」


地下の牢獄から脱出するというガインの話に対してルノ達は半信半疑だが、話している間にも建物に炎が広がり、言い争う余裕もない。ルノ達はガインの後に続いて地下牢へ向かう途中、リディアはどうしてガインがこの街に滞在しているのかを尋ねる。


「ねえ、どうしてあんたがここに居るのよ?それにさっきの奴等……一体何を企んでいるのよ」
「俺が何か悪巧みしているような言い方は止めろ……この街に連中には世話になっているからな、だから色々と手助けしてやったんだよ」
「嘘ね。あんたが無償で人助けするなんて有り得ないわ。しかも相手が腐ってもこの国の軍隊なら尚更よ」
「……昔から勘のいいガキだな」


リディアの質問にガインは眉を顰め、仕方がないとばかりに身に付けていた上着をはだける。何の真似かとルノ達は驚いたが、すぐにガインが上着の下に紐で括り付けた小袋を身に付けている事に気付く。それを見たリディアは察しがついたのか鋭い視線を向け、ガインは気まずそうに上着を戻す。


「あんた……まさか!?」
「お前の言う通りだ。俺の目的はこの駐屯所内に隠されている金庫の中身だよ。ここには住民共から回収した金品が集まっているからな……どうにか奴等を利用して文字通りに火事場泥棒をしたわけさ」
「相変わらず人を利用するのが好きなようね……この悪党」
「てめえに言われる筋合いはねえんだよ。魔王軍なんて訳の分からない連中とつるんでいる癖に偉そうに抜かすな!!」
「まあ、確かに……」
「うぐっ!?」


ガインを非難するリディアではあるが、彼女も魔王軍の幹部として王国軍を罠に嵌めて大勢の人間を殺害しようとした事実は存在し、決して人の事は言えない。それでも善良な市民を先導して自国の軍隊と争わせ、その間に自分だけが金品を回収するというガインの行動も褒められる事ではない。


「ふんっ!!例の侵入者というのはお前等の事だろ?無計画に駐屯所に突っ込むなんて無謀な真似をする馬鹿が居るとは思わなかったがな、そのお陰で俺の計画が予定よりも早まったじゃねえか」
「何よ偉そうに!!何の罪もない人間を利用して置いて偉そうに言うんじゃないわよ!!」
「言っておくが俺だってこの街の住民には世話になっているんだ。だから奴等の望み通りに戦闘術を教えたり、訓練も見てやったんだ。そのお陰であいつらも自信を身に付けたし、見事に軍隊の奴等を蹴散らしたんだぞ?恨みを抱かれる筋合いはねえな」
「でも、その人達からお金を貰っていたら話は別ですよね?」
「ああっ!?」


自分の行動を正当化しようとするガインの言葉に流石にルノも黙っておけず、彼に質問を行う。


「ガイン……さんがこの街の住民の人達に戦う術を教えていたとしても、それは無償で教えて居たんですか?お金も貰わずに戦えない人達の訓練を見ていたんですか?」
「あ、当たり前だろうが……」
「嘘ね、どうせあんたの事だから指導料とか言い付けて金を巻き上げていたんでしょ?」
「そうなんですか?」
「う、うるせえ!!当然の報酬だろうが!!」
「いや、そんなの不公平ですよ。だってこの街の人達からも巻き上げたお金をガインさんは一人で盗み出そうとしたんでしょ?自分だけが得をしているのなら貴方の行動は正しいとは思えません」
「て、てめえ……!!」


ルノの正論にガインは怒りを抱くが、実際に彼が盗み出した金品の中には13番街の住民から強奪された金銭も含まれている。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。