最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

怒りのガオン

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――大金を払って傭兵が逃走し、大勢の住民が駐屯所に押し寄せてくるという事態に対し、ガオンは怒りを抑えきれずに柱に拳を叩きつける。大理石製の柱に亀裂が走り、それでも怒りが収まらないガオンは柱を蹴りつけて粉々に吹き飛ばす。その光景を見た側近の兵士は怯え、怒りに身を任せるままにガオンは怒鳴り散らす。


「くそっ!!どいつもこいつも……どうしてこうなった!!」
「落ち着いて下さい将軍!!事態は一刻も争います!!すぐに建物から逃げましょう!!」
「逃げるだと、この俺が!?相手は戦も知らない愚かな民衆共だぞ!!」
「しかし、建物はもう囲まれています。このままでは……」
「ふんっ!!ならば俺が出向くまでよ……ぬんっ!!」


ガオンは破壊した大理石の柱を持ち上げ、そのまま肩に担ぐ。その姿に側近の兵士達は呆気に取られるが、ガオンは柱を抱えながら扉へ向かう。


「この俺の手で逆らう者は叩き潰してやる……お前達も付いて来い!!」
「ほ、本気ですか!?」
「そんな無茶な……ぐあっ!?」
「やかましいぞ」


正気とは思えないガオンの発言に側近の一人が止めようとしたが、ガオンは自分に逆らおうとした兵士の顔面を掴み、片腕で持ち上げる。捕まった兵士もガオンと同じく熊型の獣人族だが、万力のような握力で握りしめられて逆らう事も出来ない。


「この俺の言う事を聞けないというのならここで殺す……分かったか?」
「っ……!!」
「よし、ならば俺に続け」
「ぶはぁっ!?」


手放された兵士は地面に倒れこみ、苦悶の表情を浮かべるがガオンは気にも留めずに扉に向かう。そんな彼の様子を見て側近達は逆らう事は出来ないと判断し、無謀と思える彼の行動に仕方なく付き添う。


「将軍!!その、何処に向かわれるのですか?」
「知れた事よ!!見つけた奴から片っ端に叩きのめす。馬鹿な民衆共でも数人を血祭にあげたら大人しくなるだろう。そして奴等に自分達の立場を思い知らせるのだ」
「ですが、例の侵入者はどうされるのですか?」
「ちっ!!当然見つけ次第に殺す!!行くぞ!!」


完全に頭に血が上って冷静さを失っているガオンは最初に抱いていた警戒心も消えてしまい、建物内に入り込んできた全員を力尽くで叩き潰すために動く。


「いいか!!貴様等も俺の部下ならば黙って従え!!奴等全員を追い払い、侵入者を排除すれば報酬も約束してやる!!俺に付いて来い!!」
『は、はい!!』


不安がないわけではないがガオンの言葉を聞いて兵士達も覚悟を決め、彼の後に続く。だが、下の階に続く階段の前に移動すると、ガオンは鼻をひくつかせて立ち止まる。


「……何だこの臭いは?」
「将軍!!こ、これは……!?」


人間よりも嗅覚に優れた獣人族である彼等は階下から漂う臭いに気付き、違和感を抱く。しかし、すぐに臭いの原因を突き止め、ガオンは目を見開いた。


「この焦げ臭いにおい……まさか、奴等この建物に火を放ったのか!?」
「そんなっ!?」
「まさか俺達ごと焼き殺す気か!?」


下の階から漂ってきたのは何かが燃えるような臭いであり、慌ててガオン達は階段を駆け下りる予想通りというべきか、既に二階の通路に火の手が回っていた。


「も、燃えている……放火されんだ!!」
「将軍!!このままでは我々も危険です!!」
「ぐうっ……落ち着け、この程度の事で取り乱すな!!」


まさか建物を放火される程に恨まれているとは思わなかったガオンは表情を引きつらせながらも脱出手段を考える。正直に言えば窓から地上に飛び降りる事も訳はないが、この駐屯所は捕まえた犯罪者の脱走を防止するために3階の広間以外には窓は設置されていない。また、壁を破壊して抜け出す事も出来なくはないが、既に裏庭にも火が回っていれば飛び降りるのも出来ない。


「くそっ!!お前達、すぐに脱出するぞ!!」
「はい!!あ、ですが何処に逃げれば……」
「ここから近い出入口は正面扉だな!?すぐに向かうぞ……いや、待て!!」


ガオンは兵士を連れて建物から脱出を考えたが、ここで重要な事を思い出す。それはこれまでに軍隊を利用して民衆から回収した物資の存在を思い出し、建物に完全に火が回れば当然だが物資も無事では済まない。


「いかん!!すぐに一階に向かうぞ!?あの物資を何としても運び出せ!!」
「将軍!?何を言っておられるのですか!?今はそんな物に構っている暇など……」
「うるさい!!あの物資を集めるのにどれだけの苦労をしたと思っている!!早くついて来い!!」
「落ち着いて下さい将軍!!今は一刻も早く脱出しなければ……」
「やかましい!!」


正気を失ったようにガオンは激しく取り乱し、慌てて一階に保管されている倉庫へ向かおうとした。だが、流石に側近の兵士達も彼の行動には納得できず、必死に押し留める。
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