最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

人質作戦

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(お、おい……何だあいつらは?)
(静かにしろ……気付かれるぞ)
(一体何をしているんだ……?)


傭兵達はルノ達の観察を行い、彼等が何をしているのか確かめる。彼等の目的は民衆から回収した物資を奪い取る事だが、既に倉庫内の武器の殆どはルノが魔法で生み出した「氷箱」に収納されていた。


『この箱も入りきらなくなった。邪魔だから……よっと』
「本当に便利よねあんたの魔法は……」


氷塊の魔法で生み出した氷の箱はルノが右手を仰ぐ動作だけで浮上し、天井付近にて滞空する。傭兵達は気付かなかったが既に天井付近には複数の氷箱が浮かんでおり、回収した武器を保管している様子だった。


(何だあの魔法は……あんなの見た事ないぞ!?)
(いや、それよりも問題なのは奴等が物資を回収している事だ。このままだと俺達の分どころか、この建物に集めた全ての物資が奪われるぞ!?)
(そ、そんな……!!)


傭兵達は次々と武器を箱の中に詰めて移送するルノの姿に絶望し、当然だが戦って奪い取る事など出来ない。そもそも倒せる相手ならば彼等が最初から逃げ出すはずもなく、このままでは着の身着のままの状態で抜け出さなければならない。


(どうするんだよこんなの!!このまま逃げるのか!?)
(逃げた所で今度はガオンから追われるだけだ……ど、どうにか奴等から物資を奪えないのか?)
(無茶を言うな!!あんな得体の知れない奴等に近づけるか!!)


圧倒的な戦闘力を誇り、しかも奇怪な魔法を使用して物資を次々と回収するルノ達に傭兵達は恐怖を抱く。しかし、物資も回収せずに逃げ出す事も出来ず、ここで逃走すればガオンの恨みを買うだけである。


(お、俺は戦うぞ!!こうなったらやけくそだ……あいつの仲間を狙うんだ!!)
(あの女と……女の子か?)
(あいつらの関係は分からないが、少なくとも味方なんだろう。だったら奴等を人質にすれば……よし、やるか!!)


傭兵達は氷鎧を装着したルノの捕縛や打倒は不可能だと判断し、それならばルノの傍に存在するリディアとワン子を狙う事にした。どちらかを人質として捕まえればルノとの交渉の余地があると判断した傭兵達は武器を構え、お互いの顔を見て頷く。


(全員で襲いかかるぞ!!狙いはあくまでもあの女の子一人だからな!!)
(もう一人の女はいいのか?)
(あいつも何となくだが只者じゃない気がする……迂闊に近づいたら危険だ。それに相手が子供の方が同情を誘いやすいだろう?)


傭兵達は大人のリディアではなく、まだ小さい子供であるワン子の方が人質には適任だと判断し、全員が扉の隅に移動して機会を伺う。一つでもミスをすれば自分達の命が危ういと考えて慎重に行動する必要があり、隊長格の傭兵が合図を行う。


「……今だっ!!」
『うおおおおおっ!!』


隊長格の傭兵の言葉が通路内に響き渡り、傭兵達は一斉に倉庫の中に向けて駆け出そうとした。だが、先頭を走っていた隊長格の傭兵が扉を潜り抜けようとした瞬間、肉体に予想外の衝撃が走って転倒してしまう。


「あだぁっ!?」
「うわっ!?」
「いてぇっ!?」
『わあっ!?びっくりした……まだ兵士が残っていたのか』


先頭に居た男が転んだことで他の傭兵も巻き込まれてしまい、全員が地面に転んでしまう。扉の異変に気付いたルノは驚いた声を上げて振り返り、念のために事前に用意しておいた扉の前に作り上げていた「氷の壁」を確認する。


「ううっ……い、一体なにが起きたんだ!?」
「お、おい……よく見てみろ。ここに見えない壁があるぞ!?」
『正確には見えないんじゃなくて透明度の高い薄い氷の壁を張っているんだけど……』


ルノは最初に武器庫に入り込んだ際、出入口の方から兵士が訪れる事を予測して氷塊の魔法を利用して非常に薄く、それでいながら透明度が高い氷の壁を扉の前に設置していた。名付けるとしたら「氷硝子」とでもいうのか、ともかく傭兵達を遮ったのは視認する事も難しい程の薄い氷の壁を作り上げていた。


(初めて作っては見たけど、氷の厚さが薄いせいでかなり脆くなってるんだよな。それでも十分に便利だけど……)


武器庫に入り込もうとした傭兵達と衝突した事で氷硝子には罅割れが生じており、傍から見れば空間に亀裂が生じているようにしか見えないだろう。人間よりも視力が優れているはずの獣人族でさえも気付かせない程の透明度を誇る氷の壁を生み出したルノも凄いが、相手の戦力差を理解した上で不用意に入り込もうとしてきた傭兵達の不用心さも目立つ。


「く、くそっ!!あともう少しだったのに……」
「もういい、逃げるぞ!!」
『あ、待て!!』
「別に放っておきなさいよ。あんな奴等を捕まえた所でどうしようも出来ないわよ」


人質を取る事も出来ずに傭兵達は情けない悲鳴を上げて退散し、その様子を見たルノは彼等を捕まえようとしたがリディアに止められる。
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