331 / 657
獣人国
人質作戦
しおりを挟む
(お、おい……何だあいつらは?)
(静かにしろ……気付かれるぞ)
(一体何をしているんだ……?)
傭兵達はルノ達の観察を行い、彼等が何をしているのか確かめる。彼等の目的は民衆から回収した物資を奪い取る事だが、既に倉庫内の武器の殆どはルノが魔法で生み出した「氷箱」に収納されていた。
『この箱も入りきらなくなった。邪魔だから……よっと』
「本当に便利よねあんたの魔法は……」
氷塊の魔法で生み出した氷の箱はルノが右手を仰ぐ動作だけで浮上し、天井付近にて滞空する。傭兵達は気付かなかったが既に天井付近には複数の氷箱が浮かんでおり、回収した武器を保管している様子だった。
(何だあの魔法は……あんなの見た事ないぞ!?)
(いや、それよりも問題なのは奴等が物資を回収している事だ。このままだと俺達の分どころか、この建物に集めた全ての物資が奪われるぞ!?)
(そ、そんな……!!)
傭兵達は次々と武器を箱の中に詰めて移送するルノの姿に絶望し、当然だが戦って奪い取る事など出来ない。そもそも倒せる相手ならば彼等が最初から逃げ出すはずもなく、このままでは着の身着のままの状態で抜け出さなければならない。
(どうするんだよこんなの!!このまま逃げるのか!?)
(逃げた所で今度はガオンから追われるだけだ……ど、どうにか奴等から物資を奪えないのか?)
(無茶を言うな!!あんな得体の知れない奴等に近づけるか!!)
圧倒的な戦闘力を誇り、しかも奇怪な魔法を使用して物資を次々と回収するルノ達に傭兵達は恐怖を抱く。しかし、物資も回収せずに逃げ出す事も出来ず、ここで逃走すればガオンの恨みを買うだけである。
(お、俺は戦うぞ!!こうなったらやけくそだ……あいつの仲間を狙うんだ!!)
(あの女と……女の子か?)
(あいつらの関係は分からないが、少なくとも味方なんだろう。だったら奴等を人質にすれば……よし、やるか!!)
傭兵達は氷鎧を装着したルノの捕縛や打倒は不可能だと判断し、それならばルノの傍に存在するリディアとワン子を狙う事にした。どちらかを人質として捕まえればルノとの交渉の余地があると判断した傭兵達は武器を構え、お互いの顔を見て頷く。
(全員で襲いかかるぞ!!狙いはあくまでもあの女の子一人だからな!!)
(もう一人の女はいいのか?)
(あいつも何となくだが只者じゃない気がする……迂闊に近づいたら危険だ。それに相手が子供の方が同情を誘いやすいだろう?)
傭兵達は大人のリディアではなく、まだ小さい子供であるワン子の方が人質には適任だと判断し、全員が扉の隅に移動して機会を伺う。一つでもミスをすれば自分達の命が危ういと考えて慎重に行動する必要があり、隊長格の傭兵が合図を行う。
「……今だっ!!」
『うおおおおおっ!!』
隊長格の傭兵の言葉が通路内に響き渡り、傭兵達は一斉に倉庫の中に向けて駆け出そうとした。だが、先頭を走っていた隊長格の傭兵が扉を潜り抜けようとした瞬間、肉体に予想外の衝撃が走って転倒してしまう。
「あだぁっ!?」
「うわっ!?」
「いてぇっ!?」
『わあっ!?びっくりした……まだ兵士が残っていたのか』
先頭に居た男が転んだことで他の傭兵も巻き込まれてしまい、全員が地面に転んでしまう。扉の異変に気付いたルノは驚いた声を上げて振り返り、念のために事前に用意しておいた扉の前に作り上げていた「氷の壁」を確認する。
「ううっ……い、一体なにが起きたんだ!?」
「お、おい……よく見てみろ。ここに見えない壁があるぞ!?」
『正確には見えないんじゃなくて透明度の高い薄い氷の壁を張っているんだけど……』
ルノは最初に武器庫に入り込んだ際、出入口の方から兵士が訪れる事を予測して氷塊の魔法を利用して非常に薄く、それでいながら透明度が高い氷の壁を扉の前に設置していた。名付けるとしたら「氷硝子」とでもいうのか、ともかく傭兵達を遮ったのは視認する事も難しい程の薄い氷の壁を作り上げていた。
(初めて作っては見たけど、氷の厚さが薄いせいでかなり脆くなってるんだよな。それでも十分に便利だけど……)
武器庫に入り込もうとした傭兵達と衝突した事で氷硝子には罅割れが生じており、傍から見れば空間に亀裂が生じているようにしか見えないだろう。人間よりも視力が優れているはずの獣人族でさえも気付かせない程の透明度を誇る氷の壁を生み出したルノも凄いが、相手の戦力差を理解した上で不用意に入り込もうとしてきた傭兵達の不用心さも目立つ。
「く、くそっ!!あともう少しだったのに……」
「もういい、逃げるぞ!!」
『あ、待て!!』
「別に放っておきなさいよ。あんな奴等を捕まえた所でどうしようも出来ないわよ」
人質を取る事も出来ずに傭兵達は情けない悲鳴を上げて退散し、その様子を見たルノは彼等を捕まえようとしたがリディアに止められる。
(静かにしろ……気付かれるぞ)
(一体何をしているんだ……?)
傭兵達はルノ達の観察を行い、彼等が何をしているのか確かめる。彼等の目的は民衆から回収した物資を奪い取る事だが、既に倉庫内の武器の殆どはルノが魔法で生み出した「氷箱」に収納されていた。
『この箱も入りきらなくなった。邪魔だから……よっと』
「本当に便利よねあんたの魔法は……」
氷塊の魔法で生み出した氷の箱はルノが右手を仰ぐ動作だけで浮上し、天井付近にて滞空する。傭兵達は気付かなかったが既に天井付近には複数の氷箱が浮かんでおり、回収した武器を保管している様子だった。
(何だあの魔法は……あんなの見た事ないぞ!?)
(いや、それよりも問題なのは奴等が物資を回収している事だ。このままだと俺達の分どころか、この建物に集めた全ての物資が奪われるぞ!?)
(そ、そんな……!!)
傭兵達は次々と武器を箱の中に詰めて移送するルノの姿に絶望し、当然だが戦って奪い取る事など出来ない。そもそも倒せる相手ならば彼等が最初から逃げ出すはずもなく、このままでは着の身着のままの状態で抜け出さなければならない。
(どうするんだよこんなの!!このまま逃げるのか!?)
(逃げた所で今度はガオンから追われるだけだ……ど、どうにか奴等から物資を奪えないのか?)
(無茶を言うな!!あんな得体の知れない奴等に近づけるか!!)
圧倒的な戦闘力を誇り、しかも奇怪な魔法を使用して物資を次々と回収するルノ達に傭兵達は恐怖を抱く。しかし、物資も回収せずに逃げ出す事も出来ず、ここで逃走すればガオンの恨みを買うだけである。
(お、俺は戦うぞ!!こうなったらやけくそだ……あいつの仲間を狙うんだ!!)
(あの女と……女の子か?)
(あいつらの関係は分からないが、少なくとも味方なんだろう。だったら奴等を人質にすれば……よし、やるか!!)
傭兵達は氷鎧を装着したルノの捕縛や打倒は不可能だと判断し、それならばルノの傍に存在するリディアとワン子を狙う事にした。どちらかを人質として捕まえればルノとの交渉の余地があると判断した傭兵達は武器を構え、お互いの顔を見て頷く。
(全員で襲いかかるぞ!!狙いはあくまでもあの女の子一人だからな!!)
(もう一人の女はいいのか?)
(あいつも何となくだが只者じゃない気がする……迂闊に近づいたら危険だ。それに相手が子供の方が同情を誘いやすいだろう?)
傭兵達は大人のリディアではなく、まだ小さい子供であるワン子の方が人質には適任だと判断し、全員が扉の隅に移動して機会を伺う。一つでもミスをすれば自分達の命が危ういと考えて慎重に行動する必要があり、隊長格の傭兵が合図を行う。
「……今だっ!!」
『うおおおおおっ!!』
隊長格の傭兵の言葉が通路内に響き渡り、傭兵達は一斉に倉庫の中に向けて駆け出そうとした。だが、先頭を走っていた隊長格の傭兵が扉を潜り抜けようとした瞬間、肉体に予想外の衝撃が走って転倒してしまう。
「あだぁっ!?」
「うわっ!?」
「いてぇっ!?」
『わあっ!?びっくりした……まだ兵士が残っていたのか』
先頭に居た男が転んだことで他の傭兵も巻き込まれてしまい、全員が地面に転んでしまう。扉の異変に気付いたルノは驚いた声を上げて振り返り、念のために事前に用意しておいた扉の前に作り上げていた「氷の壁」を確認する。
「ううっ……い、一体なにが起きたんだ!?」
「お、おい……よく見てみろ。ここに見えない壁があるぞ!?」
『正確には見えないんじゃなくて透明度の高い薄い氷の壁を張っているんだけど……』
ルノは最初に武器庫に入り込んだ際、出入口の方から兵士が訪れる事を予測して氷塊の魔法を利用して非常に薄く、それでいながら透明度が高い氷の壁を扉の前に設置していた。名付けるとしたら「氷硝子」とでもいうのか、ともかく傭兵達を遮ったのは視認する事も難しい程の薄い氷の壁を作り上げていた。
(初めて作っては見たけど、氷の厚さが薄いせいでかなり脆くなってるんだよな。それでも十分に便利だけど……)
武器庫に入り込もうとした傭兵達と衝突した事で氷硝子には罅割れが生じており、傍から見れば空間に亀裂が生じているようにしか見えないだろう。人間よりも視力が優れているはずの獣人族でさえも気付かせない程の透明度を誇る氷の壁を生み出したルノも凄いが、相手の戦力差を理解した上で不用意に入り込もうとしてきた傭兵達の不用心さも目立つ。
「く、くそっ!!あともう少しだったのに……」
「もういい、逃げるぞ!!」
『あ、待て!!』
「別に放っておきなさいよ。あんな奴等を捕まえた所でどうしようも出来ないわよ」
人質を取る事も出来ずに傭兵達は情けない悲鳴を上げて退散し、その様子を見たルノは彼等を捕まえようとしたがリディアに止められる。
0
お気に入りに追加
11,307
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。