上 下
327 / 657
獣人国

ガオンの野望

しおりを挟む
『獣人国は武力国家、つまり最強の武勇を誇る将軍こそが国王に相応しい御方なのです』
『ふむ……確かに貴様の言葉にも一理あるな』


最強と呼ばれたガオンは気分を良くするが、彼を褒め称えるクズノは一瞬だけ意味深な笑みを浮かべ、続けて彼に助言を行う。


『将軍がお望みとあらば私はどのような強力も惜しみません。その代わりと言っては何ですが、もしも将軍が国王の座に就いた時はどうか私を宰相として迎えて下さい』
『何?人間の貴様を宰相にだと?』
『それくらいの褒美がなければ私としても将軍の支援は難しいのです。宰相が無理だとしても、それ相応の地位を与えられるのならば強力は惜しみませんが……』
『ふむ……』


ガオンはクズノの顔を確認し、得体の知れない相手ではあるが自分の力を認め、更に大量の金塊を容易く引き渡したクズノに興味を抱く。だが、現実的に考えても人種差別が激しいクズノを宰相として迎え入れるのは難しい。


(この男は確かに使えるかも知れん……しかし、人間を宰相に迎えるなど出来るのか?いや、そもそも本当にこの俺が国王の座に就けるのか?)


黙り込んで考え込むガオンを見てクズノは彼の思考を読み取ったように不気味な笑みを浮かべ、ガオンの不安を取り除くように具体的な方法を話す。


『どうやら将軍はまだ私の事を信じ切れていないようですね。ならば将軍の信頼を得るために私が将軍が王座に就く方法を先にお教えしましょう』
『何っ!?貴様、本当に俺が王座に就ける方法を知っているのか?』
『それは将軍次第です。どうでしょうか?話を聞くだけならば損はしませんよ。どうせ私は只の人間、将軍が私の話を信じられないのならば兵士を呼び出せて牢屋に送り込めばいいだけです』
『お前……何を考えている!?』


自分が不利になる条件を申し付けてきたクズノにガオンは警戒心を抱き、あまりにも都合が良いのでクズノが裏で何か考えているのではないかと勘繰るが、ガオンの質問に対してクズノは動揺も見せずに答える。


『ふふふっ……私は確信しているのですよ。将軍が私の話を聞けば必ず王座に就く決意をします』
『その自信の根拠は何だっ!?』
『根拠?それは将軍が私と同じ野望を抱いた人間だからです』
『野望、だと?』
『そうです!!野望を持たぬ人間が大成を為す事など有り得ない!!歴史に名前を刻む英雄と呼ばれる人物は全員が自分の野望を果たした者なのです!!そして将軍も彼等と同じように大きな野望を抱く英雄なのです!!』
『英雄だと……!?』


仰々しくクズノは両手を広げながら演技臭い台詞を吐くが、自分が英雄と呼ばれたガオンは気分を良くして彼の話を聞くことにした。


『ふむ、いいだろう!!ならば貴様の考えを教えて貰おうか……どうやって俺を王座へと導く?』
『ふふふっ……では話しましょう』


口では話を聞くだけと言っておきながら既に王座への執着心を露わにしているガオンに対し、クズノは内心で笑いを抑えながら説明を始める。


『まず、将軍が行うべき事は軍勢を集めるのです。資金を惜しみなくりようし、私兵を増やすのです』
『ふむ、つまり戦力を増強しろというのだな?しかし、いくら金があってもそう簡単にはいかんぞ?私兵を集め過ぎれば当然他の人間に怪しまれるだろう』
『何を言うのですか?それならば自分を怪しむ人間も引き込めばよいのです。その点は私に任せて下されば解決しましょう』
『ほほう、大した自信だな!!良かろう、そこまでの言うならば貴様に任せてやる』
『……ありがとうございます』


クズノの言葉にガオンは深く頷き、そんな彼の言葉にクズノは一瞬だけ呆れた顔を浮かべたが、即座に表情を引き締めて話を続ける。


『続けて重要なのは現在の王族の排除ですが……噂によると今の国王は重い病にかかり、もう助かる見込みはないというのは本当ですか?』
『何!?どうしてその事を……もう市中でもそこまで噂が回っていたか』
『という事は例の噂は本当の話なのですか?』
『うむ。確かに国王はもう長くはないだろう。医者の見立てではあと一か月が限界らしいな』
『なるほど……』


あっさりと国王の病の進行具合を話すガオンにクズノは口元を抑え、笑い声を抑える。そんな彼の行動にガオンは不思議がるが、慌ててクズノは話を戻す。


『それでは国を引き継ぐのは第一王子と第二王子のどちらかは決まったのですか?』
『順当ならば第一王子だろうが、第二王子を推す声も多い。だが、恐らくは第一王子が王位を引き継ぐだろうな』
『その根拠は?』
『第一王子の背後には大将軍のウォンが就いている。奴は子供の頃から第一王子の世話役を任されていたからな……きっと第一王子を指示するだろう』
『なるほどなるほど……』


重要な情報を手に入れたクズノは笑みを浮かべ、口の中心を担う大将軍が就いている以上は王位を継承するのは第一王子の可能性が高い。しかし、第二王子を指示する家臣も多く、ガオンの予想では第一王子と第二王子の派閥同士で争いが起きると考えていた。実際にこの予想は正しく、後々に両王子は争い合う事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。