最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

ガオンの焦り

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――ルノ達が襲撃を仕掛けてから十数分が経過したころ、駐屯所の最上階には大勢の兵士が押し寄せていた。最上階に存在する大広間にて兵士の殆どが呼び寄せられ、その殆どが顔面に血を流していた。彼等が血を流している理由はこの街を現在管理しているガオン将軍の仕置きを受けたからであり、彼は情けなく引き返してきた兵士達を怒鳴りつけた。


「この軟弱物共が!!たった1名の侵入者に獣人国最強と謳われるガオン部隊が逃げ帰ったというのか!!」
『ひいっ!?』


大広間内にガオンの怒鳴り声が響き渡り、その声を聞いた獣人族の兵士は堪らずに耳を抑える。獣人は全種族の中で最も聴覚が優れているため、ガオンの怒鳴り声を聞くたびに鼓膜が破りそうな感覚に襲われてしまう。しかもガオンの風貌は下の階でルノに倒されたゴリよりも恐ろしく、熊型の獣人族の男性であった。

身長は2メートル前後であり、筋肉の量自体はゴリにも劣る。しかし、その爪と牙は異様なまでに鋭く研ぎ澄まされており、非常に恐ろしい顔面をした大男だった。戦場に置いては一度も敗北を喫した事がなく、兵士の間では単純な武力ならば大将軍を上回るとさえ言われている。

そんなガオンだからこそ侵入者を討伐する処か逆に逃げ帰ってきた兵士達に我慢が出来ず、彼等全員を殴り飛ばす。中には気絶して動けなくなった者もいるが、そのような軟弱物は見向きもせずにガオンは気絶を免れた兵士達を更に叱りつけた。


「馬鹿共が……貴様等は誇りある獣人族の精鋭部隊だぞ!!それを何だ、その茶色の鎧を着た一人の大男に逃げ帰ってきただと?貴様等はそれでも兵士か!!」
「お、お言葉ですがガオン将軍!!敵を侮ってはなりません!!相手は将軍の想像を超える実力者で……」
「やかましい!!」
「あぐぅっ!?」


諫言を行おうとした兵士の頭部にガオンは拳骨を叩きこむと、鉄製の兜を身に付けていたにも関わらずに兵士は地面に倒れこみ、凹んだ兜が地面に転がる。その様子を見た他の兵士達は顔色を青くさせ、一方のガオンは倒れた兵士に目もくれずに残った兵士達を睨みつける。


「次に俺に逆らう者がいたら頭と胴体を切り離す、分かったか?」
『はっ!!』
「よし、ならばお前達はすぐに下の階に戻り、その侵入者とやらをここまで連れてこい!!俺自身の手で始末してやろう!!」
『分かりました!!』


兵士達は慌てて大広間を退出すると、残されたガオンと彼の側近の数名の兵士は向かい合い、今後の事を話し合う。


「ガオン将軍……本当に奴等が例の侵入者を連れ出せると思いますか?」
「いや……無理だろう。俺も窓から外の様子を見たが、あれは確かに奴等如きに手に負える相手ではない」


側近の事版いガオンは首を振り、自分が命令したにも関わらずに先ほどの兵士達がルノを連れ出してくる事など出来ないと彼は考えていた。三階の窓からガオンも外の様子を伺っていたため、無数の兵士を薙ぎ払いながら建物内に侵入したルノの姿を目撃していた。その圧倒的な戦闘力はガオンさえも戦慄し、真面に戦えば分が悪い相手だと彼は判断した。


「あの男の装備……以前に何処かで見た事がある。確か十数年前、帝国の部隊とやり合った時に小太りの禿オヤジが装備していた物だ!!」
「小太りの禿オヤジ……ああ、それはもしやデキンの事でしょうか?」
「そうだ!!あのデキンが装備していた神器ではないのか!?」


ガオンはルノの氷鎧の原型といえる「鬼武者」の存在を思い出し、彼がまだ将軍になる前に戦場で帝国軍と交戦した時にデキンが装着していた鬼武者とルノの氷鎧が酷似している事に気付く。


「あの忌まわしいデキンめ……あの鎧がなければ今頃は獣人国は帝国の領地を支配できたのだ!!」
「しかし、どうして敵が帝国の神器と酷似した装備を敵が装着しているのでしょうか?」
「そんな事は知らん!!だが、仮に奴の装備があのデキンの装着していた物と同じ物だとしたら……非常に厄介なことになる」


戦場で相対したデキンが装備した神器の「鬼武者」の恐ろしさはガオンも身をもって体感しており、仮にルノが装着している装備(氷塊の魔法で作り出した物だが)が同等の性能を誇っていた場合、ガオンでは手出しできない。仮に街に滞在している兵士を全員呼び出しても無駄だろう。


「ええい!!どうしてこんな時に敵が現れたのだ!!第二王子を利用し、やっとの事で武器、食料、薬品を市民どもからかき集めたというのに……」
「将軍……あの得体の知れない男の言う事を信じるのですか?本当に我々だけでこの国を支配出来るのでしょうか?」
「今更何を言っている!!ここまで来たら後には引けん!!」


側近の兵士の言葉にガオンは怒鳴り込み、彼が将軍という立場を利用して市民から物資を強奪したのは数週間前に彼の元へ訪れた「シルクハットを被った男」が原因だった。
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