最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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獣人国

ガオン将軍の精鋭部隊

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「隊長!!大丈夫ですか?」
「くっ……平気だ!!それよりも奴を止めろっ!!」
「止めろと言われても……」


小型の土竜を引き連れながら兵士達の駐屯所に向かうルノに対して隊長は部下たちに引き留めるように命じるが、誰も行動に移らない。先ほどから力尽くで止めようとしても武器は全て弾かれ、腕力にも圧倒的な差が存在する。獣人族は基本的に魔術師の職業の人間は少ないため、この場には魔法を扱える人間もいない。そもそも魔術師の職業の兵士達はほぼ全員が第一王子のガルルの傍に付いているため、この街には攻撃魔法を扱える人兵士は存在しない。


「何としても止めるんだ!!もしもガオン将軍の元に奴を送れば我々も罰則は免れないだぞ!?」
「し、しかし……止めると言ってもどうやって?」
「いいから早く行け!!全員で抑えつけるんだ!!」
「く、くそっ……行くぞ!!」


隊長の命令に逆らえず、兵士達は自棄を起こしたようにルノの元に向かう。数人がかりでルノの肉体にしがみ付き、必死に引き留めようとしたが、全く進行速度を落とさずにルノは移動を続ける。


『あの……離れてくれませんか?』
「ぐぎぎぎぎっ!?」
「と、止まらないっ……!!」
「何なんだこいつはぁっ!?」


必死の表情を浮かべて兵士達は氷鎧越しにルノの身体を抑えつけようとするが、地面に踏ん張ろうとした兵士ごと引きずって屋敷に向かう。数人では止めるのは不可能だと判断した兵士達は今度は大人数でルノの氷鎧に飛びついた。


「これならどうだ!!」
「よし、足を掴んだ……うおおっ!?」
「ま、まだ止まらないのかっ!?」
『もう、いい加減にしてください!!』


身体の至る箇所にむさ苦しい男性兵士に纏わりつかれ、流石に苛立ちを抱いたルノは虫を振り払うように腕を振り抜く。それだけの動作で氷鎧に張り付いていた兵士達が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまう。


「ぎゃああっ!?」
「うわぁっ!?」
「ひいいっ!?」


右腕にしがみ付いていた兵士達が地面に転倒し、怯えた表情を浮かべながら地面を這いつくばる姿を見て様子を観察していた一般人達も堪えきれずに笑い声を漏らす。


「ぷっ……」
「ちょ、ちょっと……笑っちゃ駄目よ」
「いや、そうは言ってもよ……ぶははっ!!」
「き、貴様等っ!!誰だ笑ったのは!?」


自分達の醜態を見て笑い声を上げる民衆に兵士達は頬を赤くして怒鳴り散らすが、先ほどの行動を見て彼等に威厳も何も感じられず、少し前までは兵士に怯えていた人間達も彼等を嘲笑する。


「ふんっ!!何よ偉そうに……普段はあんなに威張って癖に何て様よ!!」
「大の大人が一人を相手に手こずってんじゃねえよ!!」
「こいつらぁっ……!!」
「構うなっ!!今は奴を止めるんだ!!」


民衆の反応に怒りを抱いた兵士達だが、すぐに隊長が慌てて命令を下す。今は民衆に構っている暇はなく、もしもルノをガオン将軍の元へ訪れた場合は彼の命が危うい。侵入者にみっともなく捕まり、更に上司である将軍の居場所を漏らした事など知られたら兵士隊長は死罪を言い渡されてもおかしくはない。


「早くそいつを止めるんだ!!でなければ貴様等全員を鞭打ちの刑に処すぞ!!」
「そうは言っても止まらないんですよ!?こいつ、とんでもない怪力で……」
『もう、しつっこい!!』
「うわぁあああっ!?」


兵士隊長の言葉に苛立ちを隠さずに怒鳴り返し、兵士達も決してふざけているわけではなく、真面目にルノを取り押さえようとしていた。しかし、圧倒的な力の差で抗う事も出来ず、遂にはルノが怒ったように身体を震わせて兵士全員を吹き飛ばす。


『いい加減にしてください!!これ以上邪魔をするなら……本気で怒りますよ』
「ひいっ!?す、すいません……!!」
「もう許してください!!」
「お、お前等……敵を相手に命乞いをするな!!恥知らず共がっ!!」


威嚇するように両腕を掲げた状態でルノが怒鳴り声を上げると兵士達はその場に跪き、命乞いを行う。その様子を見た兵士隊長が兵士達を罵倒するが、いい加減に無茶な命令を繰り返し言いつけられていた兵士達も不満を爆発させる。


「うるせえっ!!しょんべんを漏らしたあんたに言われる筋合いはねえよ!!」
「そうだそうだ!!さっきから臭いんだよ馬鹿!!」
「止めろというのならお前が止めて見せろ!!この馬鹿隊長がっ!!」
「き、貴様等ぁっ……!?」
「ふんっ!!普段は怒鳴り散らしている癖にこんな時に限って俺達を頼りにしようなんて都合が良いんだよ……もうやってられるかっ!!全部お前のせいだ!!」


命令を下すだけで何もしない兵士隊長に全員が怒り狂い、全員が不貞腐れたようにその場に座り込む。勝手に仲間割れを始めた兵士達を後目にルノと土竜は遂に建物の前に到着した。
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