最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

獣人国

兵士の暴挙

「妙に兵士の巡回が多いわね。それに何だかあいつらだけが妙に元気そうじゃない？」
「本当だ……仕事中なのに何か呑気だな」


街道には頻繁に兵士が巡回しており、その中には談笑しながら食べ歩きする物も存在した。そんな彼等を街の人々は憎々しげに睨みつけ、妙な雰囲気が街を覆っていた。


「何で街の人は兵士を睨んでるんだろう。ワンちゃんは何か知ってる？」
「わうっ……あの人達、この街を警備している人達じゃないです。だって装備が凄く立派ですから」
「そうね、確かにあいつらの装備は妙に新品が多いわね。多分、こいつらは外部から訪れた兵士のはずよ」


ワン子の話によれば街を巡回する兵士の殆どは外部から訪れた者らしく、彼等は仕事中とは思えない程に弛緩が目立ち、中には仕事を放り出して談笑を楽しむ獣人も多い。ルノ達は屋根の上から耳を研ぎ澄まして彼らの話を盗み聞きする。


「それにしても俺達は楽な任務に就けたよな。こんな場所の警備を任された時は手柄を立てられないかと思って怒ったけど、よくよく考えれば命が一番だからな！！」
「そうそう、危険な事なんて古株の人間に任せればいいんだよ。俺達はここでゆっくりと王子の行方を知っている連中を締めあげるだけでいいんだ」
「本当に楽な仕事だぜ。しかも、金が無くなれば簡単にここの連中から巻き上げられるからな！！」
「そうだな、王子を匿っていると言いつければどんな住民の家でも押し寄せる事が出来るし、金品も奪い放題だ。逆らおうものなら王子の協力者と判断して捕まえればいいだけだからな」
「おいおい、あんまり派手にやり過ぎるなよ？俺達はあくまでもガルル様の指示通りに動いているだけなんだからな……ぎゃはははっ！！」


路地裏に移動して他の兵士に気付かれない様に談笑を始めた二人組の兵士の話を聞き取り、ルノは彼等の会話を聞いて眉を顰める。どうやら兵士の話によるとこの場所でも第二王子の行方を知る人間を捜索しているようだが、兵士達の多くは王子の件を利用して悪事を働いているらしい。


「下種な奴等ね……他の連中もそうなのかしら」
「くぅんっ……この街の人達が可哀想です」
「流石にこれはちょっと……我慢の限界を超えそうだよ」


何の罪もない人間を巻き込んで本来ならば民を守るはずの兵士が盗賊紛いの行動を取っている事にルノは苛立ちを感じ、こんな連中に民衆が苦しめられていると考えるだけで怒りを抱く。それでも他国で目立つ行動は出来ないと理性が怒りを抑えつけ、当初の目的通りにワン子の攫われた両親と他の村人を探し出す事にした。


「ワンちゃん、臭いは分かる？」
「ごめんなさい、街の中だと色んな臭いが混じっているのでよく分かりません。でも、お父さんとお母さんが近くにいたらきっと気付きます！！」
「そう言う事ならあの馬鹿兵士達を捕まえて居場所を吐き出せばいいんじゃないの？」
「それは……」


リディアの言葉にルノは路地裏にて談笑する兵士達に視線を向け、目立つ行動は避けなければならないのだが街の様子を見る限りでは数多くの兵士が巡回している割には警戒度も低く、少人数の兵士が消えた所で誰かに気付かれる恐れはない。


「そうだね……なら、あの二人を引き寄せようか」
「どうするのよ？」
「こうするんだよ」


どのような方法で兵士二人を拘束するのかとリディアは尋ねると、屋根の上からルノは両手を突き出した瞬間、氷塊の魔法を発動させて氷の鎖を生み出し、地上に存在する二人の兵士の身体を拘束する。


「うわ、何だっ……むぐっ！？」
「へ、蛇か……うぐっ！？」


騒がれて他の兵士に気付かれない様に口元の部分まで鎖で塞ぐと、この状態から鎖を引き寄せて二人の兵士を屋根の上まで運び込む。その鮮やかな動作にリディアは冷や汗を流し、もしも自分が裏切って逃げ出そう物ならこの二人の兵士と同じ運命をたどる事になると彼女は確信した。


「ほら、捕まえた」
「ん～！？」
「ふぐぐっ……！？」
「な、なかなかやるわね……」
「凄いですお兄さん！！」


ルノは拘束した兵士の二人を下に顔を向けさせたまま横にさせると、抵抗は無意味と思い知らせるために氷塊の魔法で生み出した「短剣」を握りしめた状態で耳元に囁く。


「今から口元の拘束だけを外す……もしも仲間を呼ぼうとすれば命はないからな」
「っ……！？」
「んぐぅっ！？」
「俺達を見ようとしても殺す、いいな？」


出来る限り声音を低くさせてルノは二人の兵士の頭部を掴んだ状態で口元の鎖を外すと、兵士達は必死にもがいて逃げようとしたがレベル９９を超えるルノの力には敵わない。


「な、何だお前等……いでっ！？」
「騒ぐなと言ったよね？」
「わうっ……お、お兄さんが少し怖いです」
「相当に苛ついていたようね……」


反抗的な態度を示す兵士の頭を容赦なくルノは屋根に叩きつけ、その様子を見たリディアとワン子は怖がるようにお互いに抱き合う。




※ルノ君の怒り度　７０％