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獣人国
生存者
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「あんたにはまだ話してなかったけど、こいつに偵察させたときにさっきの兵士達が気になる会話をしていたのよ。なんでも何処かの村が第二王子を匿った疑惑があったから何かを仕掛けたと言っていたわ」
「そんな……じゃあ、本当にさっきの奴等がこんな真似を?」
「断定は出来ないわよ……可能性は限りなく高いでしょうけどね」
リディアは焼死体の山に視線を向けながら語ると、ルノは言葉に表現出来ない感情を抱く。兵士達の行動の怒り、無惨に殺された住民達の同情、立場上は何も出来ない自分にどうすればよいのか分からず、唯一分かる事は焼死体をこのまま放置出来ないという事だけだった。
「……死体を埋めてもいいかな?」
「いいんじゃないの?このまま野ざらしにするよりはね……」
「うん……」
山積みにされた焼死体を放置する事が出来ず、地面に両手を押し当ててルノは「土塊」の魔法で死体を地中の中へ移動させる。周辺の土砂を操作し、地面を陥没させて底なし沼のように焼死体が飲み込まれ、やがて全ての焼死体が完全に消え去るとルノは手を離す。
「ついでに……」
墓標の代わりとしてルノは周辺に視線を向け、萎れかけた花が落ちている事に気付く。恐らくは御供え物に用意された綺麗な花だったのだろうが、兵士が墓地に死体を運び込むときに墓標から蹴り飛ばされたのか花びらが汚れており、汚れを振り払いながら焼死体を飲み込んだ地面に花を添える。
「これで良し」
萎れかけた花に対して「浄化」の強化スキルを発動させた光球を照らすと、生命力を活性化させた花は地面に根付き、美しい花びらを開く。死体の埋葬を終えたルノはリディアに振り返ると、彼女は目元を閉じて頭を抑えていた。
「リディア?」
「しっ……ガーゴイルの視点から村の様子を見ているの」
ルノが話しかけると彼女は先ほどのようにガーゴイルと感覚を共通化させて周囲の状況を探索しているらしく、上空を旋回するガーゴイルが何かを発見したのか鳴き声を上げた。
『シャアアッ……!!』
「……人間を見つけたわ!!女の子よ!!」
リディアが目を見開くと、彼女は教会の隣に建っている民家を指差した――
――ガーゴイルが発見した「生存者」は二階の窓の傍で倒れていた少女であり、何日も栄養のある物を食していなかったのかやせ細った状態で気絶していた。すぐにルノが持参しておいた食料と水を分け与えると、少年は無我夢中に食らいつく。
「はぐっ!!ごくっ……うぐぐっ……!?」
「ちょっと、落ち着いて食べなさいよ!!別に取ったりしないわよ!!」
「ほら、水だよ。ゆっくり飲んでてね」
「うぐっ、うぐっ……ぷはぁっ!!生き返りましたぁっ!!」
ルノから水筒を受け取った少女は水を飲み干すと、輝かしい笑顔を浮かべて礼を告げる。年齢は10才前後、外見は汚れているが元々は可愛い顔立ちの少女だった。犬型の獣人で茶色の獣耳と尻尾を生やしており、必死に食料を頬張る。
「もぐもぐむしゃむしゃがつがつ……」
「す、凄い食欲ね……そんなに食べたらお腹壊さないの?」
「いっぱいあるから落ち着いて食べてね」
「わうっ!!」
少女は犬のような返事を返すと食事に集中し、その間にリディアは彼女の家の中の様子を調べる。この場所にも兵士が立ち寄ったのか荒らされた形跡が存在した。それならばどうやってこの少女が生き残ったのか疑問を抱くと、天井の一部が剥がれている事に気付き、屋根裏に隠れていた事が判明した。
「あんた、屋根裏に隠れていたの?それで捕まらずに済んだのね」
「わうっ……家の中にいっぱい兵士さん達が入り込んで、お父さんが屋根の中に私を隠してくれたんです」
「じゃあ、やっぱりあの兵士達の仕業なのか……」
「はい。急に村の中に兵士さんがいっぱい来て、第二王子のガウ様を出せと言ってきたんです。村の大人の人達は王子なんて知らないって言ったのに無理やり兵士さん達が家の中にまで入り込んできたんです」
「そうだったのか……可哀そうに」
食事を中断して悲しそうに少女は犬耳を萎れさせるが、すぐに気を取り直したように耳と尻尾を逆立てて立ち上がる。
「でも、平気です!!ワン子は鼻が良いので兵士さん達の臭いを追えば連れ去られたお父さんやお母さんにも会えると思います!!きっと連れ戻して見せます!!」
「え、連れ去られた……じゃあ、まだ生きてるの?」
「はい!!屋根の窓から見てたんですけど、村の人達が兵士さん達に連れ去られる場面を見ました!!きっとお父さんとお母さんも無事のはずです!!」
「そうなのか……ん?君はワン子という名前なの?確かこの国の王女様と同じ名前?」
「別にワン子という名前は獣人族の間では珍しくないわよ。ちなみに森人族の間では「アイラ」という名前の森人族の女性が多いらしいわ」
「日本でいうところの佐藤さんや鈴木さんみたいな感じか……」
自分を「ワン子」と呼ぶ少女の言葉にルノはリディアに振り返ると、彼女も頷く。村の規模と建物の数から考えても住民全員が兵士に殺されたとは言い切れず、実際に焼死体の数は十数人程度だった。そう考えれば他の住民は生きたまま兵士達に連れ去られた可能性が高く、その中にはワン子の家族も存在する可能性は十分にあった。
「そんな……じゃあ、本当にさっきの奴等がこんな真似を?」
「断定は出来ないわよ……可能性は限りなく高いでしょうけどね」
リディアは焼死体の山に視線を向けながら語ると、ルノは言葉に表現出来ない感情を抱く。兵士達の行動の怒り、無惨に殺された住民達の同情、立場上は何も出来ない自分にどうすればよいのか分からず、唯一分かる事は焼死体をこのまま放置出来ないという事だけだった。
「……死体を埋めてもいいかな?」
「いいんじゃないの?このまま野ざらしにするよりはね……」
「うん……」
山積みにされた焼死体を放置する事が出来ず、地面に両手を押し当ててルノは「土塊」の魔法で死体を地中の中へ移動させる。周辺の土砂を操作し、地面を陥没させて底なし沼のように焼死体が飲み込まれ、やがて全ての焼死体が完全に消え去るとルノは手を離す。
「ついでに……」
墓標の代わりとしてルノは周辺に視線を向け、萎れかけた花が落ちている事に気付く。恐らくは御供え物に用意された綺麗な花だったのだろうが、兵士が墓地に死体を運び込むときに墓標から蹴り飛ばされたのか花びらが汚れており、汚れを振り払いながら焼死体を飲み込んだ地面に花を添える。
「これで良し」
萎れかけた花に対して「浄化」の強化スキルを発動させた光球を照らすと、生命力を活性化させた花は地面に根付き、美しい花びらを開く。死体の埋葬を終えたルノはリディアに振り返ると、彼女は目元を閉じて頭を抑えていた。
「リディア?」
「しっ……ガーゴイルの視点から村の様子を見ているの」
ルノが話しかけると彼女は先ほどのようにガーゴイルと感覚を共通化させて周囲の状況を探索しているらしく、上空を旋回するガーゴイルが何かを発見したのか鳴き声を上げた。
『シャアアッ……!!』
「……人間を見つけたわ!!女の子よ!!」
リディアが目を見開くと、彼女は教会の隣に建っている民家を指差した――
――ガーゴイルが発見した「生存者」は二階の窓の傍で倒れていた少女であり、何日も栄養のある物を食していなかったのかやせ細った状態で気絶していた。すぐにルノが持参しておいた食料と水を分け与えると、少年は無我夢中に食らいつく。
「はぐっ!!ごくっ……うぐぐっ……!?」
「ちょっと、落ち着いて食べなさいよ!!別に取ったりしないわよ!!」
「ほら、水だよ。ゆっくり飲んでてね」
「うぐっ、うぐっ……ぷはぁっ!!生き返りましたぁっ!!」
ルノから水筒を受け取った少女は水を飲み干すと、輝かしい笑顔を浮かべて礼を告げる。年齢は10才前後、外見は汚れているが元々は可愛い顔立ちの少女だった。犬型の獣人で茶色の獣耳と尻尾を生やしており、必死に食料を頬張る。
「もぐもぐむしゃむしゃがつがつ……」
「す、凄い食欲ね……そんなに食べたらお腹壊さないの?」
「いっぱいあるから落ち着いて食べてね」
「わうっ!!」
少女は犬のような返事を返すと食事に集中し、その間にリディアは彼女の家の中の様子を調べる。この場所にも兵士が立ち寄ったのか荒らされた形跡が存在した。それならばどうやってこの少女が生き残ったのか疑問を抱くと、天井の一部が剥がれている事に気付き、屋根裏に隠れていた事が判明した。
「あんた、屋根裏に隠れていたの?それで捕まらずに済んだのね」
「わうっ……家の中にいっぱい兵士さん達が入り込んで、お父さんが屋根の中に私を隠してくれたんです」
「じゃあ、やっぱりあの兵士達の仕業なのか……」
「はい。急に村の中に兵士さんがいっぱい来て、第二王子のガウ様を出せと言ってきたんです。村の大人の人達は王子なんて知らないって言ったのに無理やり兵士さん達が家の中にまで入り込んできたんです」
「そうだったのか……可哀そうに」
食事を中断して悲しそうに少女は犬耳を萎れさせるが、すぐに気を取り直したように耳と尻尾を逆立てて立ち上がる。
「でも、平気です!!ワン子は鼻が良いので兵士さん達の臭いを追えば連れ去られたお父さんやお母さんにも会えると思います!!きっと連れ戻して見せます!!」
「え、連れ去られた……じゃあ、まだ生きてるの?」
「はい!!屋根の窓から見てたんですけど、村の人達が兵士さん達に連れ去られる場面を見ました!!きっとお父さんとお母さんも無事のはずです!!」
「そうなのか……ん?君はワン子という名前なの?確かこの国の王女様と同じ名前?」
「別にワン子という名前は獣人族の間では珍しくないわよ。ちなみに森人族の間では「アイラ」という名前の森人族の女性が多いらしいわ」
「日本でいうところの佐藤さんや鈴木さんみたいな感じか……」
自分を「ワン子」と呼ぶ少女の言葉にルノはリディアに振り返ると、彼女も頷く。村の規模と建物の数から考えても住民全員が兵士に殺されたとは言い切れず、実際に焼死体の数は十数人程度だった。そう考えれば他の住民は生きたまま兵士達に連れ去られた可能性が高く、その中にはワン子の家族も存在する可能性は十分にあった。
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