上 下
313 / 657
獣人国

生存者

しおりを挟む
「あんたにはまだ話してなかったけど、こいつに偵察させたときにさっきの兵士達が気になる会話をしていたのよ。なんでも何処かの村が第二王子を匿った疑惑があったから何かを仕掛けたと言っていたわ」
「そんな……じゃあ、本当にさっきの奴等がこんな真似を?」
「断定は出来ないわよ……可能性は限りなく高いでしょうけどね」


リディアは焼死体の山に視線を向けながら語ると、ルノは言葉に表現出来ない感情を抱く。兵士達の行動の怒り、無惨に殺された住民達の同情、立場上は何も出来ない自分にどうすればよいのか分からず、唯一分かる事は焼死体をこのまま放置出来ないという事だけだった。


「……死体を埋めてもいいかな?」
「いいんじゃないの?このまま野ざらしにするよりはね……」
「うん……」


山積みにされた焼死体を放置する事が出来ず、地面に両手を押し当ててルノは「土塊」の魔法で死体を地中の中へ移動させる。周辺の土砂を操作し、地面を陥没させて底なし沼のように焼死体が飲み込まれ、やがて全ての焼死体が完全に消え去るとルノは手を離す。


「ついでに……」


墓標の代わりとしてルノは周辺に視線を向け、萎れかけた花が落ちている事に気付く。恐らくは御供え物に用意された綺麗な花だったのだろうが、兵士が墓地に死体を運び込むときに墓標から蹴り飛ばされたのか花びらが汚れており、汚れを振り払いながら焼死体を飲み込んだ地面に花を添える。


「これで良し」


萎れかけた花に対して「浄化」の強化スキルを発動させた光球を照らすと、生命力を活性化させた花は地面に根付き、美しい花びらを開く。死体の埋葬を終えたルノはリディアに振り返ると、彼女は目元を閉じて頭を抑えていた。


「リディア?」
「しっ……ガーゴイルの視点から村の様子を見ているの」


ルノが話しかけると彼女は先ほどのようにガーゴイルと感覚を共通化させて周囲の状況を探索しているらしく、上空を旋回するガーゴイルが何かを発見したのか鳴き声を上げた。


『シャアアッ……!!』
「……人間を見つけたわ!!女の子よ!!」


リディアが目を見開くと、彼女は教会の隣に建っている民家を指差した――





――ガーゴイルが発見した「生存者」は二階の窓の傍で倒れていた少女であり、何日も栄養のある物を食していなかったのかやせ細った状態で気絶していた。すぐにルノが持参しておいた食料と水を分け与えると、少年は無我夢中に食らいつく。


「はぐっ!!ごくっ……うぐぐっ……!?」
「ちょっと、落ち着いて食べなさいよ!!別に取ったりしないわよ!!」
「ほら、水だよ。ゆっくり飲んでてね」
「うぐっ、うぐっ……ぷはぁっ!!生き返りましたぁっ!!」


ルノから水筒を受け取った少女は水を飲み干すと、輝かしい笑顔を浮かべて礼を告げる。年齢は10才前後、外見は汚れているが元々は可愛い顔立ちの少女だった。犬型の獣人で茶色の獣耳と尻尾を生やしており、必死に食料を頬張る。


「もぐもぐむしゃむしゃがつがつ……」
「す、凄い食欲ね……そんなに食べたらお腹壊さないの?」
「いっぱいあるから落ち着いて食べてね」
「わうっ!!」


少女は犬のような返事を返すと食事に集中し、その間にリディアは彼女の家の中の様子を調べる。この場所にも兵士が立ち寄ったのか荒らされた形跡が存在した。それならばどうやってこの少女が生き残ったのか疑問を抱くと、天井の一部が剥がれている事に気付き、屋根裏に隠れていた事が判明した。


「あんた、屋根裏に隠れていたの?それで捕まらずに済んだのね」
「わうっ……家の中にいっぱい兵士さん達が入り込んで、お父さんが屋根の中に私を隠してくれたんです」
「じゃあ、やっぱりあの兵士達の仕業なのか……」
「はい。急に村の中に兵士さんがいっぱい来て、第二王子のガウ様を出せと言ってきたんです。村の大人の人達は王子なんて知らないって言ったのに無理やり兵士さん達が家の中にまで入り込んできたんです」
「そうだったのか……可哀そうに」


食事を中断して悲しそうに少女は犬耳を萎れさせるが、すぐに気を取り直したように耳と尻尾を逆立てて立ち上がる。


「でも、平気です!!ワン子は鼻が良いので兵士さん達の臭いを追えば連れ去られたお父さんやお母さんにも会えると思います!!きっと連れ戻して見せます!!」
「え、連れ去られた……じゃあ、まだ生きてるの?」
「はい!!屋根の窓から見てたんですけど、村の人達が兵士さん達に連れ去られる場面を見ました!!きっとお父さんとお母さんも無事のはずです!!」
「そうなのか……ん?君はワン子という名前なの?確かこの国の王女様と同じ名前?」
「別にワン子という名前は獣人族の間では珍しくないわよ。ちなみに森人族の間では「アイラ」という名前の森人族の女性が多いらしいわ」
「日本でいうところの佐藤さんや鈴木さんみたいな感じか……」


自分を「ワン子」と呼ぶ少女の言葉にルノはリディアに振り返ると、彼女も頷く。村の規模と建物の数から考えても住民全員が兵士に殺されたとは言い切れず、実際に焼死体の数は十数人程度だった。そう考えれば他の住民は生きたまま兵士達に連れ去られた可能性が高く、その中にはワン子の家族も存在する可能性は十分にあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。