300 / 657
帝国の危機
閑話 〈クズノとデキン〉
しおりを挟む
――帝国が勇者召喚される数か月前、防衛大臣であるデキンの屋敷には黒装束の男性が尋ねていた。普段は傲慢な態度を取るデキンではあるが、彼等を前にすると緊張で上手く話せず、怯えたように縮こまる。
「こ、これはこれは……まさか、最高幹部である貴方様がわざわざ訪ねられるとは……」
「どうも大臣、お久しぶりですねぇっ」
客間にて大臣は絨毯の上に跪き、ソファに座り込む魔王軍最高幹部の「クズノ」を見上げる。我ながら屈辱的な行動である事は理解しており、歯を喰いしばりながらデキンは屋敷に尋ねてきた理由をクズノに問う。
「クズノ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「いえ、そろそろ薬が切れる頃だと思いましてね。ラティの代わりに薬を渡しに来たのですよ」
デキンの質問に対してクズノは懐から「髑髏」の形をした容器を取り出し、無造作に放り投げる。それを見たデキンは慌てて容器を受け取り、中身を確認する。容器には魔物であるデキンが人間に化けるために使用する薬剤が入っていた。
「必要な事とはいえ、そろそろ薬の材料も切れそうなのですよ。貴方の正体を隠すために一体どれだけの苦労をしているか分かりますか?」
「も、申し訳ありません!!」
「まあ、いいでしょう。無能な部下を持つと苦労しますねぇ……ですが最近の貴方は少々本来の目的を忘れて行動していませんか?」
容器を懐にしまおうとしたデキンの腕をクズノは掴み、至近距離まで顔近づけると、普段は閉じている瞼を開く。彼の瞳に見つめられたデキンは悲鳴を上げそうになるが、どうにか堪える。
「ま、待って下さい……私は魔王軍のために誠心誠意尽くしているつもりです!!一体何が御不満なのですか?」
「召喚石の事ですよ。勇者を呼び出すのに必要な召喚石の出所を掴んだ事を貴方は我々に報告していない」
「っ……!?」
召喚石という言葉にデキンは顔色を青くさせ、どうしてクズノが帝国の人間の中でも極一部の人間にしか知らされていない召喚石の存在を知っているのかと彼は焦りを抱く。
「そ、それは誤解です……報告が遅れたのは事実ですが、決して私は……」
「まあ、いいでしょう。貴方如きの考えなど簡単に予想出来ます。大方、我々に逆らうつもりで勇者を密かに召喚し、魔王軍に対抗する戦力を作り出そうとしたのでしょう?」
「ち、ちがっ……」
自分の頭の中を覗かれたかのように考えを読み取られたデキンは慌てて否定するが、クズノは自分との立場の違いを分からせるようにデキンに囁いた。
「貴方が何をしようと、薬の製造法を知っているのは私だけです。私を殺せば貴方は惨めな隠遁生活に戻るだけですよ……また人間の冒険者に追われる日々を送りたいのですか?」
「ぐぅっ……!!」
「まあ、今日の所は注意だけにしておきましょう。しかし……人間の生活に慣れ過ぎた豚というのは扱いにくいですね。偶には昔のように草原のゴブリンに混じって運動をしたらどうですか?」
最後にからかいの言葉を残してクズノは笑い声を上げながら客室から退室した瞬間、デキンは怒りを抑えきれないように傍に存在した机を蹴り上げた。
「ぬがああああっ!!あの小僧……くそぉっ!!」
クズノが出て行った扉を睨みつけ、今すぐにでも追いかけて彼の細い首をへし折って殺してやりたいという考えを抱くが、デキンはクズノに逆らう事は決して出来ない。彼が人間として生活できるのはクズノが与えている「薬剤」の恩恵のお陰であり、クズノを殺せばデキンは再び魔物の姿に戻ってしまう。
――選ばせてあげましょう。我々に従うか、それとも蛇竜の餌になるか、選びなさい
デキンがゴブリンキングとして帝国地方の辺境で仲間と共に暮らしていた頃、辺境の村や街を襲うゴブリンの噂を聞きつけて魔王軍が彼の住処に訪れた。ゴブリンの中では最強を誇るデキンだったが、現れた魔王軍の面々を見て戦う事すら出来ずに降伏してしまう。
――こんな惨めな生活で一生を過ごしたいのですか?貴方には狡猾な知恵と、そして果てなき権力欲がある。我々に従えば今よりも楽な生活を送らせてあげましょう
巨大な蛇のような竜種を従えたクズノの言葉にデキンは逆らえるはずがなく、彼は魔王軍の一員として彼等に従う事を決めた。
※今回の話の投稿10秒前の出来事
カタナヅキ「そういえば前にデキンの誕生秘話を書いてたな……エイプリルフール用だったけど、出すの忘れてたや」(´・ω・)誰得だろう?
リーリス「なら今日はこれを2話目として投稿しましょう」(^ω^)ノ公開ボタン
「こ、これはこれは……まさか、最高幹部である貴方様がわざわざ訪ねられるとは……」
「どうも大臣、お久しぶりですねぇっ」
客間にて大臣は絨毯の上に跪き、ソファに座り込む魔王軍最高幹部の「クズノ」を見上げる。我ながら屈辱的な行動である事は理解しており、歯を喰いしばりながらデキンは屋敷に尋ねてきた理由をクズノに問う。
「クズノ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「いえ、そろそろ薬が切れる頃だと思いましてね。ラティの代わりに薬を渡しに来たのですよ」
デキンの質問に対してクズノは懐から「髑髏」の形をした容器を取り出し、無造作に放り投げる。それを見たデキンは慌てて容器を受け取り、中身を確認する。容器には魔物であるデキンが人間に化けるために使用する薬剤が入っていた。
「必要な事とはいえ、そろそろ薬の材料も切れそうなのですよ。貴方の正体を隠すために一体どれだけの苦労をしているか分かりますか?」
「も、申し訳ありません!!」
「まあ、いいでしょう。無能な部下を持つと苦労しますねぇ……ですが最近の貴方は少々本来の目的を忘れて行動していませんか?」
容器を懐にしまおうとしたデキンの腕をクズノは掴み、至近距離まで顔近づけると、普段は閉じている瞼を開く。彼の瞳に見つめられたデキンは悲鳴を上げそうになるが、どうにか堪える。
「ま、待って下さい……私は魔王軍のために誠心誠意尽くしているつもりです!!一体何が御不満なのですか?」
「召喚石の事ですよ。勇者を呼び出すのに必要な召喚石の出所を掴んだ事を貴方は我々に報告していない」
「っ……!?」
召喚石という言葉にデキンは顔色を青くさせ、どうしてクズノが帝国の人間の中でも極一部の人間にしか知らされていない召喚石の存在を知っているのかと彼は焦りを抱く。
「そ、それは誤解です……報告が遅れたのは事実ですが、決して私は……」
「まあ、いいでしょう。貴方如きの考えなど簡単に予想出来ます。大方、我々に逆らうつもりで勇者を密かに召喚し、魔王軍に対抗する戦力を作り出そうとしたのでしょう?」
「ち、ちがっ……」
自分の頭の中を覗かれたかのように考えを読み取られたデキンは慌てて否定するが、クズノは自分との立場の違いを分からせるようにデキンに囁いた。
「貴方が何をしようと、薬の製造法を知っているのは私だけです。私を殺せば貴方は惨めな隠遁生活に戻るだけですよ……また人間の冒険者に追われる日々を送りたいのですか?」
「ぐぅっ……!!」
「まあ、今日の所は注意だけにしておきましょう。しかし……人間の生活に慣れ過ぎた豚というのは扱いにくいですね。偶には昔のように草原のゴブリンに混じって運動をしたらどうですか?」
最後にからかいの言葉を残してクズノは笑い声を上げながら客室から退室した瞬間、デキンは怒りを抑えきれないように傍に存在した机を蹴り上げた。
「ぬがああああっ!!あの小僧……くそぉっ!!」
クズノが出て行った扉を睨みつけ、今すぐにでも追いかけて彼の細い首をへし折って殺してやりたいという考えを抱くが、デキンはクズノに逆らう事は決して出来ない。彼が人間として生活できるのはクズノが与えている「薬剤」の恩恵のお陰であり、クズノを殺せばデキンは再び魔物の姿に戻ってしまう。
――選ばせてあげましょう。我々に従うか、それとも蛇竜の餌になるか、選びなさい
デキンがゴブリンキングとして帝国地方の辺境で仲間と共に暮らしていた頃、辺境の村や街を襲うゴブリンの噂を聞きつけて魔王軍が彼の住処に訪れた。ゴブリンの中では最強を誇るデキンだったが、現れた魔王軍の面々を見て戦う事すら出来ずに降伏してしまう。
――こんな惨めな生活で一生を過ごしたいのですか?貴方には狡猾な知恵と、そして果てなき権力欲がある。我々に従えば今よりも楽な生活を送らせてあげましょう
巨大な蛇のような竜種を従えたクズノの言葉にデキンは逆らえるはずがなく、彼は魔王軍の一員として彼等に従う事を決めた。
※今回の話の投稿10秒前の出来事
カタナヅキ「そういえば前にデキンの誕生秘話を書いてたな……エイプリルフール用だったけど、出すの忘れてたや」(´・ω・)誰得だろう?
リーリス「なら今日はこれを2話目として投稿しましょう」(^ω^)ノ公開ボタン
0
お気に入りに追加
11,318
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。