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帝国の危機

閑話 〈クズノとデキン〉

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――帝国が勇者召喚される数か月前、防衛大臣であるデキンの屋敷には黒装束の男性が尋ねていた。普段は傲慢な態度を取るデキンではあるが、彼等を前にすると緊張で上手く話せず、怯えたように縮こまる。


「こ、これはこれは……まさか、最高幹部である貴方様がわざわざ訪ねられるとは……」
「どうも大臣、お久しぶりですねぇっ」


客間にて大臣は絨毯の上に跪き、ソファに座り込む魔王軍最高幹部の「クズノ」を見上げる。我ながら屈辱的な行動である事は理解しており、歯を喰いしばりながらデキンは屋敷に尋ねてきた理由をクズノに問う。


「クズノ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「いえ、そろそろ薬が切れる頃だと思いましてね。ラティの代わりに薬を渡しに来たのですよ」


デキンの質問に対してクズノは懐から「髑髏」の形をした容器を取り出し、無造作に放り投げる。それを見たデキンは慌てて容器を受け取り、中身を確認する。容器には魔物であるデキンが人間に化けるために使用する薬剤が入っていた。


「必要な事とはいえ、そろそろ薬の材料も切れそうなのですよ。貴方の正体を隠すために一体どれだけの苦労をしているか分かりますか?」
「も、申し訳ありません!!」
「まあ、いいでしょう。無能な部下を持つと苦労しますねぇ……ですが最近の貴方は少々本来の目的を忘れて行動していませんか?」


容器を懐にしまおうとしたデキンの腕をクズノは掴み、至近距離まで顔近づけると、普段は閉じている瞼を開く。彼の瞳に見つめられたデキンは悲鳴を上げそうになるが、どうにか堪える。


「ま、待って下さい……私は魔王軍のために誠心誠意尽くしているつもりです!!一体何が御不満なのですか?」
「召喚石の事ですよ。勇者を呼び出すのに必要な召喚石の出所を掴んだ事を貴方は我々に報告していない」
「っ……!?」


召喚石という言葉にデキンは顔色を青くさせ、どうしてクズノが帝国の人間の中でも極一部の人間にしか知らされていない召喚石の存在を知っているのかと彼は焦りを抱く。


「そ、それは誤解です……報告が遅れたのは事実ですが、決して私は……」
「まあ、いいでしょう。貴方如きの考えなど簡単に予想出来ます。大方、我々に逆らうつもりで勇者を密かに召喚し、魔王軍に対抗する戦力を作り出そうとしたのでしょう?」
「ち、ちがっ……」


自分の頭の中を覗かれたかのように考えを読み取られたデキンは慌てて否定するが、クズノは自分との立場の違いを分からせるようにデキンに囁いた。


「貴方が何をしようと、薬の製造法を知っているのは私だけです。私を殺せば貴方は惨めな隠遁生活に戻るだけですよ……また人間の冒険者に追われる日々を送りたいのですか?」
「ぐぅっ……!!」
「まあ、今日の所は注意だけにしておきましょう。しかし……人間の生活に慣れ過ぎた豚というのは扱いにくいですね。偶には昔のように草原のゴブリンに混じって運動をしたらどうですか?」


最後にからかいの言葉を残してクズノは笑い声を上げながら客室から退室した瞬間、デキンは怒りを抑えきれないように傍に存在した机を蹴り上げた。


「ぬがああああっ!!あの小僧……くそぉっ!!」


クズノが出て行った扉を睨みつけ、今すぐにでも追いかけて彼の細い首をへし折って殺してやりたいという考えを抱くが、デキンはクズノに逆らう事は決して出来ない。彼が人間として生活できるのはクズノが与えている「薬剤」の恩恵のお陰であり、クズノを殺せばデキンは再び魔物の姿に戻ってしまう。



――選ばせてあげましょう。我々に従うか、それとも蛇竜の餌になるか、選びなさい



デキンがゴブリンキングとして帝国地方の辺境で仲間と共に暮らしていた頃、辺境の村や街を襲うゴブリンの噂を聞きつけて魔王軍が彼の住処に訪れた。ゴブリンの中では最強を誇るデキンだったが、現れた魔王軍の面々を見て戦う事すら出来ずに降伏してしまう。



――こんな惨めな生活で一生を過ごしたいのですか?貴方には狡猾な知恵と、そして果てなき権力欲がある。我々に従えば今よりも楽な生活を送らせてあげましょう



巨大な蛇のような竜種を従えたクズノの言葉にデキンは逆らえるはずがなく、彼は魔王軍の一員として彼等に従う事を決めた。



※今回の話の投稿10秒前の出来事

カタナヅキ「そういえば前にデキンの誕生秘話を書いてたな……エイプリルフール用だったけど、出すの忘れてたや」(´・ω・)誰得だろう?
リーリス「なら今日はこれを2話目として投稿しましょう」(^ω^)ノ公開ボタン
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