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帝国の危機

ジャンヌのレベルアップ

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「分かりました。では有難く受け取らせていただきます……ですが、今回の件は必ず別の形でお礼をさせて下さい」
「はははっ……噂通りに律儀な御方ですな。分かりました、金銭は受け取れませんが王女様の言葉は決して忘れません」


ジャンヌの言葉にドルトンは苦笑すると、彼女は受け取った鍵を利用して硝子箱に収められていた火竜の経験石を確認する。誰もがその巨大な経験石に圧倒され、蓋を開けた瞬間に経験石に満ちた竜種の魔力を感じ取る。


「これが……火竜の経験石なのですか?」
「凄い……何か強い存在感を感じる」
「ああ、勿体ないですね。貴重な研究材料に使えそうなのに……ルノさんが戻ってきたら新しいのを狩ってきてもらうように頼んでみますかね」
「私も初めて受け取ったときは腰を抜かしてしまいました。まさか竜種を倒す人間が存在するなど思いもよりませんでした」
「私は少し怖いわね。なんか、傍に火竜が居るようで落ち着かないわ」


経験石は膨大な経験値と同時に魔力を怯えており、生前は火竜の力の源として存在した魔石なので当然と言える。ジャンヌは掌を経験石に押し当て、覚悟を決めたようにドルトンに振り返る。


「この経験石を破壊するための魔道具はありますか?」
「申し訳ありません。これほどのサイズの経験石を破壊するとなると、市販で発売されている粉砕機ではどうしようもありませんな」


粉砕機とは一般人が経験石を破壊する際に利用する魔道具であり、外見は万力のような形状に近い。普通の経験石は粉砕機に取り付けられた二つの突起に挟んでハンドルを回す事で突起が狭まり、経験石を破壊できる仕組みになっている。しかし、大抵の魔物の経験石は十数センチの大きさと比べても火竜の経験石は数メートルも存在するため、市販の粉砕機では破壊は不可能だった。


「困りましたね。経験石を破壊するには粉砕機がなければ無理です」
「ルノさんの魔法なら簡単に砕けそうですけど、王女様にそんな真似は出来ませんし……どうしましょうか?」
「大型の魔物の経験石を破壊する粉砕機は生憎と私の店では取り扱っていませんので困りましたな……」
「う~ん……」


経験石は非常に硬いため、粉砕機以外の方法で破壊するのは困難である。しかも魔石ではあるが魔法に対する耐性が非常に強く、さらに粉々に砕かなければ使用者に経験値は得られない仕組みなので全員が困り果てる。


「どうしましょう……折角手に入れたのに破壊する方法がなければ意味がありません。やはり、無謀な作戦だったのでしょうか……」
「今から大型の粉砕機がある店に行けばいいんじゃないの?」
「いえ、今の私達は行方不明扱いされているので出来れば正体を晒したくはありません。それに大型の粉砕機なんて取り扱っている店なんて滅多に存在しませんから探すのも面倒です」
「ならどうするのよ?使わないのなら返してくれるのかしら?」
「パイアさん、もうこちらは王女様にお譲りしたのですよ。既に渡した商品を受け取れるはずがありません」
「別にいいじゃないの?返品という言葉もあるんだからそんなに気にしなくても……」
「駄目です。こちらの不都合でお客様に迷惑を掛けた場合は別ですが、それ以外の場合は受け取れません」
「旦那様は本当に頑固ね……」


どうにか入手した経験石ではあるが、現状では破壊する手段を見つけなければ宝の持ち腐れであり、大型の粉砕機を探し出すか別の方法で破壊する必要がある。ここにルノが存在すれば氷塊の魔法で「螺旋氷弾」などの魔法で破壊する事は容易いが、常人に彼の真似は出来ない。


「……そういえばこの店には他に経験石は存在しないんですか?確か、ルノさんが召喚されたばかりの頃は大量の経験石を持ち込んだと聞いてますけど」
「ええ、確かにルノ様から定期的に経験石を売却させて貰いました。ですが、帝国の英雄が通っている店と噂が広がるようになってからは冒険者の方々がよく尋ねられるようになったのでルノ様から頂いた経験石は殆ど売却済みです」


ルノが召喚されたばかりの頃、生活費を稼ぐために大量の魔物を狩猟して経験石を入手したルノは魔道具店を多用していた。しかし、帝国に保護されるようになってからは生活費も稼ぐ必要もなくなり、ルノがドルトンに売却した全ての経験石は既に他の冒険者達に買い占められていた。


「ですが……実は少々困った物がありまして」
「どういう意味ですか?」
「……直接ご覧なった方が良いかもしれません。パイアさん、手伝ってください」
「ええっ……あれを運び込むの?」


ドルトンの言葉にパイアは嫌そうな表情を浮かべるが、結局は彼に従って店の奥へと移動した。二人の行動にリーリス達は疑問を抱くが、数十秒後に二人は岩石を想像させる灰色の巨大な球体を運び込む。


「こ、こちらです。どうぞ、ご確認ください」
「ちょ、重い……机の上に乗せたら壊れるから床に置くわよ!?」
「これは……?」


人間よりも力が強いはずの魔人族のパイアと小髭族のドルトンの二人がかりで運び出されたのは「球体型の岩石」としか表現できず、外見は灰色の岩の塊にしか見えない代物だった。
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