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帝国の危機
ドルトンの判断
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「どうして火竜の経験石をお求めになるのかお尋ねしても構いませんか?」
「話せば長くなりますけど、実はルノさんが行方不明なんです」
「なんとっ……では例の噂は本当だったのですか?」
「ええっ!?」
既に一般市民の間にもルノが行方不明になっているという噂は広がっているらしく、それでもルノの事を知っているドルトンとパイアはただの噂だと思い込んでいた。しかし、リーリスは現在の状況から考えられるルノが姿を消した理由を話す。
「恐らく、あくまでも予想に過ぎませんが……ルノさんが魔王軍に攫われた可能性もあります。それで現在の帝国は大パニックに陥っています」
「そ、そんな……ルノ様はご無事なのですか!?」
「分かりません。今のところは魔王軍からは何も要求がありませんけど……」
「え?ちょっと待ちなさいよ。討伐軍がエルフ王国に向かったのは魔王軍から送り込まれた手紙が原因じゃないの?」
「ど、どうしてそれを知っているんですか?」
リーリスの言葉にパイアは首を傾げ、彼女が帝国の軍事機密を知っている事にジャンヌは驚く。表向きは討伐軍がエルフ王国へ向かったのは予定通りに遠征の準備が整い、救援に向かったと一般市民には伝えられているはずだが、パイアは何事もないように答える。
「あんまり吸血鬼を舐めるんじゃないわよ。夜の間はおじ様は寝ているから暇潰しに酒場に立ち寄る事があるの、それで飲み友達の裏社会と繋がっている奴等から色々と情報を仕入れているのよ」
「パイアさん……そういう大変な事をどうして私に黙っていたのですか?」
「あ、やばっ……」
パイアの言葉にドルトンは頭を抑えながら彼女の行動を嘆くが、当のパイアは別に悪気があったわけではなく、昔からこの街に住んでいる飲み友達と酒を飲むの際に偶々情報を仕入れただけだと慌てて言い訳を行う。だが、重要なのは既に裏社会に繋がっている人間達に討伐軍が出向いた本当の理由が知られているという話であり、昨日の今日で重大な情報を漏洩してしまう帝国の管理の甘さにリーリスとジャンヌは嘆く。
「まさか既に手紙の存在が裏社会の人間に伝わっていたとは……王女として嘆かわしい事です」
「次から次へと問題ばっかり……まあ、とりあえず例の手紙に関しては気にしないで下さい。悪戯みたいな物ですから」
「そうなの?」
まさか手紙を書いたの自分達だと言い出せるはずがなく、適当に誤魔化しながらリーリスは本題に入る。
「率直に言うとエルフ王国へ救援に向かった討伐軍だけでは戦力不足なんです。ルノさんが帝国に残っていれば何とかなったかもしれませんけど……だから私達はルノさんの代わりとなる戦力を必要としているんです」
「なるほど……しかし、その件と私の店の火竜の経験石がどのように関係しているのですか?」
「ここにいる王女様は魔物使いの職業なんです。ですが、レベルの問題で強力な魔物を従える事が出来ません。なので火竜の経験石を破壊すれば一気にレベルを上昇させたいんです」
「どうか協力してください」
「……なるほど、そう言う事でしたか」
ジャンヌが魔物使いである事、そしてエルフ王国を救うために戦力が必要な事、そのために火竜の経験石が必要である事を知ったドルトンは思い悩む。
「しかし……先ほども話したように火竜の経験石はこの店の家宝です。いくら王女様とはいえ、無料でお譲りするわけにはいきません」
「分かっています。ですので支払いは後で帝国の方から……」
「お待ちください!!」
ドルトンの言葉は正論なのでジャンヌはどうにか後払いで火竜の経験石の購入を望むが、彼女が言葉を言い終える前にドルトンは朗らかな笑みを浮かべる。
「国の大事とあらば一市民として国に尽くすのは当然の事……それにこの火竜の経験石は元々はルノ様のご厚意で受け取った物です。金銭で取引を行う物ではありません」
「え?なら……」
「お金はいりません、どうぞお受け取り下さい。」
ドルトンは火竜の経験石が飾られている水晶製の硝子箱の鍵を取り出すと、ジャンヌに手渡す。彼女は驚いた表情を浮かべて鍵を見つめるが、ドルトンはゆっくりと頷く。
「国のためになるのならばどうぞ遠慮なくお使い下さい」
「そ、そんな……これ程の価値の物をただで受け取る事なんて出来ません!!」
「お言葉ですが、私も一度差し出した物を返されても困ります。どうかお受け取り下さい」
ジャンヌは咄嗟に鍵をドルトンに返そうとしたが、彼は首を振って頑なに受け取らず、リーリスに視線を向ける。このままでは話が進まないのでリーリスはジャンヌを説得する。
「王女様、ドルトンさんの好意を無碍にするような真似は駄目ですよ。ここは受け取っておきましょう」
「ですが!!」
「言っておきますけど、こうして話している間にも時間は過ぎているんです。悠長に私達が過ごしている間に魔王軍が動いたらどうするんですか?ここはドルトンさんの顔も立てて受け取りましょう」
「ううっ……」
「そうですよ。商人としては一番の品物を出したのに返品されたら困ります」
ドルトンが冗談混じりに答えると、ジャンヌは何度か自分の手元の鍵とドルトンに視線を交互させ、やがて諦めたように深いため息を吐き出す。
「話せば長くなりますけど、実はルノさんが行方不明なんです」
「なんとっ……では例の噂は本当だったのですか?」
「ええっ!?」
既に一般市民の間にもルノが行方不明になっているという噂は広がっているらしく、それでもルノの事を知っているドルトンとパイアはただの噂だと思い込んでいた。しかし、リーリスは現在の状況から考えられるルノが姿を消した理由を話す。
「恐らく、あくまでも予想に過ぎませんが……ルノさんが魔王軍に攫われた可能性もあります。それで現在の帝国は大パニックに陥っています」
「そ、そんな……ルノ様はご無事なのですか!?」
「分かりません。今のところは魔王軍からは何も要求がありませんけど……」
「え?ちょっと待ちなさいよ。討伐軍がエルフ王国に向かったのは魔王軍から送り込まれた手紙が原因じゃないの?」
「ど、どうしてそれを知っているんですか?」
リーリスの言葉にパイアは首を傾げ、彼女が帝国の軍事機密を知っている事にジャンヌは驚く。表向きは討伐軍がエルフ王国へ向かったのは予定通りに遠征の準備が整い、救援に向かったと一般市民には伝えられているはずだが、パイアは何事もないように答える。
「あんまり吸血鬼を舐めるんじゃないわよ。夜の間はおじ様は寝ているから暇潰しに酒場に立ち寄る事があるの、それで飲み友達の裏社会と繋がっている奴等から色々と情報を仕入れているのよ」
「パイアさん……そういう大変な事をどうして私に黙っていたのですか?」
「あ、やばっ……」
パイアの言葉にドルトンは頭を抑えながら彼女の行動を嘆くが、当のパイアは別に悪気があったわけではなく、昔からこの街に住んでいる飲み友達と酒を飲むの際に偶々情報を仕入れただけだと慌てて言い訳を行う。だが、重要なのは既に裏社会に繋がっている人間達に討伐軍が出向いた本当の理由が知られているという話であり、昨日の今日で重大な情報を漏洩してしまう帝国の管理の甘さにリーリスとジャンヌは嘆く。
「まさか既に手紙の存在が裏社会の人間に伝わっていたとは……王女として嘆かわしい事です」
「次から次へと問題ばっかり……まあ、とりあえず例の手紙に関しては気にしないで下さい。悪戯みたいな物ですから」
「そうなの?」
まさか手紙を書いたの自分達だと言い出せるはずがなく、適当に誤魔化しながらリーリスは本題に入る。
「率直に言うとエルフ王国へ救援に向かった討伐軍だけでは戦力不足なんです。ルノさんが帝国に残っていれば何とかなったかもしれませんけど……だから私達はルノさんの代わりとなる戦力を必要としているんです」
「なるほど……しかし、その件と私の店の火竜の経験石がどのように関係しているのですか?」
「ここにいる王女様は魔物使いの職業なんです。ですが、レベルの問題で強力な魔物を従える事が出来ません。なので火竜の経験石を破壊すれば一気にレベルを上昇させたいんです」
「どうか協力してください」
「……なるほど、そう言う事でしたか」
ジャンヌが魔物使いである事、そしてエルフ王国を救うために戦力が必要な事、そのために火竜の経験石が必要である事を知ったドルトンは思い悩む。
「しかし……先ほども話したように火竜の経験石はこの店の家宝です。いくら王女様とはいえ、無料でお譲りするわけにはいきません」
「分かっています。ですので支払いは後で帝国の方から……」
「お待ちください!!」
ドルトンの言葉は正論なのでジャンヌはどうにか後払いで火竜の経験石の購入を望むが、彼女が言葉を言い終える前にドルトンは朗らかな笑みを浮かべる。
「国の大事とあらば一市民として国に尽くすのは当然の事……それにこの火竜の経験石は元々はルノ様のご厚意で受け取った物です。金銭で取引を行う物ではありません」
「え?なら……」
「お金はいりません、どうぞお受け取り下さい。」
ドルトンは火竜の経験石が飾られている水晶製の硝子箱の鍵を取り出すと、ジャンヌに手渡す。彼女は驚いた表情を浮かべて鍵を見つめるが、ドルトンはゆっくりと頷く。
「国のためになるのならばどうぞ遠慮なくお使い下さい」
「そ、そんな……これ程の価値の物をただで受け取る事なんて出来ません!!」
「お言葉ですが、私も一度差し出した物を返されても困ります。どうかお受け取り下さい」
ジャンヌは咄嗟に鍵をドルトンに返そうとしたが、彼は首を振って頑なに受け取らず、リーリスに視線を向ける。このままでは話が進まないのでリーリスはジャンヌを説得する。
「王女様、ドルトンさんの好意を無碍にするような真似は駄目ですよ。ここは受け取っておきましょう」
「ですが!!」
「言っておきますけど、こうして話している間にも時間は過ぎているんです。悠長に私達が過ごしている間に魔王軍が動いたらどうするんですか?ここはドルトンさんの顔も立てて受け取りましょう」
「ううっ……」
「そうですよ。商人としては一番の品物を出したのに返品されたら困ります」
ドルトンが冗談混じりに答えると、ジャンヌは何度か自分の手元の鍵とドルトンに視線を交互させ、やがて諦めたように深いため息を吐き出す。
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