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帝国の危機

ドルトンとの交渉

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「ええ、最近になって正式に結婚しました。結婚式の際にはルノ様が初級魔法で手品をしてくれましたよ」
「えっ……私、呼ばれてないんですけど……!?」
「ははっ、冗談ですよ」
「ああ、びっくりした。私だけハブられたかと思ったじゃないですか」
「あの……リーリス、そろそろ雑談は……」


ジャンヌの言葉にリーリスは本題に入る為、ドルトンに彼女の正体と現在の状況を簡単に説明する事にした。


「驚かないで下さいね、この御方はこの国の王女であるジャンヌ様です。名前はご存じでしょう?」
「なんと……!?それは本当ですか?」
「初めまして……ジャンヌ・バルトロスと申します」
「ま、待って下さい!!頭を上げてください!!」


ドルトンに対してジャンヌはお辞儀を行おうとすると、慌ててドルトンは彼女の行為を止めてその場に平伏する。しかし、そんな彼にジャンヌは立ち上がるように促す。


「お、お辞め下さい!!私は王女と言っても、今まで碌に国のために尽くせぬ身です……こんな私に頭を下げる必要はありません」
「何を言うのですか!!ああっ……まさか私の店に王族の方が再び訪れるとは、なんという僥倖でしょうか!!」
「再び?他にも王族が立ち寄った事があるんですか?」


直央はドルトンの言い回しに不思議に思うと、彼は頷いて魔道具店にはジャンヌ以外の王族も立ち寄ったことがある事を伝える。


「実はこの店には先代の皇帝様も立ち寄って下さっているのです。定位を弟様に譲ってからは定期的に立ち寄っています」
「バルトス御爺様も立ち寄った事があるのですか!?」
「はい。店に寄る度に旅の土産物を持参してくれました」
「へえ、それは知らなかったですね」


先帝とドルトンに面識があった事はリーリスも知っていたが、ルノと出会う前から二人が度々顔を泡わせていた事は初耳であり、こちらの店は昔から帝国の王族と縁があったらしい。


「それで王女様、今回はどのようなご用件で尋ねられたのでしょうか?」
「はい、実はドルトン様にお願いしたいことがあるのですが……」
「私を相手に様付けする必要などありません!!私は帝国の一市民に過ぎないのですから……」
「何を言われるのですか、我が国の先代皇帝の友人であるドルトン様を呼び捨てにするような事をすれば私がバルトス御爺様に怒られてしまいます。ドルトン様の方こそ他人行儀である必要はありません。私の事を様付けするのはお辞め下さい」
「しかし……」
「あの~……ちょっといいかしら?」


お互いに遠慮し合って話が進まないドルトンとジャンヌに対し、見兼ねたパイアが二人の間に割って入るとジャンヌに問い質す。


「えっと、王女様でいいのかしら?一つ聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
「は、はい……何でしょうか?」
「貴女はこの店にお客様として立ち寄ったの?それとも、ただ顔を見せに来ただけなの?」
「それは……一応は客としてこちらへ赴きました」


パイアの質問にジャンヌは自分の目的が「火竜の経験石」である事を思い出し、考えた末に客として尋ねた事を伝えると、パイアはドルトンに振り返る。


「それならうちの旦那様も王女様の事をお客様として対応して貰うわ。うちの店は必ずお客様は様付けするのが規則なんだから気にする必要はないわね。ねえ、旦那様?」
「そ、そうですな。私の店ではお客様を何よりも一番大切にしています」
「そうなのですか?では私の事は呼びやすいように呼んでください」
「はいはい、じゃあこの話はこれでお終いね」


パイアの助言によって二人の謎の譲り合いは終了し、全員が落ち着いたところで本題に入る。リーリスは真面目な表情を浮かべ、率直にドルトンに用件を告げた。


「今日はドルトンさんにお願いしたい事がってここに来ました。かなり無茶なお願い事なので驚かないで下さい」
「……ふむ、私の店にどのような用件で来られたのでしょうか?」
「この店に存在する経験石を譲ってください……ルノさんが持ち込んだ火竜の経験石もです」
「はあっ!?」


リーリスの言葉に流石のドルトンも顔色を変え、パイアも驚愕してしまう。なにしろ火竜の経験石はルノから贈り物という理由でドルトンは非常に大切に扱っており、店の商品ではなく家宝として取り扱っている。そんな大切な代物を要求してきたリーリスに対して当然のようにパイアは突っかかる。


「ちょっと、あんたね……帝国のお偉いさんだか何だか知らないけど、あれはうちの旦那様が大切にしている家宝なのよ?それにあのルノとかいう子供が旦那様にくれた物を寄越せなんて図々しいんじゃないの?」
「ただで渡せとは言いませんよ。今は無理ですけど、後で帝国の方から代金は支払います」
「そういう問題じゃないわよ!!あれはね……!!」
「パイアさん、落ち着いて下さい」


興奮してリーリスに怒鳴るパイアを落ち着かせ、ドルトンは彼女達にどうしてルノが渡してくれた火竜の経験石を求めるのかを問い質す。
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