上 下
282 / 657
帝国の危機

読唇術

しおりを挟む
「あ、待って下さい。でも話している内容は分かります」
「え?声は聞こえないんじゃないんですか?」
「いえ、読唇術というスキルも覚えているんです」
「ああ、なるほど……唇の動きで何を喋っているのか見抜く奴ですね」


直央は「読唇術」のスキルも習得しており、エルフ王国に居た時に偶然覚えていた能力である。千里眼を利用して他の人間の会話を確かめようとすると、見知った顔を発見する。


「あれ……?この人は確か……」
「誰ですか?」
「えっと、皇帝陛下も同行しています」
「皇帝陛下が?」


皇帝が賛同しているという言葉にリーリスは驚き、本来ならば国の代表と言える皇帝が軍隊に参加するなど滅多にあり得る事ではない。しかし、孫娘を取り戻すためなのか完全武装した皇帝が討伐軍の先頭を移動しており、傍には帝国四天王も従っていた。


「皇帝と四天王の人達が一緒に居ます。それと、後ろの方には兵士以外にも冒険者みたいな恰好をした人たちも続いています」
「それは帝都の冒険者ギルドで雇った冒険者でしょうね。手紙の指示通りにエルフ王国に向かっているようですね」
「でも、この作戦が上手くいってもバレたら俺達は処刑されませんか?」
「だから何としても王女様の病を治すんですよ。ついでにエルフ王国も救いましょう」
「ついでって……酷くないですか?」


あくまでもリーリスの目的は王女の治療であり、直央には悪いがエルフ王国の救援は二の次である。とはいえ、エルフ王国を救わなければ精霊薬も入手出来ず、あるいはユニコーンの一本角を手に入る機会を失う。エルフ王国を救うためには帝国の軍隊だけでは力不足であり、ルノを見つけ出すか、もしくは高名な冒険者の協力を取り次いで同行を願うしかない。


「陛下達が何を話しているか分かります?」
「えっと……エルフ王国に辿り着くまでに幾つかの街に立ち寄り、兵士の増援を行いながら向かう見たいな事を言っています」
「私の指示通りに「鬼武者」は持ってきましたか?多分、馬車か何かに乗せて運んでいるはずです。神器系の魔道具は収納石では回収出来ないはずですから……」
「ちょっと待って下さい……あ、多分見つけました」


直央は一列に並んでいる馬車の群を発見し、馬車の中身を確認する。ここで千里眼は壁なども無視して内部も確認する事が可能だと判明し、鎖に繋がれた赤色の鎧を発見した。


「なんか鎖に繋がれた鎧があるんですけど……これですか?」
「それです。見張りとかいますか?」
「いえ、いませんけど……」


馬車の中には誰も乗り込んでおらず、鎖で縛りつけられていた鎧が一つだけ放置されていた。馬車には窓の類は存在せず、厳重に戸締りされている。馬車の構造を直央が話すと、リーリスはある考えを抱く。


「直央さんの能力で馬車の中に移動する事とか出来ますか?」
「出来ると思いますけど……」
「なら、この際に鬼武者を少しの間だけ借りておきましょうか」
「え?借りる?」


リーリスの発言に直央は驚き、鬼武者を借りると言っても鎧の大きさは2メートル近くも存在し、直央やリーリスでは体格が合わない。なので内密に借りた所で直央達には使いこなせないように思われたが、リーリスは鬼武者の性能を語る。


「神器である鬼武者は使用者に合わせてサイズが変更するんです。代わりに装着できる人間は戦闘系の職業の人間だけですが……ともかく、鬼武者を装着すれば戦力を大幅に強化出来ます」
「でも、気付かれたら不味いんじゃないですか?」
「エルフ王国に辿り着くまでに直央さんも強くなりたいんでしょう?地道に魔物を倒してSPを稼いで能力強化するより、鬼武者を装着すればより強くなれるかもしれませんよ」
「う~ん……」


直央の能力は魔物を倒す事でレベルを確実に上昇するのだが、生憎とレベルの上昇によるステータスの上昇率は低い。その点ではリーリスの言葉も一理あり、直央は鬼武者が移送されている馬車の内部を確認し、空間移動を利用すれば盗み出せない事はない。


「でも、これが無くなったら帝国の人達も凄く困るんじゃないですか?」
「あくまで借りるだけですよ。エルフ王国に討伐軍が到着するまで定期的に借りて鬼武者の性能を扱いこなしましょう」
「大丈夫かな……」
「まあ、今はいいでしょう。それより、まずは獣人国へ向かいましょう。直央さんの能力を利用すればそんなに時間も掛けずに移動出来るはずですから」
「あ、はい」
「じゃあ、森の中に残していったワンコ達を回収してから向かいましょうか」


千里眼の能力を一旦解除すると、直央は今度は自分が訪れていない地域に千里眼を発動させ、空間移動を利用して長距離移動を行うために行動する。まずは森の中に戻り、魔獣達を同行させて直央は本格的に獣人国へ向かうために千里眼の能力を発動させた。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。