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帝国の危機
皇帝の嘆き
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――直央が白原に帰還を果たしてから数十分後、玉座の間には頭を抑えながら座り込む皇帝の姿が存在した。彼等の周囲にはリーリスを除く四天王が集まっており、その中には先帝の姿も存在した。
「弟よ。何時までそうやって嘆いておる?」
「……兄上よ、ジャンヌは……ジャンヌは何処だ?」
「いい加減にせぬか!!ジャンヌは攫われたのだ!!」
「おおっ……何という事だ」
虚ろな瞳で皇帝は先帝に顔を向け、嘆き悲しむ。そんな痛々しい皇帝の姿を見て将軍達は何も言えず、先帝は深い溜息を吐き出して彼の両肩を掴む。
「しっかりせんか!!それでも貴様はバルトロス帝国の皇帝かっ!!」
「しかし……ジャンヌがいなければ儂は……」
「愚か者!!」
弱音を吐こうとする弟に対して先帝は頬を平手打ちし、その光景に玉座の間に存在した全員が驚愕する。これまでに先帝であるバルトスは皇帝を度々叱りつける事はあっても手を出した事は一度もなく、常に言葉だけで彼を諭していた。そんな彼が皇帝を叩きつけた事に皆が動揺するが、先帝は構わずに皇帝を起き上がらせる。
「いい加減にせんか!!こんな場所で嘆いていてもジャンヌは戻って来ん!!」
「だ、だが……儂にどうしろというのだ?」
「貴様!!それでもこの国を担う人間かっ!!」
皇帝の言葉を聞いて再び先帝は頬を叩き、そんな彼の行動に玉座の間の兵士達が止めようとしたが、四天王がそれを制止する。立場の違いがあれど、二人が兄弟である事に変わりはなく、兄として過ちを犯そうとしている弟を放置する事などバルトスには出来なかった。
「この手紙によればジャンヌを誘拐したのは魔王軍だ!!我々が出来る事は奴らの要求を呑むか否かだ!!そして最終的な判断を貴様なのだぞ皇帝よ!!」
「しかし、もしもジャンヌの身に何かあったら儂は……」
「いい加減にせんか!!それほど孫娘が大切ならばどうして奪い返そうと行動しない!?兵士を派遣するなり、相手の策に乗ってジャンヌを取り返そうとは思わんのか?相手はジャンヌを人質として誘拐した以上、取引材料としてあの子を殺すことなど有り得ん!!」
先帝の言葉に皇帝は表情を一変させ、まだジャンヌが生きているかもしれない可能性に希望を見出し、ゆっくりと頷く。今は嘆いている場合ではなく、一刻も早くジャンヌを取り返す方法を見つけなければならない。
「すまぬ、兄上……どうやら儂は皇帝としても、そして祖父としても誤った判断を下そうとしていた」
「そうだ。やっとわかってくれたか弟よ……」
皇帝の言葉を聞いて先帝は安堵の表情を浮かべるが、状況が好転したわけではないのですぐに他の人間に振り返る。まずは現状の確認を行い、王女を誘拐した魔王軍の手掛かりを探す必要があった。だが、先帝が先に命令を下す前に皇帝が四天王に命令を下す。
「四天王よ!!儂の元へ集まれ!!」
『はっ!!』
皇帝の命令に即座に四天王が集まり、敬礼を行う。そんな彼等の顔を見て皇帝は自分にはまだ頼りになる人材が残っている事を認識し、彼等に命令を下す。
「ヒカゲよ、度重なる命令で心苦しいが王女を誘拐した者の足取りを調査するのだ!!ルノ殿の捜索のために派遣させていた部隊も呼び戻せ!!」
「……了解」
「他の者は討伐軍の武器、兵糧、軍馬の準備を今夜中に整えさせろ!!」
『はっ!!」
「おおっ……」
自分の助言も無しに的確な指示で将軍達に命令を行う皇帝の姿に先帝は感動し、孫娘を失うかもしれないという状況に陥り、やっと皇帝の立場を自覚して自分自身の意思で命令を下す皇帝の姿に先帝は感慨深げに頷く。しかし、喜んでばかりではいられず、先帝もジャンヌの捜索のために動く。
「弟よ。儂は今から冒険者ギルドへ赴き、ギルドマスターに相談して追跡能力に長けた人材を派遣して貰う。問題ないな?」
「うむ。それと敵の要求を呑む場合、この帝都の警備は冒険者に任せたい事も伝えておいてくれぬか?」
「良いのか?彼等は王国の兵士ではない以上、金が掛かるぞ」
「兄上よ、国家存亡の危機に金を惜しむ余裕などないぞ?」
「ふむ、確かにその通りだな」
皇帝の言葉に先帝は頷き、こんな状況で弟の成長を見せつけられたバルトスは無言で肩を叩き、皇帝も笑みを浮かべる。やっと兄弟として同等の立場になれたような気分を味わうが、すぐに行動に移る。
「皆の者よ!!今、この国に最大の脅威が迫っている!!しかし、我等の力ならばきっと乗り越えられるのだ!!皆で力を合わせ、ジャンヌを取り戻し、魔王軍の企みを打ち破るぞっ!!」
『はっ!!』
玉座の間に将軍と兵士達の歓声が上がり、ここに来て帝国は一丸となって魔王軍と戦う決意を固めた――
※新展開に入る前にこれまでの物語のあらすじとちょっとした報告を明日行います。
「弟よ。何時までそうやって嘆いておる?」
「……兄上よ、ジャンヌは……ジャンヌは何処だ?」
「いい加減にせぬか!!ジャンヌは攫われたのだ!!」
「おおっ……何という事だ」
虚ろな瞳で皇帝は先帝に顔を向け、嘆き悲しむ。そんな痛々しい皇帝の姿を見て将軍達は何も言えず、先帝は深い溜息を吐き出して彼の両肩を掴む。
「しっかりせんか!!それでも貴様はバルトロス帝国の皇帝かっ!!」
「しかし……ジャンヌがいなければ儂は……」
「愚か者!!」
弱音を吐こうとする弟に対して先帝は頬を平手打ちし、その光景に玉座の間に存在した全員が驚愕する。これまでに先帝であるバルトスは皇帝を度々叱りつける事はあっても手を出した事は一度もなく、常に言葉だけで彼を諭していた。そんな彼が皇帝を叩きつけた事に皆が動揺するが、先帝は構わずに皇帝を起き上がらせる。
「いい加減にせんか!!こんな場所で嘆いていてもジャンヌは戻って来ん!!」
「だ、だが……儂にどうしろというのだ?」
「貴様!!それでもこの国を担う人間かっ!!」
皇帝の言葉を聞いて再び先帝は頬を叩き、そんな彼の行動に玉座の間の兵士達が止めようとしたが、四天王がそれを制止する。立場の違いがあれど、二人が兄弟である事に変わりはなく、兄として過ちを犯そうとしている弟を放置する事などバルトスには出来なかった。
「この手紙によればジャンヌを誘拐したのは魔王軍だ!!我々が出来る事は奴らの要求を呑むか否かだ!!そして最終的な判断を貴様なのだぞ皇帝よ!!」
「しかし、もしもジャンヌの身に何かあったら儂は……」
「いい加減にせんか!!それほど孫娘が大切ならばどうして奪い返そうと行動しない!?兵士を派遣するなり、相手の策に乗ってジャンヌを取り返そうとは思わんのか?相手はジャンヌを人質として誘拐した以上、取引材料としてあの子を殺すことなど有り得ん!!」
先帝の言葉に皇帝は表情を一変させ、まだジャンヌが生きているかもしれない可能性に希望を見出し、ゆっくりと頷く。今は嘆いている場合ではなく、一刻も早くジャンヌを取り返す方法を見つけなければならない。
「すまぬ、兄上……どうやら儂は皇帝としても、そして祖父としても誤った判断を下そうとしていた」
「そうだ。やっとわかってくれたか弟よ……」
皇帝の言葉を聞いて先帝は安堵の表情を浮かべるが、状況が好転したわけではないのですぐに他の人間に振り返る。まずは現状の確認を行い、王女を誘拐した魔王軍の手掛かりを探す必要があった。だが、先帝が先に命令を下す前に皇帝が四天王に命令を下す。
「四天王よ!!儂の元へ集まれ!!」
『はっ!!』
皇帝の命令に即座に四天王が集まり、敬礼を行う。そんな彼等の顔を見て皇帝は自分にはまだ頼りになる人材が残っている事を認識し、彼等に命令を下す。
「ヒカゲよ、度重なる命令で心苦しいが王女を誘拐した者の足取りを調査するのだ!!ルノ殿の捜索のために派遣させていた部隊も呼び戻せ!!」
「……了解」
「他の者は討伐軍の武器、兵糧、軍馬の準備を今夜中に整えさせろ!!」
『はっ!!」
「おおっ……」
自分の助言も無しに的確な指示で将軍達に命令を行う皇帝の姿に先帝は感動し、孫娘を失うかもしれないという状況に陥り、やっと皇帝の立場を自覚して自分自身の意思で命令を下す皇帝の姿に先帝は感慨深げに頷く。しかし、喜んでばかりではいられず、先帝もジャンヌの捜索のために動く。
「弟よ。儂は今から冒険者ギルドへ赴き、ギルドマスターに相談して追跡能力に長けた人材を派遣して貰う。問題ないな?」
「うむ。それと敵の要求を呑む場合、この帝都の警備は冒険者に任せたい事も伝えておいてくれぬか?」
「良いのか?彼等は王国の兵士ではない以上、金が掛かるぞ」
「兄上よ、国家存亡の危機に金を惜しむ余裕などないぞ?」
「ふむ、確かにその通りだな」
皇帝の言葉に先帝は頷き、こんな状況で弟の成長を見せつけられたバルトスは無言で肩を叩き、皇帝も笑みを浮かべる。やっと兄弟として同等の立場になれたような気分を味わうが、すぐに行動に移る。
「皆の者よ!!今、この国に最大の脅威が迫っている!!しかし、我等の力ならばきっと乗り越えられるのだ!!皆で力を合わせ、ジャンヌを取り戻し、魔王軍の企みを打ち破るぞっ!!」
『はっ!!』
玉座の間に将軍と兵士達の歓声が上がり、ここに来て帝国は一丸となって魔王軍と戦う決意を固めた――
※新展開に入る前にこれまでの物語のあらすじとちょっとした報告を明日行います。
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