上 下
275 / 657
帝国の危機

手紙

しおりを挟む
――王女の寝室に引き返したダンテ達は荒らされた部屋の中を捜索し、侵入者の手掛かりになりそうな痕跡を探す。随分と荒らされた部屋の様子を見てダンテは壁や地面に減り込んだ硬貨を見て訝しむ。


「何だこれは……銅貨か?何でこんな物が部屋の中に……」
「恐らく暗殺者の使用する戦技の「指弾」で硬貨を撃ち込んだんでしょう。ですが、ヒカゲさんの話だと指弾は相手を怯ませる程度の効果しかないと聞いていましたが……」
「よく知ってんなお前、という事はこの部屋に侵入したのはやっぱり暗殺者か」
「御二人とも!!机に手紙が!!」


捜索の最中にリノンは机の上に残された手紙を発見し、ドリアに差し出す。3人は侵入者が残したとしか思えない手紙を発見した事で、相手が王女と引き換えに何らかの要求を行うのではないかと警戒する。


「……見た限りでは普通の封筒ですね。開けてみます」
「おい、大丈夫か?開けたら何か起きねえだろうな?」
「大丈夫だと思いますが……」


封筒の中に毒性の虫でも仕込まれているのではないかと警戒しながらもドリアは中身を開き、羊皮紙を取り出す。封筒には何も描かれていなかったが、羊皮紙の一番上の文章を見て3人は目を見開く。


『魔王軍最高幹部クズノから王国の愚者に向けて』


文章を読んだ途端にダンテは額に青筋を浮かべ、ドリアは戸惑い、リノンは歯を食いしばる。予想はしていたとはいえ、魔王軍の最高幹部を名乗る人間からの手紙が残されていた事に3人は混乱する。


「おい、なんて書いてあるんだ」
「これは……何てことだ。信じられない!!」
「どうしたのですか!?」


ドリアが羊皮紙の内容を読み取ると大声を上げ、そんな彼の反応にダンテとリノンは問い質すと、彼は黙って羊皮紙を二人に差し出す。


「……王女様を誘拐したのは魔王軍の幹部である自分だと記されています。しかも、既に直央様とリーリス様も自分の手の中にあると記されています」
「嘘だろおい!?」
「そんな……!?」


手紙の内容を要約すると魔王軍の最高幹部であるクズノは既にジャンヌ、直央、リーリスの三名を捕え、そして王女も誘拐した事を告げる。そして彼の要求はエルフ王国にて帝国軍の到着を待つという要求が示されており、王国が保有している全ての神器の引き渡しを命じていた。


「相手の要求は第一に帝国軍の保存している全ての神器、更に現時点で動かせる全ての軍をエルフ王国に派遣するように命じています。そして半月以内にエルフ王国へ到着しなければ以下4名を公開処刑すると書かれています……」
「ふざけんなっ!!あの直央とかいうガキはともかく、用心深いリーリスが捕まったのか!?」
「ですが実際に御二人の姿を見かけた者は居ません!!それに王女様が誘拐されたのも間違いない以上、この手紙の内容が虚言とは思えません!!」
「それは……」


ダンテは直央とリーリスの姿が見えないというドリアの言葉に黙り込み、彼だけは二人が街の外へ抜け出した事を知っていたが、敢えて黙っていた。手紙の内容によれば魔王軍の幹部が街の外へ抜け出した二人を捕まえた事になるが、ダンテは違和感を覚えた。


(攫われただと?本当にあの二人が……?)


城壁を抜け出す二人を思い返し、そもそもどうして二人が街の外へ抜け出したのかダンテは疑問に思う。だが、二人が自分の意思で城を抜け出した事は間違いなく、ダンテが見た事もない魔法を利用して街から離れたのは事実だった。


(何かきな臭いな……本当に攫われたのかあいつら?)


他国から訪れた直央の実力は分からないが、ダンテはリーリスの腕前だけは認めている。彼女は戦闘に優れているわけではないが、四天王に選ばれる程の優秀な人材である事は確かであり、実際に能力面は優れている。そうでなければ国一番の治癒魔導士と呼ばれるはずがない。


「くっ……先ほどの男が魔王軍の最高幹部だったなんて……」
「いえ、そこまでは分かりません。もしかしたら手紙の主とは違う魔王軍の配下かもしれません……しかし、この手紙の内容は腑に落ちない点があります」
「ああ、それは俺も気になっていた」


手紙の内容の最初の部分である「神器」の引き渡しに関しては納得できなくはない。神器とは過去に召喚された勇者が作り出した特別な魔道具であり、その性能は非常に優れている。だからこそ魔王軍が欲するのもおかしな話ではないが、問題なのは二つ目の要求の「軍隊をエルフ王国に派遣しろ」という謎の要求である。


「……どうして集めた軍隊をエルフ王国に派遣させるんだ?」
「そうですね。その点だけが理由が分かりません……わざわざ自分達の脅威となりえる軍隊を呼び寄せるなんて……それに行き先がエルフ王国と指定されている事も気にかかります」
「まさか、軍隊を派遣させて帝都の守備を低下させて襲撃を仕掛けるつもりでは!?」


二人の疑問にリノンは推測を口にするが、それでもダンテとドリアは納得できないように腕を組んで考え込む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。