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帝国の危機

手紙

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――王女の寝室に引き返したダンテ達は荒らされた部屋の中を捜索し、侵入者の手掛かりになりそうな痕跡を探す。随分と荒らされた部屋の様子を見てダンテは壁や地面に減り込んだ硬貨を見て訝しむ。


「何だこれは……銅貨か?何でこんな物が部屋の中に……」
「恐らく暗殺者の使用する戦技の「指弾」で硬貨を撃ち込んだんでしょう。ですが、ヒカゲさんの話だと指弾は相手を怯ませる程度の効果しかないと聞いていましたが……」
「よく知ってんなお前、という事はこの部屋に侵入したのはやっぱり暗殺者か」
「御二人とも!!机に手紙が!!」


捜索の最中にリノンは机の上に残された手紙を発見し、ドリアに差し出す。3人は侵入者が残したとしか思えない手紙を発見した事で、相手が王女と引き換えに何らかの要求を行うのではないかと警戒する。


「……見た限りでは普通の封筒ですね。開けてみます」
「おい、大丈夫か?開けたら何か起きねえだろうな?」
「大丈夫だと思いますが……」


封筒の中に毒性の虫でも仕込まれているのではないかと警戒しながらもドリアは中身を開き、羊皮紙を取り出す。封筒には何も描かれていなかったが、羊皮紙の一番上の文章を見て3人は目を見開く。


『魔王軍最高幹部クズノから王国の愚者に向けて』


文章を読んだ途端にダンテは額に青筋を浮かべ、ドリアは戸惑い、リノンは歯を食いしばる。予想はしていたとはいえ、魔王軍の最高幹部を名乗る人間からの手紙が残されていた事に3人は混乱する。


「おい、なんて書いてあるんだ」
「これは……何てことだ。信じられない!!」
「どうしたのですか!?」


ドリアが羊皮紙の内容を読み取ると大声を上げ、そんな彼の反応にダンテとリノンは問い質すと、彼は黙って羊皮紙を二人に差し出す。


「……王女様を誘拐したのは魔王軍の幹部である自分だと記されています。しかも、既に直央様とリーリス様も自分の手の中にあると記されています」
「嘘だろおい!?」
「そんな……!?」


手紙の内容を要約すると魔王軍の最高幹部であるクズノは既にジャンヌ、直央、リーリスの三名を捕え、そして王女も誘拐した事を告げる。そして彼の要求はエルフ王国にて帝国軍の到着を待つという要求が示されており、王国が保有している全ての神器の引き渡しを命じていた。


「相手の要求は第一に帝国軍の保存している全ての神器、更に現時点で動かせる全ての軍をエルフ王国に派遣するように命じています。そして半月以内にエルフ王国へ到着しなければ以下4名を公開処刑すると書かれています……」
「ふざけんなっ!!あの直央とかいうガキはともかく、用心深いリーリスが捕まったのか!?」
「ですが実際に御二人の姿を見かけた者は居ません!!それに王女様が誘拐されたのも間違いない以上、この手紙の内容が虚言とは思えません!!」
「それは……」


ダンテは直央とリーリスの姿が見えないというドリアの言葉に黙り込み、彼だけは二人が街の外へ抜け出した事を知っていたが、敢えて黙っていた。手紙の内容によれば魔王軍の幹部が街の外へ抜け出した二人を捕まえた事になるが、ダンテは違和感を覚えた。


(攫われただと?本当にあの二人が……?)


城壁を抜け出す二人を思い返し、そもそもどうして二人が街の外へ抜け出したのかダンテは疑問に思う。だが、二人が自分の意思で城を抜け出した事は間違いなく、ダンテが見た事もない魔法を利用して街から離れたのは事実だった。


(何かきな臭いな……本当に攫われたのかあいつら?)


他国から訪れた直央の実力は分からないが、ダンテはリーリスの腕前だけは認めている。彼女は戦闘に優れているわけではないが、四天王に選ばれる程の優秀な人材である事は確かであり、実際に能力面は優れている。そうでなければ国一番の治癒魔導士と呼ばれるはずがない。


「くっ……先ほどの男が魔王軍の最高幹部だったなんて……」
「いえ、そこまでは分かりません。もしかしたら手紙の主とは違う魔王軍の配下かもしれません……しかし、この手紙の内容は腑に落ちない点があります」
「ああ、それは俺も気になっていた」


手紙の内容の最初の部分である「神器」の引き渡しに関しては納得できなくはない。神器とは過去に召喚された勇者が作り出した特別な魔道具であり、その性能は非常に優れている。だからこそ魔王軍が欲するのもおかしな話ではないが、問題なのは二つ目の要求の「軍隊をエルフ王国に派遣しろ」という謎の要求である。


「……どうして集めた軍隊をエルフ王国に派遣させるんだ?」
「そうですね。その点だけが理由が分かりません……わざわざ自分達の脅威となりえる軍隊を呼び寄せるなんて……それに行き先がエルフ王国と指定されている事も気にかかります」
「まさか、軍隊を派遣させて帝都の守備を低下させて襲撃を仕掛けるつもりでは!?」


二人の疑問にリノンは推測を口にするが、それでもダンテとドリアは納得できないように腕を組んで考え込む。
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