最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

王城からの脱出

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「くうっ……うおおっ!!」
「ま、待て!!」
「逃がすなっ!!」


通路内で起きた爆発によって直央も吹き飛ばされかけるが、どうにか踏み留まると破壊した壁に向けて駆け出す。幸いと言うべきか、壁が貫通した事で王城の外へ抜け出す脱出口が誕生し、直央は壁の穴から抜け出す。


「なっ!?ここから地上までどれくらいあると思ってやがるっ!?」
「まさか……自殺!?」


壁の穴から飛び降りた直央を見て慌ててドリアとダンテが壁に移動して穴の中を覗き込むと、どう言う事なのか地上に直央の姿は見えず、完全に姿を消していた。


「ど、何処だ!?何処に消えやがった!?」
「まさか壁に張り付いてるのでは!?」


直央の姿が見えない事にドリアとダンテは戸惑うが、壁に張り付いて身を隠したのかと見渡すが、それらしき人影は見当たらない。唐突に姿を消した直央に二人は顔を見合わせ、一体何が起きたのか理解できなかった。


「消えやがった……いや、俺達の目に見えないだけか?」
「暗殺者の技能の中には姿を隠蔽する能力も存在すると聞いた事がありますが……」
「御二人とも!!あの男は王女様を連れ去ったのです!!何としても見つけ出さなければ……!!」
「うわ、馬鹿っ!?背中を押すな!!落ちるだろうがっ!!」


話し合う二人にリノンが急いたように押しのけて穴の中を覗き込み、姿を消した直央を探そうとする。慌てて身を乗り出しかねない彼女をダンテは抑え込み、状況確認のためにリノンに問い質す。


「おい!!お前はリノン、だったな?いったい何が起きたのか教えろ!!」
「ですから王女様が誘拐されたのです!!あの男を捕まえなければ……!!」
「落ち着きなさい!!王女護衛の騎士が取り乱してどうするんですか!!」


ドリアの言葉にリノンは冷静になるが、それでも直央に逃げられた事に耐え切れず、拳を強く握りしめながら報告を行う。


「私達は姫様の部屋の外で待機していたのですが、突如として部屋の中から家具を破壊する音が響き渡り、中の様子を確認しようとしたら先ほどの男が居たのです……既に我々が入り込んだ時には王女様の姿は見えませんでした」
「という事は王女様は本当に誘拐されていたのか……くそっ!!陛下に何て報告をすればいいんだ!!」
「ダンテさんも落ち着いて下さい!!リノン、貴女の話を聞く限りでは見張り役を行っていたのに部屋の侵入者に気付かなかったのですか?」
「申し訳ありません……どうやら賊は窓から入り込んだらしく、どんな方法か分かりませんが姫様を連れ去っていたんです」


リノンはその場で跪き、頭を下げる。しかし、その姿を見てもダンテとドリアは難しい表情を浮かべ、当然だが今回の件が皇帝の耳に届けばリノンだけではなく、この城内に存在する人間全員に皇帝は怒り狂うだろう。よりにもよって皇帝にとって大事な孫娘を攫われた事になり、王女の護衛を任されておきながら誘拐されてしまった護衛部隊の罪は大きい。


「おい、どうする?このまま皇帝に報告するのか?」
「いえ、まずは捜索を続けましょう……賊を見つけ出し、王女を救い出せれば問題は全て解決します。しかし、このまま賊が王女を連れ去ったとしたら……護衛部隊の失態です」
「せ、責任は私にあります!!他の者に罪はありません!!」
「お前一人の命でどうにかなる問題じゃねえんだよ……」


流石に今回ばかりはダンテとドリアも顔色が悪く、仮に王女を誘拐された場合は当然だが彼女の護衛を任されておきながら守ることが出来なかった王女の護衛部隊全員が死罪を言い渡されてもおかしくはない。この国の王女ジャンヌはたった一人の皇位継承者であり、彼女に身に何か起きれば帝国は大切な跡取りを失ってしまう。


「ともかく、まずは捜索の続行と現場を調べなければなりません。ダンテさんは地上を、僕は王女様の部屋で犯人の痕跡を探してみます。申し訳ありませんがギリョウ様とヒカゲさんの報告もお願いできますか?」
「分かった。だが、皇帝陛下の報告は結局どうする?流石に黙っているわけにもいかないだろ?」
「……皇帝陛下は現在就寝中です。報告を行うのは今から30分後にしましょう。報告が遅れた理由は城内に賊が忍び込み、その対処に追われていたという事にしましょう」


ドリアは皇帝の報告は後回しに行い、まずは賊と王女の捜索を先に行う事を提案する。一応は城内に賊が忍び込んだのも事実であり、城内の探索も話の内容も嘘とは言い切れない。既に賊が城内に侵入を許している以上、他の賊が潜んでいる可能性もあるため、報告が遅れた理由としても違和感はない。


「いいですか?30分です。この30分の間に賊の手掛かりかあるいは王女様を連れ戻せれば死罪は免れるかもしれません」
「よし、なら俺は急いで城内の探索を行う。リノン!!お前はドリアの手伝いをしろ!!」
「は、はい!!」


年下とはいえ、ドリアも優れた将軍のため、ダンテは彼の提案を受け入れ、兵士を引き連れて捜索を開始する。そしてリノンとドリアは王女が誘拐された寝室に向かう。
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