最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

王女の確保

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――四天王が裏庭に集結し、侵入者の痕跡を発見した頃、直央は城壁を上りながら王女の寝室に向かう。どうして外側から回るのかというと、寝室の前には常に大人数の女性兵士が配備されていた。なので窓側の方から侵入を試みるしかなく、決して落ちないように気を付けながら壁の隙間に指を喰い込ませて登る。


「ふうっ……やっと着いた」


王女が就寝しているはずの寝室の窓に到着し、直央は中の様子を確認する。暗闇の中でも「暗視」のスキルを利用すればセキガイセンスコープのように様子を確認する事が出来るため、既に眠っているのか部屋の中に明かりは見えず、ベッドで横たわる王女の姿も確認できた。


(本当に眠っているのかな……聴覚強化を発動させるか)


文字通りに聴覚を強化させるスキルを発動させ、窓に耳を押し当てて内部の音を確認した限り、部屋の中には王女しか存在しなかった。窓は当然だが鍵が設けられており、直央は空間魔法を発動させて鍵枠の部分に黒渦を生み出し、内側から鍵を解除する。


(起こさないようにしないと……)


音を立てずに窓を開き、内部に侵入する事に直央は成功すると、部屋の様子を伺う。寝室といっても王女が使用する部屋なので整理整頓されており、床も綺麗に磨かれていた。しかし、この綺麗な部屋を直央は自分がこれから汚さなければならない事に溜息を吐き出し、まずは土足で床を汚す。


(これぐらいでいいかな?)


敢えて足跡を残すために事前に靴は土で汚しており、いかにも窓から侵入してきたとばかりに鍵を開いた状態で開け放つ。更に部屋の中を見渡し、外に気付かれない範囲で部屋の中を荒らす。


(何だか泥棒になった気分だな……でも、仕方ないんだ)


ある程度部屋を汚せば十分だと判断し、直央は王女が眠っているベッドに近寄る。幸いと言うべきか王女は起きる様子はなく、うなされながらも深い眠りに付いていた。


「う、くうっ……」
「王女様……?」
「ふぅっ……ううっ……」


試しに直央が声を掛けても王女は起きる様子は見せず、胸元を抑えながら寝返りを打つ。直央はベッドの傍に存在する机の上に錠剤とコップが並んでいる事を知り、眠り薬で意識を無理やりに失っている事に気付く。


(真面に眠ることも出来ない程ひどい状態なのか?確かにこんな状態の娘を放っておくなんて、親として考えれば皇帝さんの事を悪く言えないな……)


自分の娘のために皇帝はエルフ王国の救援を拒んだ事に直央は納得できなかった、実際に苦しんでいる王女の様子を見れば皇帝に対して抱いていた不満は消え去り、子供を想う親の気持ちを考えれば皇帝の行動は責める事は出来ない。今回の件に関してはあくまでもタイミングが悪かっただけであり、そもそも原因は皇帝自身ではなく、魔王軍の仕業である。


「小回復」
「んっ……!!」


眠っている王女の額に手を触れ、直央は回復魔法を施す。彼の職業は「暗殺者」とはいえ、魔法を強化するスキルは殆ど習得しており、リーリス以上に高い効果を促す回復魔法を扱える。直央の魔法を受けた王女は安らかな表情を浮かべ、容態が回復したのか寝息も安らぐ。


(絶対に助けないと……!!)


決して起こさないように王女の身体を抱き上げ、直央は空間魔法を発動させて会議室で発見した木箱を取り出す。少々狭いが一時的に王女を木箱の中に入れると、しっかりと蓋をして直央は別の場所に配置させておいた黒渦の中へ送り込む。生物は異空間には収納出来ないので王女を別空間に回収する事は出来ないが、直央の空間魔法の場合は黒渦同士を利用して別の場所へ移動も出来る。


(よし、これで王女様は無事に確保した……後はここからが問題だな)


直央もこのまま空間魔法を利用して安全な場所へ移動する事も出来るが、リーリスの作戦では王女の誘拐犯として出来る限り多くの人間に姿を晒す必要があるらしく、直央はリーリスが日の国で購入して置いた「ひょっとこ」の仮面を取り付ける。


(よりにもよってなんでこんな仮面しかないなんて……まあ、別に姿を隠せればいいか)


顔さえ見られなければ問題はないため、直央は続けてベッドの傍の机にリーリスが書き記した手紙を置く。ついでに王女が無理やり誘拐されたように見せつけるために毛布を荒し、枕も床の上に放置する。深呼吸を行い、覚悟を決めると直央は硬貨を取り出す。


(連射!!)


両手に複数の硬貨を挟んだ状態で直央は「指弾」の戦技を発動させて部屋中に硬貨の弾丸を放つ。マシンガンを想像さ得る勢いで次々と壁や家具に硬貨が撃ち込まれ、騒音が響き渡る。当然だが部屋の外で待機していた女性兵士達が気付かないはずがなく、慌てて扉を押し開いて中の様子を伺う。


「姫様!!何事ですか!?」
「こ、これは!?」
「貴様、何者だ!!」


部屋の中に複数人の兵士が入り込み、その中には王女の側近を務める女性騎士のリノンの姿も存在した。彼女は荒らされた部屋と王女のベッドの傍に存在する謎の仮面を付けた男、更に開け放たれた窓を見て寝室に侵入者が入り込んだと判断した。
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