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帝国の危機
閑話 〈その頃のルノは〉
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――海獄島にて最高幹部の一人を打ち倒したルノは囚人の協力の元、島を脱出する方法を考えていた。幸いというべきか、海獄島に訪れた獣人国の移送部隊が残した物資の中には地図と羅針盤も存在し、島と大陸の位置さえ把握出来れば魔法で脱出する事も可能だった。
ルノは世話になった囚人達に礼を告げ、島から立ち去る事を決意する。別れる際に引き留められるのを避けるため、夜中の内にルノは街を抜け出して海岸に訪れる。
「よし……誰もいないな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……こいつ、重いんだからあんたが運んでよ」
「シャアアッ……」
浜辺に辿り着いたルノの背後から背中に大量の果物を詰めた布袋を抱えたリディアも立っており、その背後には彼女よりも大きな荷物を背負わされたガーゴイルの姿も存在した。この二人はルノに協力する事を条件に同行する事を認められ、島から共に脱出するために従っていた。
「一応言っておくけど、裏切ろうとしたら許さないからね」
「裏切らないわよ!!というか、魔王様を倒したあんたを裏切るはずないでしょう!!」
食料を抱えながらリディアは怒鳴り返し、ルノとしては別に聞きたい情報を聞き出せたので彼女はここに残して置くべきではないかと考えていたが、ここに残しておくと再び魔王軍が刺客を送り込む可能性もある。そう考えると彼女をここに残して置くのは危険であり、帝国に連れ出すべきだろう。
「ガーゴイルの方は新しい身体に馴染んだの?」
「シャアッ!!」
「あんたのお陰で全快よ。まさか土塊の魔法でこんな事が出来るなんて……」
負傷したガーゴイルに関しては適当な岩石をルノが土塊の魔法で変形させてガーゴイルの身体に接合させると完全復活を果たし、以前よりも逞しい肉体に変化していた。雑談を行いながらもルノは地図と羅針盤を確認し、だいたいの位置を把握するとリディアに声を掛ける。
「じゃあ、そろそろ行こうか。言っておくけど必ず大陸に送り届ける保証は出来ないからね」
「分かってるわよ……早く行きましょうよ」
「シャアアッ」
念のために最後の確認を行うと、ルノは両手を構えて氷塊の魔法を発動させる。今回は3人で移動するので飛翔術は使用せず、氷塊の魔法で戦闘機を想像させる氷塊の乗物を生成する。リディアは厚手の毛布を身体に纏い、ガーゴイルも氷に直接触れないように囚人の衣服に着替えると、3人は氷戦闘機に乗り込む。
「よし、それじゃあ出発するよ。到着までかなり掛かるから眠っててもいいよ」
「こんな場所で寝られないわよ……い、言っておくけど寝込みを襲おうなんて考えないでよ!?」
「……大丈夫、殺さないから安心していいよ」
「なんで殺す事が前提なの!?」
「シャアッ……」
夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げる二人にガーゴイルは呆れるが、その際にガーゴイルだけが氷戦闘機の窓から人影を確認し、窓の外を覗く。
「……?」
浜辺に二人の囚人の姿が存在し、ガーゴイルは不思議そうに覗き込むとこの島を仕切っている「キジン」と彼の子分である「ニオ」が立っていた。二人は黙って氷戦闘機を見つめ、何も言わずに立ち尽くしていた。
「シャアッ……」
ガーゴイルはルノに振り返って二人の存在を伝えようとしたが、先にガーゴイルが自分達を見ている事に気付いたキジンが口元に人差し指を構え、黙っているように促す。声は発しないが、二人が見送りのために訪れた事を理解する。
「……世話になった」
「兄貴……お元気で」
一言だけ二人は氷戦闘機に向けて告げると、キジンは腕を組み、ニオは涙を流しながらい火葬したロナクの灰が入った袋を握りしめる。その姿を見てガーゴイルは別れを告げるために二人がこの場所まで訪れた事を悟り、黙って窓から離れた。
「……よし、行こうか」
二人の存在に気付いていたのか、ルノは窓の方向に一度だけ視線を向けたが、気を取り直したように運転席に乗り込む。別に氷塊を操作するだけなら運転席に乗り込む必要はないが、移動する際に窓側が存在する場所に待機していた方が都合が良く、意識を集中させて氷戦闘機を発進させた。
「最初から飛ばしていくよ!!身体に襲い掛かるGに気を付けてね!!」
「えっ……どういう意味ぃいいいっ!?」
「シャアアッ!?」
初速から音速に迫る速度で発進した氷戦闘機の内部に強烈なGが襲い掛かり、リディアとガーゴイルは座席に押し付けれる。ルノの肉体にも圧力が襲い掛かるが、レベル99の身体能力は伊達ではなく、何事もない風に過ごす。
「全速力で行くよ!!」
「ちょっ……待って、降ろしてぇええっ!!」
「シャアアッ……!!」
二人の悲鳴を耳にしながらもルノは氷戦闘機の移動速度を更に上昇させ、大陸に向けて移動を開始した。
ルノは世話になった囚人達に礼を告げ、島から立ち去る事を決意する。別れる際に引き留められるのを避けるため、夜中の内にルノは街を抜け出して海岸に訪れる。
「よし……誰もいないな」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……こいつ、重いんだからあんたが運んでよ」
「シャアアッ……」
浜辺に辿り着いたルノの背後から背中に大量の果物を詰めた布袋を抱えたリディアも立っており、その背後には彼女よりも大きな荷物を背負わされたガーゴイルの姿も存在した。この二人はルノに協力する事を条件に同行する事を認められ、島から共に脱出するために従っていた。
「一応言っておくけど、裏切ろうとしたら許さないからね」
「裏切らないわよ!!というか、魔王様を倒したあんたを裏切るはずないでしょう!!」
食料を抱えながらリディアは怒鳴り返し、ルノとしては別に聞きたい情報を聞き出せたので彼女はここに残して置くべきではないかと考えていたが、ここに残しておくと再び魔王軍が刺客を送り込む可能性もある。そう考えると彼女をここに残して置くのは危険であり、帝国に連れ出すべきだろう。
「ガーゴイルの方は新しい身体に馴染んだの?」
「シャアッ!!」
「あんたのお陰で全快よ。まさか土塊の魔法でこんな事が出来るなんて……」
負傷したガーゴイルに関しては適当な岩石をルノが土塊の魔法で変形させてガーゴイルの身体に接合させると完全復活を果たし、以前よりも逞しい肉体に変化していた。雑談を行いながらもルノは地図と羅針盤を確認し、だいたいの位置を把握するとリディアに声を掛ける。
「じゃあ、そろそろ行こうか。言っておくけど必ず大陸に送り届ける保証は出来ないからね」
「分かってるわよ……早く行きましょうよ」
「シャアアッ」
念のために最後の確認を行うと、ルノは両手を構えて氷塊の魔法を発動させる。今回は3人で移動するので飛翔術は使用せず、氷塊の魔法で戦闘機を想像させる氷塊の乗物を生成する。リディアは厚手の毛布を身体に纏い、ガーゴイルも氷に直接触れないように囚人の衣服に着替えると、3人は氷戦闘機に乗り込む。
「よし、それじゃあ出発するよ。到着までかなり掛かるから眠っててもいいよ」
「こんな場所で寝られないわよ……い、言っておくけど寝込みを襲おうなんて考えないでよ!?」
「……大丈夫、殺さないから安心していいよ」
「なんで殺す事が前提なの!?」
「シャアッ……」
夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げる二人にガーゴイルは呆れるが、その際にガーゴイルだけが氷戦闘機の窓から人影を確認し、窓の外を覗く。
「……?」
浜辺に二人の囚人の姿が存在し、ガーゴイルは不思議そうに覗き込むとこの島を仕切っている「キジン」と彼の子分である「ニオ」が立っていた。二人は黙って氷戦闘機を見つめ、何も言わずに立ち尽くしていた。
「シャアッ……」
ガーゴイルはルノに振り返って二人の存在を伝えようとしたが、先にガーゴイルが自分達を見ている事に気付いたキジンが口元に人差し指を構え、黙っているように促す。声は発しないが、二人が見送りのために訪れた事を理解する。
「……世話になった」
「兄貴……お元気で」
一言だけ二人は氷戦闘機に向けて告げると、キジンは腕を組み、ニオは涙を流しながらい火葬したロナクの灰が入った袋を握りしめる。その姿を見てガーゴイルは別れを告げるために二人がこの場所まで訪れた事を悟り、黙って窓から離れた。
「……よし、行こうか」
二人の存在に気付いていたのか、ルノは窓の方向に一度だけ視線を向けたが、気を取り直したように運転席に乗り込む。別に氷塊を操作するだけなら運転席に乗り込む必要はないが、移動する際に窓側が存在する場所に待機していた方が都合が良く、意識を集中させて氷戦闘機を発進させた。
「最初から飛ばしていくよ!!身体に襲い掛かるGに気を付けてね!!」
「えっ……どういう意味ぃいいいっ!?」
「シャアアッ!?」
初速から音速に迫る速度で発進した氷戦闘機の内部に強烈なGが襲い掛かり、リディアとガーゴイルは座席に押し付けれる。ルノの肉体にも圧力が襲い掛かるが、レベル99の身体能力は伊達ではなく、何事もない風に過ごす。
「全速力で行くよ!!」
「ちょっ……待って、降ろしてぇええっ!!」
「シャアアッ……!!」
二人の悲鳴を耳にしながらもルノは氷戦闘機の移動速度を更に上昇させ、大陸に向けて移動を開始した。
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