最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

帝国の危機

洞穴の異変

「だけどロプス達が最後に見たルノさんは生きていたのは間違いないようです。あれ？そういえばミノと他の狼はどうしたんですか？」
「キュロロッ」


リーリスの言葉にロプスは二人が入ってきた出入口の通路を指差す。どうやら今現在は外に出かけているらしく、ロプスは壁の方に移動して地面を掘り起こす。


「一体何をして……なるほど、そう言う事ですか」
「骨と……これは果物の芯かな？」
「キュロッ」


ロプスが掘り起こした地面の中には大量の骨と果物の残骸が埋まっており、どうやら他の魔獣達は食料調達のために外に出向いているらしく、今までに食べ終えた食料の残骸は地面に埋めてたらしい。この事からリーリスは最初にイチとニイが遭遇した時に興奮していた理由を悟る。


「なるほど、イチとニイが襲い掛かってきたのはあまりの空腹状態で私達を餌と勘違いしたんですね」
「クゥンッ……」
「え？そんな理由で！？」
「まあ、それも仕方ないですよ。この子達は元々は野生の魔獣でしたし、それにこの白原によりつくのはゴブリンのような人型の魔物ぐらいですからね。この様子だとここ最近は碌な食べ物を得られてなかったようですし、許してあげましょう」


イチとニイは申し訳なさそうにリーリスの身体に擦り寄り、そんな彼等を特に怒った風もなくリーリスは頭を撫でる。普通の動物と違い、魔獣である彼等を飼育するのは非常に難しく、普段から人間に慣れていたとしても空腹状態に陥ると理性を失って襲い掛かる事も止むを得ない。傷を負ったルウのために餌を集めても自分達は食べずにルウに分け与えていたらしく、家族愛の溢れたイチ達の行動を責める事は出来なかった。


「それよりもルウの治療が済んだ以上、ここから離れましょう。直央さんには申し訳ないんですけど、空間移動でここからこの子達を運び出してくれませんか？」
「分かった。なら、外に出てくるからここで待っててください。準備が終えたら戻ってきます」
「キュロロッ？」


リーリスの言葉に直央は外に向かおうとすると、ロプスが彼を指差して「そもそもこの人は誰？」とばかりにリーリスに顔を向ける。説明しない訳にもいかないのでリーリスは直央が外に出る前に魔獣達に紹介を行う。


「その前にロプス達にも直央さんの事を紹介しないといけませんね。はいはい、皆さん注目してください。この人は新しいルノさんの従弟の直央さんですよ。ちゃんと挨拶して下さい」
「キュロッ」
「ウォンッ！！」
「クゥンッ……」
「あ、どうも初めまして……動物に頭を下げるなんて初めてですよ」


直央の説明を聞いた魔獣達は丁寧にお辞儀を行い、直央も慌てて頭を下げる。とりあえずはお互いの自己紹介を終えるとロプス達は直央の元に集まる。リーリスと共にルウを救ってくれた事は理解しているのか魔獣達は特に警戒心も抱かずに直央に懐く。


「キュロロロッ……」
「いててっ……ちょ、頬ずりされると鱗が痛いんだけど」
「ウォンッ！！」
「君達もここまで道案内してくれてありがとうね」
「クゥ～ンッ……」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
「……ルノさんと直央さんの家系は動物に好かれやすいんですかね？」


あっさりと魔獣達と打ち解けた直央にリーリスは不思議に思う一方、横たわっているルウの状態を調べる。傷は完治したが、出血量が非常に多いので帝都に戻って安静にさせる必要があり、すぐにこの場所から離れなければならない。


「さあ、じゃれつくのはそこまでにしてください。まずは外に出ましょう」
「そうだね。じゃあ、皆離れて……誰だ！！」
「キュロッ！？」
「ウォンッ！？」


唐突に直央は血相を変えて空洞の出入口の方向に視線を向け、険しい表情を浮かべながら腰の小袋から銅貨を取り出す。彼の反応を見てリーリスも咄嗟に出入口に視線を向けると、そこには奇妙な光景が映し出されていた。


『……おやおや、完全に気配は殺していたつもりですが気付かれましたか。これは予想外でしたね』
「皆下がって！！」


空洞内に若い男性の声が響き渡り、直央は前に身を乗り出すと出入口に両手を差し出す。リーリスの目には何も見えないが様々な技能スキルを持つ直央は姿を隠している相手の位置を正確に掴み、攻撃を行う前に警告を行う。


「姿を現せ！！隠れても無駄だぞ！！」
『なるほど、どうやら本当に私の位置を掴んでいるようですね。これは失礼しました』


直央の言葉に応えるように何もない場所からシルクハットに黒スーツという変わった格好をした男性が出現した。その光景を目撃したリーリス達は驚くが、直央だけは表情を変えないまま硬貨を握りしめる両手を突き出す。


「お前は……前に何処かで見た事があるな」
「直接対面するのは初めてですがね。改めまして……一応は初めましてというべきでしょうかね？私の名前はクズノと申します……どうぞお見知りおきを」


シルクハットを取り上げて自身を「クズノ」と名乗る男性が頭を下げると、リーリスと直央は表情を歪める。