最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

謎の気配

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「そういえばエルフ王国にユニコーンは生息するんじゃないですか?」
「さあ、見た事はないけど……でも確かに帝国と比べると珍しい魔獣は多いかな」


エルフ王国はその領地の殆どが森で覆われており、他国には生息していない魔物も多い。リ-リスの記憶が確かならばユニコーンも生息しているはずだが、直央は召喚されてからユニコーンは見かけた事はないという。


「ユニコーンの角があれば本当に精霊薬を作り出せるんですか?」
「正直に言えば可能性はある、としか言えませんね。実は私は伝説の薬師が残した調合本を持っているんですけと、この方の資料によると精霊薬を作り出すにはユニコーンの一本角が必要不可欠なんです。だから皇帝は血眼になってユニコーンを捕獲しようとしているんですよ」
「そうですか……あの、本当にあの王女様の病気を治せるのは精霊薬だけなんですか?」
「分かりません。もしかしたら他の薬で治る可能性もありますけど、他の薬を試す時間の余裕はないんです」


ジャンヌの容態は日に日に悪化しており、このままでは身体が先に限界を迎えて死亡してしまう。命を助ける最も可能性が高い方法は精霊薬を作り出す事だけである以上、どうしてもユニコーンを捕獲して精霊薬を作り出すしかない。


「う~ん……やっぱり、ここを探してもルノさんに繋がる手掛かりは見つかりそうにないですね」
「無駄足だったか……くそっ」


会話している最中にも要塞内部の状況を調査するが、結局は消えたルノに繋がる証拠は見つかる様子はなく、二人は溜息を吐きながら座り込む。このままでは本当に帝国軍は北原に向かって出発してしまい、エルフ王国の救援が遅れてしまう。


「もう時間がないのに……一体どうすればいいんだ」
「そうですね……あ、直央さん。一つ聞きたい事があるんですけどお金って持ってます?」
「えっ……お金?」
「お金があれば冒険者を雇うんですよ。ちょうどいい具合に今の帝国にはS級冒険者も集まってますからね。彼等と交渉して雇えば戦力も増えますけど……」


唐突なリーリスの質問に直央は戸惑うが、彼女は至って真面目に問い質す。資金に余裕があれば冒険者と交渉して彼等だけでも連れてエルフ王国に戻ることは出来る。普通の兵士と腕利きの冒険者では戦力に大きな差があり、実際にS級冒険者の中にはルノと渡り合った人間も存在する。


「S級冒険者の方々を連れて行けば必ず役立ちますよ。直央さんがお金を持っていればの話ですけど……」
「すいません……着の身着のまま抜け出したんでお金はあんまり持ってないです」
「まあ、そりゃそうですよね」


だが、直央は申し訳なさそうに首を振って自分のポケットの中身を取り出し、銀貨と銅貨が十数枚しか入っていない事を明かす。普段の直央はエルフ王国の護衛と行動を共にしていたので購入の際は護衛役の森人族が支払っていた。せめてS級冒険者だけでも同行できれば心強かったが、こうなった以上は別の方法を探さなけばならない。


(さて、どうしますかね……出来れば直央さんを助けてあげたいですけど、現状では私達だけでエルフ王国の救援に向かったとして無惨に殺されるだけでしょうし、ルノさんも見つからない。正に八方塞がりですね……)


リーリスとしてもルノの従弟であり、元は同じ世界の人間を見捨てるような真似はしたくない。しかし、現実的に考えても現在の状況ではどうしようも出来ない。


「仕方ありません。今日の所は城に帰りま……」
「待って!!」


帝都に帰還する事を提案しようとしたリーリスを直央が制止し、何か見つけたのかとリーリスは直央に振り返ると、彼は拳を握りしめた状態で銀貨を人差し指と親指の間に挟み、周囲を警戒するように囁く。


「気配を感じます……こっちに何かが近づいている」
「え?」


直央の言葉にリーリスは慌てて彼の背中に移動すると、周囲を見渡す。ちなみにこの場所には兵士や観光客は現在は存在せず、そもそも白原一帯には通行禁止令が施されている。理由としてはここでルノが連れ去られた可能性があり、ヒカゲの部隊が調査のために一般人が立ち寄れないようにしていた。つまり直央が感じた気配が帝国の兵士や一般人である可能性は低い。


「ま、魔物ですか?」
「少なくとも人じゃない……間違いなくここに近づいている」
「参りましたね。私、非戦闘員なんですけど……例の空間移動で逃げません?」
「大丈夫です。そこにいて下さい」


両手に銀貨を手にした状態で直央は周囲の様子を警戒する一方、リーリスも戦闘に備える。最も彼女は攻撃魔法を不得手であり、回復魔法ぐらいしか真面に扱えないのだが。
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