最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

兵士の証言

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――ダンテが近衛兵から報告を受けてから十数分後、空間移動を利用して直央とリーリスは遂に白原へと到着する。馬で移動すれば最短でも4日は費やす距離であり、ルノの飛翔術や氷塊の魔法を利用してもこれほど短時間で到着する事は出来ないだろう。


「うぉえええっ……うぷっ、うええっ……」
「ちょ、大丈夫ですか?」
「待ってください、もう少しだけ……おろろろっ」


だが、忙しなく動き回った直央の背中に揺さぶられた事が原因なのかリーリスは到着早々に吐いてしまい、直央は彼女の介抱を行いながらも前方に存在する建物に視線を向け、半壊した巨大な防壁を見上げる。


「これが噂に聞く白原の要塞か……要塞という割には随分と壊れかけてるけど」
「確かに前に訪れた時より何故か壁が崩壊してますね……ここでまた戦闘が起きた事は間違いなさそうですけど、どうやら相当に手こずったようですね」


帝国領で捕縛したデブリをエルフ王国に引き渡すため、帝国軍と王国軍は白原に部隊を派遣して人質交換を行った。エルフ王国の部隊が到着するために魔王軍の襲撃を警戒した帝国はルノの力を借りて白原に「要塞」を建設し、この場所に巨大な防壁を築き上げた。

しかし、移送部隊が到着した早々に魔王軍は2体の土竜を送り込み、防壁の内部から攻撃を仕掛けてきた。この時にルノは火竜との戦闘で編み出した「氷竜」の魔法で2体の土竜を圧倒し、討伐に成功している。その際に防壁の半分近くが破壊されてしまったが、何故か現在では半分どころか大部分の防壁が崩れて落ちていた。


「ここで何が起きたんでしょうかね……ヒカゲさんの部隊も調査したようですけど、ルノさんの探す手掛かりになるような物は残っていなかったようです」
「でも、例の手紙はここに来るように指示してたんですよね?」
「そうですね。だけど、この状態じゃ内部に入るのも苦労しそうですけど……」
「大丈夫、俺の魔法なら簡単には入れます」


破壊された防壁の残骸を乗り越えなければならないが、直央は空間移動を利用して残骸の内側の敷地へ移動する。リーリスも彼の後に続き、黒渦を通過して敷地内へ入り込む。


「これは……本当に何が起きたんでしょうかね。地面が黒焦げですよ?」
「それにこっちの壁も見てください……ここの部分だけ変な跡が残ってます」


敷地内ではルノと魔王の戦闘の痕跡が未だに残っており、リーリスはヒカゲからの報告を思い出す。彼女によると最初にここに訪れた時に「鎖」の欠片のような物が残っていたらしく、リーリスが調べた結果、鎖の正体は何らかの魔道具だと判明した。


「最初にここ調査した時に何も残っていなかったんですか?」
「鎖の欠片以外は特に何も……ですけど、不思議な事にここは観光地として有名になったんですけど、何故かルノさんが訪れた時間帯に限っては誰も人間が居なかったんです。ここの守備を任されている兵士に問い質したんですけど、ルノさんが訪れた時間帯に関して誰も見張りを行っていなかったそうです」
「え?どういう意味なんですか?守備を任されている兵士がいるのに見張りを行っていなかったなんて……」
「正確に言えば誰も覚えていないそうなんです。事件の当日、この要塞の守備を任されていた兵士達は全員が防壁の外部で意識を失っていたそうです。考えられるとしたら見張りの最中に何らかの方法で眠らされ、兵士全員を防壁の外部に放り出されていたんでしょうね」


ルノが姿を消した日、白原で滞在していた兵士達は全員が朝までは確かに要塞の警備を行っていたが、午後を迎えた後の記憶は誰も覚えていなかった。気付けば自分達が要塞から離れた草原で倒れており、慌てて守備に戻ろうとした時には既に要塞は全壊していたと報告している。

要塞の守備を任されている兵士の数は数十人程度であり、魔王軍と口裏を合わせているのではないかと疑われたが、全員が魔王軍と繋がりがあるとは考えにくい。しかも兵士の中には古参の人間も存在し、国への忠誠心も厚い。彼等全員が嘘を吐いているとは考えにくく、リーリスは兵士達が何らかの方法で眠らされた、あるいは「洗脳」されて要塞から離れるように指示されていたと推測を立てていた。


「もう少しここを調べてみますか?見つかる可能性は低いと思いますけど、まだ証拠が残っているかもしれません」
「そうですね。といっても……何処から探せばいいんでしょうかね」
「……分かりません」


二人の視界には広大な敷地と無数の防壁の残骸が散乱しており、まずは何処から捜索するべきか思い悩む。時間的にもそれほど猶予があるわけではなく、せめて今日中にルノに繋がる手掛かりを見つけなければ明日にも帝国軍の軍隊は北原に出発してしまう。
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