258 / 657
帝国の危機
兵士の証言
しおりを挟む
――ダンテが近衛兵から報告を受けてから十数分後、空間移動を利用して直央とリーリスは遂に白原へと到着する。馬で移動すれば最短でも4日は費やす距離であり、ルノの飛翔術や氷塊の魔法を利用してもこれほど短時間で到着する事は出来ないだろう。
「うぉえええっ……うぷっ、うええっ……」
「ちょ、大丈夫ですか?」
「待ってください、もう少しだけ……おろろろっ」
だが、忙しなく動き回った直央の背中に揺さぶられた事が原因なのかリーリスは到着早々に吐いてしまい、直央は彼女の介抱を行いながらも前方に存在する建物に視線を向け、半壊した巨大な防壁を見上げる。
「これが噂に聞く白原の要塞か……要塞という割には随分と壊れかけてるけど」
「確かに前に訪れた時より何故か壁が崩壊してますね……ここでまた戦闘が起きた事は間違いなさそうですけど、どうやら相当に手こずったようですね」
帝国領で捕縛したデブリをエルフ王国に引き渡すため、帝国軍と王国軍は白原に部隊を派遣して人質交換を行った。エルフ王国の部隊が到着するために魔王軍の襲撃を警戒した帝国はルノの力を借りて白原に「要塞」を建設し、この場所に巨大な防壁を築き上げた。
しかし、移送部隊が到着した早々に魔王軍は2体の土竜を送り込み、防壁の内部から攻撃を仕掛けてきた。この時にルノは火竜との戦闘で編み出した「氷竜」の魔法で2体の土竜を圧倒し、討伐に成功している。その際に防壁の半分近くが破壊されてしまったが、何故か現在では半分どころか大部分の防壁が崩れて落ちていた。
「ここで何が起きたんでしょうかね……ヒカゲさんの部隊も調査したようですけど、ルノさんの探す手掛かりになるような物は残っていなかったようです」
「でも、例の手紙はここに来るように指示してたんですよね?」
「そうですね。だけど、この状態じゃ内部に入るのも苦労しそうですけど……」
「大丈夫、俺の魔法なら簡単には入れます」
破壊された防壁の残骸を乗り越えなければならないが、直央は空間移動を利用して残骸の内側の敷地へ移動する。リーリスも彼の後に続き、黒渦を通過して敷地内へ入り込む。
「これは……本当に何が起きたんでしょうかね。地面が黒焦げですよ?」
「それにこっちの壁も見てください……ここの部分だけ変な跡が残ってます」
敷地内ではルノと魔王の戦闘の痕跡が未だに残っており、リーリスはヒカゲからの報告を思い出す。彼女によると最初にここに訪れた時に「鎖」の欠片のような物が残っていたらしく、リーリスが調べた結果、鎖の正体は何らかの魔道具だと判明した。
「最初にここ調査した時に何も残っていなかったんですか?」
「鎖の欠片以外は特に何も……ですけど、不思議な事にここは観光地として有名になったんですけど、何故かルノさんが訪れた時間帯に限っては誰も人間が居なかったんです。ここの守備を任されている兵士に問い質したんですけど、ルノさんが訪れた時間帯に関して誰も見張りを行っていなかったそうです」
「え?どういう意味なんですか?守備を任されている兵士がいるのに見張りを行っていなかったなんて……」
「正確に言えば誰も覚えていないそうなんです。事件の当日、この要塞の守備を任されていた兵士達は全員が防壁の外部で意識を失っていたそうです。考えられるとしたら見張りの最中に何らかの方法で眠らされ、兵士全員を防壁の外部に放り出されていたんでしょうね」
ルノが姿を消した日、白原で滞在していた兵士達は全員が朝までは確かに要塞の警備を行っていたが、午後を迎えた後の記憶は誰も覚えていなかった。気付けば自分達が要塞から離れた草原で倒れており、慌てて守備に戻ろうとした時には既に要塞は全壊していたと報告している。
要塞の守備を任されている兵士の数は数十人程度であり、魔王軍と口裏を合わせているのではないかと疑われたが、全員が魔王軍と繋がりがあるとは考えにくい。しかも兵士の中には古参の人間も存在し、国への忠誠心も厚い。彼等全員が嘘を吐いているとは考えにくく、リーリスは兵士達が何らかの方法で眠らされた、あるいは「洗脳」されて要塞から離れるように指示されていたと推測を立てていた。
「もう少しここを調べてみますか?見つかる可能性は低いと思いますけど、まだ証拠が残っているかもしれません」
「そうですね。といっても……何処から探せばいいんでしょうかね」
「……分かりません」
二人の視界には広大な敷地と無数の防壁の残骸が散乱しており、まずは何処から捜索するべきか思い悩む。時間的にもそれほど猶予があるわけではなく、せめて今日中にルノに繋がる手掛かりを見つけなければ明日にも帝国軍の軍隊は北原に出発してしまう。
「うぉえええっ……うぷっ、うええっ……」
「ちょ、大丈夫ですか?」
「待ってください、もう少しだけ……おろろろっ」
だが、忙しなく動き回った直央の背中に揺さぶられた事が原因なのかリーリスは到着早々に吐いてしまい、直央は彼女の介抱を行いながらも前方に存在する建物に視線を向け、半壊した巨大な防壁を見上げる。
「これが噂に聞く白原の要塞か……要塞という割には随分と壊れかけてるけど」
「確かに前に訪れた時より何故か壁が崩壊してますね……ここでまた戦闘が起きた事は間違いなさそうですけど、どうやら相当に手こずったようですね」
帝国領で捕縛したデブリをエルフ王国に引き渡すため、帝国軍と王国軍は白原に部隊を派遣して人質交換を行った。エルフ王国の部隊が到着するために魔王軍の襲撃を警戒した帝国はルノの力を借りて白原に「要塞」を建設し、この場所に巨大な防壁を築き上げた。
しかし、移送部隊が到着した早々に魔王軍は2体の土竜を送り込み、防壁の内部から攻撃を仕掛けてきた。この時にルノは火竜との戦闘で編み出した「氷竜」の魔法で2体の土竜を圧倒し、討伐に成功している。その際に防壁の半分近くが破壊されてしまったが、何故か現在では半分どころか大部分の防壁が崩れて落ちていた。
「ここで何が起きたんでしょうかね……ヒカゲさんの部隊も調査したようですけど、ルノさんの探す手掛かりになるような物は残っていなかったようです」
「でも、例の手紙はここに来るように指示してたんですよね?」
「そうですね。だけど、この状態じゃ内部に入るのも苦労しそうですけど……」
「大丈夫、俺の魔法なら簡単には入れます」
破壊された防壁の残骸を乗り越えなければならないが、直央は空間移動を利用して残骸の内側の敷地へ移動する。リーリスも彼の後に続き、黒渦を通過して敷地内へ入り込む。
「これは……本当に何が起きたんでしょうかね。地面が黒焦げですよ?」
「それにこっちの壁も見てください……ここの部分だけ変な跡が残ってます」
敷地内ではルノと魔王の戦闘の痕跡が未だに残っており、リーリスはヒカゲからの報告を思い出す。彼女によると最初にここに訪れた時に「鎖」の欠片のような物が残っていたらしく、リーリスが調べた結果、鎖の正体は何らかの魔道具だと判明した。
「最初にここ調査した時に何も残っていなかったんですか?」
「鎖の欠片以外は特に何も……ですけど、不思議な事にここは観光地として有名になったんですけど、何故かルノさんが訪れた時間帯に限っては誰も人間が居なかったんです。ここの守備を任されている兵士に問い質したんですけど、ルノさんが訪れた時間帯に関して誰も見張りを行っていなかったそうです」
「え?どういう意味なんですか?守備を任されている兵士がいるのに見張りを行っていなかったなんて……」
「正確に言えば誰も覚えていないそうなんです。事件の当日、この要塞の守備を任されていた兵士達は全員が防壁の外部で意識を失っていたそうです。考えられるとしたら見張りの最中に何らかの方法で眠らされ、兵士全員を防壁の外部に放り出されていたんでしょうね」
ルノが姿を消した日、白原で滞在していた兵士達は全員が朝までは確かに要塞の警備を行っていたが、午後を迎えた後の記憶は誰も覚えていなかった。気付けば自分達が要塞から離れた草原で倒れており、慌てて守備に戻ろうとした時には既に要塞は全壊していたと報告している。
要塞の守備を任されている兵士の数は数十人程度であり、魔王軍と口裏を合わせているのではないかと疑われたが、全員が魔王軍と繋がりがあるとは考えにくい。しかも兵士の中には古参の人間も存在し、国への忠誠心も厚い。彼等全員が嘘を吐いているとは考えにくく、リーリスは兵士達が何らかの方法で眠らされた、あるいは「洗脳」されて要塞から離れるように指示されていたと推測を立てていた。
「もう少しここを調べてみますか?見つかる可能性は低いと思いますけど、まだ証拠が残っているかもしれません」
「そうですね。といっても……何処から探せばいいんでしょうかね」
「……分かりません」
二人の視界には広大な敷地と無数の防壁の残骸が散乱しており、まずは何処から捜索するべきか思い悩む。時間的にもそれほど猶予があるわけではなく、せめて今日中にルノに繋がる手掛かりを見つけなければ明日にも帝国軍の軍隊は北原に出発してしまう。
0
お気に入りに追加
11,306
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。