上 下
254 / 657
帝国の危機

ルノの行方

しおりを挟む
(もしかしてアイラ・ハヅキは別の方法で精霊薬を作り出す手段を見つけたんでしょうか?だとしたら、どうしてその方法をエルフ王国に伝えなかったのか……何か秘密があるかもしれませんね)


リーリスが歴史上の人物の中で唯一尊敬する「アイラ・ハヅキ」は優秀な薬師でもあり、彼女の残したと思われる調合本には精霊薬の製造法も記されていた。アイラ・ハヅキが残した資料によれば精霊薬の製造に必要な素材は現在でも入手可能であり、決して製造出来ないわけではない。しかし、エルフ王国に伝わる精霊薬の製造法は現在では再現不可能だと直央は教わっている点でリーリスは精霊薬の製造法は2つ存在する事を知る。


(この事実は隠していた方がいいですね。今まではエルフ王国でしか作り出されないと思われていた精霊薬の製造法が他国に知られたら大変な事になりそうですし、それにあの本を狙う輩が現れるかもしれません。それだけは避けねば!!)


折角入手した伝説の薬師の調合本を他の人間に渡してはならないと判断し、リーリスは精霊薬の製造法が2つ存在する事を隠す事にした。幸いにも彼女以外に精霊薬の製造法が複数存在する事を知っている人間は居らず、他の人間に知られないように気を配る必要が出来た。


「ふむ、話は分かったが精霊薬がエルフ王国の世界樹に存在したとは……しかし、我等が出向いた所でエルフ王国は精霊薬を渡すのか?話を聞く限りでは王族か勇者以外の人間に使用する事は禁じられているようだが……」
「必ず説得します。それに国の危機を救ってもらえればきっと国王様も精霊薬を渡してくれるはずです!!」
「確かに北原のヨウラクより、エルフ王国の方が僅かに近いとは思いますけど……それでも危険な事に代わりありません。そもそも肝心の昆虫種の討伐方法も定まってませんからね」


距離的には北原よりもエルフ王国の方が帝都に近いが、重要なのは帝国の討伐軍がエルフ王国の軍隊を破った昆虫種の大群を討伐出来るかである。ルノが健在ならばどうにか出来たかもしれないが、その肝心のルノも行方不明のままであり、現状では帝国軍だけで対処しなければならない。


「仮にエルフ王国に向かったとしても王女様はどうするんですか?エルフ王国の昆虫種の討伐に成功したとしてもきっと相当な時間が掛かるはずです。それに精霊薬を国王が本当に引き渡すとは限りませんし……やっぱり、不安要素が多いですね」
「うむ。弟が納得するとは思えんな……」
「それは……」


直央は何も言い返せず、病で弱っている王女を救い出すには精霊薬が必要不可欠なのだが、それにはユニコーンを捕獲してリーリスが精霊薬を作りだすか、あるいはエルフ王国に赴いて昆虫種を撃退し、精霊薬を譲渡するように交渉するしかない。どちらの方法も危険が大きく、成功する確率は低い。


「どうします?一応、皇帝に面会してエルフ王国の精霊薬の件を伝えてみます?」
「止めておいた方が良い。この儂ですら弟は話を聞かず、牢に送り込んだ……あやつの意思は固い。命令が覆ることはないだろう」
「先帝様、そろそろ……」


黙って先帝と直央達の会話を見過ごしていた兵士達が話しかけ、彼等は地下牢へ先帝を送り込む事を命令されている。皇帝の命令に逆らう事は出来ず、心苦しい表情を浮かべながら兵士達は先帝を取り囲む。そんな彼等に先帝は溜息を吐き出し、最後に直央とリーリスに告げる。


「今回の問題を解決する方法があるとすればルノ殿だけだ……彼が戻ってくればどうにか出来るかも知れん」
「困ったときのルノさん頼りですね」
「そう言われては何も言い返せないのが情けないのう……しかし、ルノ殿が戻ってくれば今回の事態もどうにか出来るかも知れん」
「ルノ君……」


従弟であるルノの噂は直央も耳にしており、エルフ王国にもルノの武勇伝は届いている。曰く、竜種を薙ぎ倒し、多数の魔獣を従え、帝国の危機を幾度も救った英雄と聞いていた。直央も最初の目的は帝国軍ではなく、ルノ個人に救援を求めるために訪れた事を思い出す。


(ルノ君を見つけ出せれば……でも、どうやって?)


直央はルノの屋敷に残されていた魔王軍の幹部が書き記した手紙の存在を思い出し、手紙に記された場所へ向かえば消えたルノの手掛かりが掴めるのではないかと考え、直央はリーリスに問い質す。


「リーリスさん。ルノ君の捜索を行っている部隊から何も情報は入ってないんですか?」
「そうですね……ヒカゲさんが頑張って調査しているようですけど、白原に築いた要塞跡地にルノさんが何者かと戦った痕跡は残っていたようです。ですけど、その後の手掛かりが掴めていないんですよ」
「そうですか……」
「うむ……すまないがもう儂ではこれ以上は力になれん。しかし、何か分かったら牢へ来てくれ」


やはり現状ではルノを探し出すのは難しく、先帝は兵士に連れられて地下牢へ向かう。帝国の中では最も影響力のある人物が地下牢へ送り込まれてしまい、直央はどうする事も出来ない自分の無力さに嫌気が差す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。