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帝国の危機
皇帝の命令
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「……同盟国の勇者である直央殿の怒りは最も。でも、私達は帝国に仕える身である以上は皇帝陛下の命令は絶対。悪いけれど皇帝陛下を説得しない限りはどうしようもできない」
「それなら皇帝陛下に会わせてください!!俺が話します!!」
「そうですね……陛下は何処に居るんですか?」
「今は王女様が休んでおられる部屋に居られます。しかし、誰も通すなという命令を承っています
直央が説得を試みるために皇帝の居場所を尋ねるが、近衛兵は居場所を教えても彼を皇帝の元へ送り込むつもりはないのか立ち塞がる。彼等の行動に直央はリーリスに助けを求めるように顔を向けると、彼女は頭を掻きながらヒカゲに尋ねた。
「この様子では陛下には簡単に会えそうにありませんね……仕方ありません、ここは先帝に先に話を聞いてみましょう。今は何処に居るんですか?」
「先帝も王女様の元にいるはず。真っ先に皇帝陛下の元へ向かったから……」
「という訳です。申し訳ありませんけど先帝が陛下を説得すれば問題ないんですけど、もしも陛下が命令を覆さなかったら私達にはどうしようも出来ません」
「そんなっ……!!」
普段の態度はともかく、リーリスを含めた将軍達は帝国の家臣である以上は皇帝の命令に逆らう事は出来ない。異議を申し立てる事は出来ても最終的な決定権は皇帝が所有している。そして今回の勅命を皇帝が覆さなかった場合、集めた兵隊はエルフ王国の救援ではなく、ユニコーンを捕獲するために北原に向かわなければならない。
「くそっ……これじゃあ、何のために俺は来たんだ」
「そう落ち込まないで下さい。まだ先帝が説得できないとは限りませんし、しばらく待ちましょう」
跪いた直央にリーリスは慰めるように彼の肩に手を置き、ヒカゲに振り返る。彼女は黙って頷き、その場から姿を消す。近衛兵達は複雑そうな表情を浮かべてその場に立ち止まり、直央の様子を伺う――
――同時刻、皇帝は自分の孫娘のジャンヌがベッドに横たわっている光景を傍で確認し、彼は溜息を吐きながら自分の背後に立ち尽くしている先帝に振り返る。両者共に苦々しい表情を浮かべており、兄弟であるが故に相手の考えは表情を見ただけで予想出来る。
「兄上よ。何度言われようと儂は命令を取り消さん。帝国軍はこれからユニコーンの捕獲に向かわせる」
「何故じゃ……どうしてこれほど言っても分からん!!」
「ジャンヌが起きる。もう少し声を抑えてくれ……」
疲れた表情を浮かべながら皇帝は眠っているジャンヌの手を掴み、異様なまでに冷たい手に彼は唇を噛みしめる。その様子を見た先帝は険しい表情を浮かべ、皇帝と同じように本当の自分の孫のように可愛がっていたジャンヌの姿に心を痛める。
「この痣を見てくれ……回復魔法や薬では一時的に治っても時間が経てばまた元に戻ってしまう。リーリスがルノ殿と時に旅を出た時に様々な薬剤を旅の道中で回収させたが、結果としてはどれも全く効果はなかった」
「うむ……リーリスの見立てでは精霊薬ならば完全に呪毒を除去できる可能性があると聞いたが……」
「そう、その精霊薬に必要なのはユニコーンの角だけらしい。だからこそ一刻も早くユニコーンを捕獲しなければならん!!そのためには兵士が必要なのだ!!」
ユニコーンは竜種には劣るが魔物の中でも非常に危険性が高く、その戦闘力はサイクロプスやミノタウロスの比ではない。基本的には温厚な性格なので敵意を向けなければ襲ってくる事はないが、ユニコーンの素材は非常に貴重のため、狙う人間は多い。
「ある学者の説によれば角を失くしたユニコーンは確実に死亡する事からユニコーンの「一本角」こそが生命力の源であり、その角を利用すればあらゆる怪我や病気を癒す薬を作り出せるらしい。それにリーリスが見つけたあの伝説の「アイラ・ハヅキ」が残した調合本によれば精霊薬を作り出す素材の中にはユニコーンの一本角も含まれておる。そしてリーリスの報告によればユニコーンの一本角さえあれば精霊薬を生成する事が出来ると言ったのだ」
「しかし、ヨウラクに出向いたとしてもユニコーンがまだ白原に残っているとは限らんだろう!!それに往復するだけでも2週間はかかる距離なのだぞ?そうなれば軍隊が戻る前にエルフ王国は滅びるかも知れん!!」
「……だが、この子の命は助かる」
「貴様……!!」
皇帝の言葉に先帝は彼に掴み掛ろうとしたが、先帝の手が触れる前に皇帝が振り返り、その両目には大粒の涙を流していた。
「これが最後の機会かも知れんのだ!!兄上よ、この子の状態を見ろ!!先ほどまでは普通に喋っていたのに今では目を覚ます様子すらない!!」
「ぬうっ……!?」
「これほど我等が言い争っているにも関わらずにこの子は起きる様子も見せん!!それに治療する度にこの子は苦痛を味わっている!!身体がどれだけ楽になろうとしばらくすれば動くことが出来ない程に痛みがぶり返す!!それにも関わらずにこの子は誰にも弱音を吐かない……なんと優しい子なのだ……」
「弟よ……」
先帝は振り上げた両手を下ろし、ジャンヌに縋り付く皇帝の肩を掴む。彼の気持ちは痛い程よく分かり、先帝としてもジャンヌの命を救いたいとは思っている。しかし、彼女一人を救うためにエルフ王国に住む全ての森人族を見捨てるような真似は出来ない。
「それなら皇帝陛下に会わせてください!!俺が話します!!」
「そうですね……陛下は何処に居るんですか?」
「今は王女様が休んでおられる部屋に居られます。しかし、誰も通すなという命令を承っています
直央が説得を試みるために皇帝の居場所を尋ねるが、近衛兵は居場所を教えても彼を皇帝の元へ送り込むつもりはないのか立ち塞がる。彼等の行動に直央はリーリスに助けを求めるように顔を向けると、彼女は頭を掻きながらヒカゲに尋ねた。
「この様子では陛下には簡単に会えそうにありませんね……仕方ありません、ここは先帝に先に話を聞いてみましょう。今は何処に居るんですか?」
「先帝も王女様の元にいるはず。真っ先に皇帝陛下の元へ向かったから……」
「という訳です。申し訳ありませんけど先帝が陛下を説得すれば問題ないんですけど、もしも陛下が命令を覆さなかったら私達にはどうしようも出来ません」
「そんなっ……!!」
普段の態度はともかく、リーリスを含めた将軍達は帝国の家臣である以上は皇帝の命令に逆らう事は出来ない。異議を申し立てる事は出来ても最終的な決定権は皇帝が所有している。そして今回の勅命を皇帝が覆さなかった場合、集めた兵隊はエルフ王国の救援ではなく、ユニコーンを捕獲するために北原に向かわなければならない。
「くそっ……これじゃあ、何のために俺は来たんだ」
「そう落ち込まないで下さい。まだ先帝が説得できないとは限りませんし、しばらく待ちましょう」
跪いた直央にリーリスは慰めるように彼の肩に手を置き、ヒカゲに振り返る。彼女は黙って頷き、その場から姿を消す。近衛兵達は複雑そうな表情を浮かべてその場に立ち止まり、直央の様子を伺う――
――同時刻、皇帝は自分の孫娘のジャンヌがベッドに横たわっている光景を傍で確認し、彼は溜息を吐きながら自分の背後に立ち尽くしている先帝に振り返る。両者共に苦々しい表情を浮かべており、兄弟であるが故に相手の考えは表情を見ただけで予想出来る。
「兄上よ。何度言われようと儂は命令を取り消さん。帝国軍はこれからユニコーンの捕獲に向かわせる」
「何故じゃ……どうしてこれほど言っても分からん!!」
「ジャンヌが起きる。もう少し声を抑えてくれ……」
疲れた表情を浮かべながら皇帝は眠っているジャンヌの手を掴み、異様なまでに冷たい手に彼は唇を噛みしめる。その様子を見た先帝は険しい表情を浮かべ、皇帝と同じように本当の自分の孫のように可愛がっていたジャンヌの姿に心を痛める。
「この痣を見てくれ……回復魔法や薬では一時的に治っても時間が経てばまた元に戻ってしまう。リーリスがルノ殿と時に旅を出た時に様々な薬剤を旅の道中で回収させたが、結果としてはどれも全く効果はなかった」
「うむ……リーリスの見立てでは精霊薬ならば完全に呪毒を除去できる可能性があると聞いたが……」
「そう、その精霊薬に必要なのはユニコーンの角だけらしい。だからこそ一刻も早くユニコーンを捕獲しなければならん!!そのためには兵士が必要なのだ!!」
ユニコーンは竜種には劣るが魔物の中でも非常に危険性が高く、その戦闘力はサイクロプスやミノタウロスの比ではない。基本的には温厚な性格なので敵意を向けなければ襲ってくる事はないが、ユニコーンの素材は非常に貴重のため、狙う人間は多い。
「ある学者の説によれば角を失くしたユニコーンは確実に死亡する事からユニコーンの「一本角」こそが生命力の源であり、その角を利用すればあらゆる怪我や病気を癒す薬を作り出せるらしい。それにリーリスが見つけたあの伝説の「アイラ・ハヅキ」が残した調合本によれば精霊薬を作り出す素材の中にはユニコーンの一本角も含まれておる。そしてリーリスの報告によればユニコーンの一本角さえあれば精霊薬を生成する事が出来ると言ったのだ」
「しかし、ヨウラクに出向いたとしてもユニコーンがまだ白原に残っているとは限らんだろう!!それに往復するだけでも2週間はかかる距離なのだぞ?そうなれば軍隊が戻る前にエルフ王国は滅びるかも知れん!!」
「……だが、この子の命は助かる」
「貴様……!!」
皇帝の言葉に先帝は彼に掴み掛ろうとしたが、先帝の手が触れる前に皇帝が振り返り、その両目には大粒の涙を流していた。
「これが最後の機会かも知れんのだ!!兄上よ、この子の状態を見ろ!!先ほどまでは普通に喋っていたのに今では目を覚ます様子すらない!!」
「ぬうっ……!?」
「これほど我等が言い争っているにも関わらずにこの子は起きる様子も見せん!!それに治療する度にこの子は苦痛を味わっている!!身体がどれだけ楽になろうとしばらくすれば動くことが出来ない程に痛みがぶり返す!!それにも関わらずにこの子は誰にも弱音を吐かない……なんと優しい子なのだ……」
「弟よ……」
先帝は振り上げた両手を下ろし、ジャンヌに縋り付く皇帝の肩を掴む。彼の気持ちは痛い程よく分かり、先帝としてもジャンヌの命を救いたいとは思っている。しかし、彼女一人を救うためにエルフ王国に住む全ての森人族を見捨てるような真似は出来ない。
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