最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

勅命

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「皇帝陛下からの勅命です!!帝国四天王の方々は今すぐに兵を率いて北原のヨウラクに向かうようにとの命です!!」
「はあっ!?」
「……北原?」


近衛兵の言葉にリーリスは呆気に取られた声を上げ、直央も驚きを隠せない。北原とは名前の通りに帝国の北に存在する広大な草原の事であり、この草原を抜けると巨人国へと到達する。そしてヨウラクとは北原に存在する帝国の城であり、数百年前は首都して栄えていた街である。

現在のヨウラクには十数万人の民衆と数千人の兵士が配備されており、何度か巨人国が領地拡大のために侵攻した事はあるが、堅固な守備で一度たりとも敵兵を城内に入れた事もない。帝国領地の中でも一際優れた要害として有名であり、エルフ王国に住んでいる直央でさえも名前ぐらいは聞いた事があるほど有名な城である。

しかし、エルフ王国に向かうための準備していたのに急遽行き先をヨウラクに変更し、しかも準備が完全に終わらない内にヨウラクに向かうように皇帝が命令を下した事に疑問を抱き、リーリスは近衛兵に問い質す。


「どうして急にヨウラクに向かうように陛下は言われたんですか?理由を教えてくれないと困りますよ」
「それは……」
「私が説明する」
「うわぁっ!?何時から居たんですか!?」


近衛兵が答える前にリーリスは背後から声を掛けられ、振り返るとそこにはルノの探索のために帝都近辺で調査をしているはずのヒカゲが存在した。リーリスはヒカゲが戻っていたことも驚いたが、彼女から告げられた言葉に更に驚愕した。


「ヨウラク地方から早馬が到着した……北原の中腹部にてユニコーンの目撃情報があった」
「えっ!?本当ですか!?」
「ユニコーンって……あの?」


王女の身体を侵す「呪毒」を完全に除去する事が出来るのはリーリスの見立てでは「精霊薬」だけである。そして精霊薬の生成に必要不可欠なのはユニコーンの一本角であり、そのユニコーンが帝国領地内で発見されたという。


「本当にユニコーンが見つかったんですか?」
「ヨウラクに勤務する兵士からの報告書が届いただけ。北原のヨウラクからこの帝都までは馬で急いでも移動しても1週間はかかる……でも皇帝陛下はこの報告を聞いてすぐにユニコーンを捕まえるように命令を下した」
「そんな……じゃあ、エルフ王国はどうなるんですか!?」


移動するだけで1週間かかるとすれば往復で2週間は移動だけに時間を費やすことになり、しかもユニコーンの捜索を行う事も考えれば2週間では収まらない日数が掛かってしまう。今から集めた兵士をヨウラクに向かわせればエルフ王国の救援は大幅に遅れてしまうだろう。


「帝国はエルフ王国の救援を中断して北原に向かうつもりですか!?」
「……貴方の気持ちはよく分かる。でも、先帝が陛下を説得しようとしているけど頑なに聞き入れない。陛下の命令は全軍を率いてヨウラクに直行し、ユニコーンを捕獲するように既に勅命を与えている」
「そんな……どうしてそんな事を!?」


王女の事情を知らない直央にとっては皇帝の命令は納得できるはずがなく、帝国が王国の同盟国として援軍を派遣する事を約束したのに先延ばしにされた事に等しい。そんな彼を不憫に思い、本来は部外者に伝える事は禁じられているがリーリスは帝国の事情を話す。


「直央さんは知らないようなので教えますけど、実は王女様は特殊な毒で身体を侵されているんです。先日、私が王女様に回復魔法を施していたことを覚えてますか?」
「王女様……あの時の?」


リーリスの言葉に直央は先日の裏庭の一件を思い出し、苦痛の表情を浮かべながら気絶していた王女ジャンヌの事を思い出す。先日の時は彼女の治療に直央も貢献しており、その事がどうして今回の皇帝の命令の件と繋がるのかをリーリスは説明する。


「王女様の身体はバイコーンの呪毒に侵されています。この呪毒を完全に除去するにはユニコーンの角が必要なんです。だから皇帝陛下はずっとユニコーンを捜索し続けてるです」
「ユニコーンを……でも、だからってここまで集めた兵士をヨウラクに向かわせてユニコーンの捕獲に参加させないといけないんですか!?ヨウラクに住んでいる兵士の人達だけで捕獲出来ないんですか!?」
「無理、でしょうね。ユニコーンは竜種とまではいきませんが魔物の中でも非常に手強い相手です。性格はバイコーンよりも温厚らしいですが、怒らせれば数千の兵士程度ではどうしようも出来ません。だから皇帝陛下は私達にもユニコーンの捕獲のために向かわせようとしているんですよね?」
「そう。ユニコーンがどうして北原に現れたのかは不明だけど、ユニコーンを捕まえる好機を陛下は逃す事は出来ない。だから私達に捕獲を命じた」
「ならエルフ王国はどうなるんですか!!」


二人の言葉に直央は怒鳴りつけると、周囲で荷物の点検を行っていた人間達も何事かと視線を向け、リーリスに勅命を伝えに来た近衛兵達も険しい表情を浮かべる。
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