最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
249 / 657
帝国の危機

勅命

しおりを挟む
「皇帝陛下からの勅命です!!帝国四天王の方々は今すぐに兵を率いて北原のヨウラクに向かうようにとの命です!!」
「はあっ!?」
「……北原?」


近衛兵の言葉にリーリスは呆気に取られた声を上げ、直央も驚きを隠せない。北原とは名前の通りに帝国の北に存在する広大な草原の事であり、この草原を抜けると巨人国へと到達する。そしてヨウラクとは北原に存在する帝国の城であり、数百年前は首都して栄えていた街である。

現在のヨウラクには十数万人の民衆と数千人の兵士が配備されており、何度か巨人国が領地拡大のために侵攻した事はあるが、堅固な守備で一度たりとも敵兵を城内に入れた事もない。帝国領地の中でも一際優れた要害として有名であり、エルフ王国に住んでいる直央でさえも名前ぐらいは聞いた事があるほど有名な城である。

しかし、エルフ王国に向かうための準備していたのに急遽行き先をヨウラクに変更し、しかも準備が完全に終わらない内にヨウラクに向かうように皇帝が命令を下した事に疑問を抱き、リーリスは近衛兵に問い質す。


「どうして急にヨウラクに向かうように陛下は言われたんですか?理由を教えてくれないと困りますよ」
「それは……」
「私が説明する」
「うわぁっ!?何時から居たんですか!?」


近衛兵が答える前にリーリスは背後から声を掛けられ、振り返るとそこにはルノの探索のために帝都近辺で調査をしているはずのヒカゲが存在した。リーリスはヒカゲが戻っていたことも驚いたが、彼女から告げられた言葉に更に驚愕した。


「ヨウラク地方から早馬が到着した……北原の中腹部にてユニコーンの目撃情報があった」
「えっ!?本当ですか!?」
「ユニコーンって……あの?」


王女の身体を侵す「呪毒」を完全に除去する事が出来るのはリーリスの見立てでは「精霊薬」だけである。そして精霊薬の生成に必要不可欠なのはユニコーンの一本角であり、そのユニコーンが帝国領地内で発見されたという。


「本当にユニコーンが見つかったんですか?」
「ヨウラクに勤務する兵士からの報告書が届いただけ。北原のヨウラクからこの帝都までは馬で急いでも移動しても1週間はかかる……でも皇帝陛下はこの報告を聞いてすぐにユニコーンを捕まえるように命令を下した」
「そんな……じゃあ、エルフ王国はどうなるんですか!?」


移動するだけで1週間かかるとすれば往復で2週間は移動だけに時間を費やすことになり、しかもユニコーンの捜索を行う事も考えれば2週間では収まらない日数が掛かってしまう。今から集めた兵士をヨウラクに向かわせればエルフ王国の救援は大幅に遅れてしまうだろう。


「帝国はエルフ王国の救援を中断して北原に向かうつもりですか!?」
「……貴方の気持ちはよく分かる。でも、先帝が陛下を説得しようとしているけど頑なに聞き入れない。陛下の命令は全軍を率いてヨウラクに直行し、ユニコーンを捕獲するように既に勅命を与えている」
「そんな……どうしてそんな事を!?」


王女の事情を知らない直央にとっては皇帝の命令は納得できるはずがなく、帝国が王国の同盟国として援軍を派遣する事を約束したのに先延ばしにされた事に等しい。そんな彼を不憫に思い、本来は部外者に伝える事は禁じられているがリーリスは帝国の事情を話す。


「直央さんは知らないようなので教えますけど、実は王女様は特殊な毒で身体を侵されているんです。先日、私が王女様に回復魔法を施していたことを覚えてますか?」
「王女様……あの時の?」


リーリスの言葉に直央は先日の裏庭の一件を思い出し、苦痛の表情を浮かべながら気絶していた王女ジャンヌの事を思い出す。先日の時は彼女の治療に直央も貢献しており、その事がどうして今回の皇帝の命令の件と繋がるのかをリーリスは説明する。


「王女様の身体はバイコーンの呪毒に侵されています。この呪毒を完全に除去するにはユニコーンの角が必要なんです。だから皇帝陛下はずっとユニコーンを捜索し続けてるです」
「ユニコーンを……でも、だからってここまで集めた兵士をヨウラクに向かわせてユニコーンの捕獲に参加させないといけないんですか!?ヨウラクに住んでいる兵士の人達だけで捕獲出来ないんですか!?」
「無理、でしょうね。ユニコーンは竜種とまではいきませんが魔物の中でも非常に手強い相手です。性格はバイコーンよりも温厚らしいですが、怒らせれば数千の兵士程度ではどうしようも出来ません。だから皇帝陛下は私達にもユニコーンの捕獲のために向かわせようとしているんですよね?」
「そう。ユニコーンがどうして北原に現れたのかは不明だけど、ユニコーンを捕まえる好機を陛下は逃す事は出来ない。だから私達に捕獲を命じた」
「ならエルフ王国はどうなるんですか!!」


二人の言葉に直央は怒鳴りつけると、周囲で荷物の点検を行っていた人間達も何事かと視線を向け、リーリスに勅命を伝えに来た近衛兵達も険しい表情を浮かべる。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。