最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

直央の能力

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「さあ、王女様を部屋まで案内してください。容態がまた悪化する前に移動しましょう」
「申し訳ありません……」
「謝る必要はない。お主が悪いわけではないのだ……儂が連れて行く」


皇帝がジャンヌを抱えて部屋の方へ向かい、その後ろ姿を見ながら先帝はリーリスに率直に問い質す。


「リーリスよ。ジャンヌの身体はどうなのだ?」
「正直に言えば不味い状況です。もしも直央さんがいなければ死んでいたかもしれません……もう私の手に負える状態ではないかもしれません」
「……何とかならんのか?」
「いくら回復魔法を施そうと呪毒を完全に除去しないといけません。それには精霊薬が必要なんですが……」


リーリスはルノから頂いた本の内容を思い返し、精霊薬を作り出すには「ユニコーン」の角が必要不可欠である事を思い出す。バイコーンによって毒に侵されたジャンヌを救い出すためには精霊薬を使用するしかないが、ユニコーンなど帝国の領地では滅多に見かける存在ではない。


「……ユニコーンを見つけられなければ精霊薬は作り出せん。唯一精霊薬を保有しているエルフ王国が滅亡の危機を迎えている。当然、王国が滅びれば精霊薬を入手する手段はなくなる、か……」
「こればっかりはルノさんが居てもどうしようも出来ませんね。せめてユニコーンの生息地が分かればどうにでもなるかもしれませんけど……」


ジャンヌの命は一刻を争うのは間違いないが、現状では手の施しようがない。回復魔法を幾ら施しても根本的な解決にはならず、精霊薬を作り出すか見つけ出さなければジャンヌの命はない。そしてジャンヌが死ねば王国を受け継ぐ者はいなくなり、バルトロス王国の血筋が途絶えてしまう。


「リーリスよ。儂は覚悟を決めたぞ……エルフ王国へ向けて出兵する」
「本気ですか?先日に魔王軍に襲撃を受けたばかりなのに……それに帝都の防備を疎かにすることは出来ない以上、出兵できる兵士の数は限られますよ」
「それでもこのまま見過ごすことは出来ん!!」


先帝は険しい表情を浮かべながら出兵の準備のために動き出し、その後姿を見送ったリーリスは溜息を吐く。先帝の気持ちは分からないでもないが、現状で大群を出兵する事は不可能である。昆虫種に対抗する武器も用意する必要があり、リーリスは自分の研究室に戻った――




――さらに数日の時が経過し、帝都の郊外には各地方から呼び寄せられた兵士達が集まっていた。皇帝の命令により、帝都近辺の街に配備させている兵を呼び寄せ、更に冒険者ギルドからも腕利きの冒険者たちを派遣して貰う。その数は1万にまで膨れ上がったが、それでも心許ない。


約三か月分の兵糧や武器も用意を行い、更に移動用の馬や馬車も大量に用意する。ルノが存在すれば彼の氷塊の魔法で無数の乗物を作り出し、空を移動して最短距離でエルフ王国まで辿り着けるのだが、他の人間にルノのように初級魔法を扱いこなす事は出来ない。


「凄い数ですね。でも、出発までまだ時間が掛かるんですか?」
「はい。もう少し兵士を集めないと話になりませんからね。私の魔導大砲の移送準備も行わないといけませんし……収納石にも限りがありますからね」


帝都を取り囲む防壁の上で直央を連れて荷物の点検を行っているリーリスは城外へ運び出される魔導大砲に視線を向ける。兵士達が荷車を利用して大砲を運び込むが、正直に言えば今回の戦闘でどれほど役立つのかは不明である。


(一応は回収した分の大砲は修復完了しましたが、やはり問題なのは弾の方ですね。使いどころを誤らないようにしないと……)


先の岩人形との戦闘で吸魔石製の弾はほぼ使い切っており、現在は水属性の適性を持つ魔術師達が必死に弾の製作を行っているが、あまり成果はない。ルノがいれば短期間で大量の弾を作り出せるのだが、彼が居ない以上は地道に作り出すしかない。


(同じ勇者である直央さんなら初級魔法を極められると期待したんですけど、やっぱり職業的に無理なんですかね)


試しにリーリスは直央にルノが扱っている初級魔法を教えたのだが、残念ながら直央でさえもルノの様に初級魔法を巧みに扱いこなせなかった。やはり初級魔法を完全に極められるのは「初級魔術師」だけであり、他の職業の人間では初級魔法は極められない可能性が高かった。


「あの……急かしたいわけじゃないんですけど、出発までに正確にどれくらいかかりますか?」
「今日中に準備を終えたとしても出発は明日になります。今から急いで移動したとしてもエルフ王国に辿り着くまでに通り過ぎる街で休憩や補給も必要ですし、急いだとしてもエルフ王国に到着するのは2週間は掛かりますね」
「2週間……」
「これでも急いだ方なんですよ。気持ちは分かりますが、今は落ち着いて下さい」
「はい……」


リーリスの言葉に直央は頷くが、その手は痛いほどに握りしめられていた。
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