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帝国の危機
小回復
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――リーリスが裏庭に到着した時には既に大勢の人間が集まっており、皇帝が王女を抱えていた。王女の皮膚には黒色の蛇のような跡が浮かんでおり、苦痛の表情を浮かべながら祖父の手を握りしめる。
「お爺様……申し訳ありません」
「何を謝っているのだ!!早く、誰かリーリスを呼んで来い!!ジャンヌよ、儂はここにいるぞ!!」
既に視力も失っているのかジャンヌの瞳は焦点が合っておらず、皇帝は必死に呼びかける。その様子を見たリーリスは溜息を吐き出し、他の人間をかき分けて二人の前に辿り着く。
「退いて下さい!!具合はどうですか?」
「おお、リーリス……頼む、儂の孫を救ってくれ!!」
「落ち着かんか!!ここはリーリスに任せろ!!」
取り乱したようにジャンヌの身体を抱き締める皇帝を先帝が落ち着かせ、どうにか彼からジャンヌを引き剥がす。すぐにリーリスはジャンヌを横にして容態を確認し、周囲にいる者達に指示を与える。
「すぐに私の研究室から薬を持ってきてください!!それと大きな布とお湯も用意して!!」
「は、はい!!」
「それと男の人はここから離れて下さい!!今から王女様の服を脱がしますから……」
「それはいかん!?お前達、すぐにここから離れろ!!」
『はっ!!』
皇帝の命令に集まっていた男性陣は引き下がり、その間にリーリスはジャンヌの様子を伺う。服を脱がした限りでは既に身体のあちこちの皮膚が黒色化しており、危険な状態だった。ジャンヌは強力な呪いに侵されているため、通常の回復薬では効果は薄い。
「回復魔法を施します。すぐに他の治癒魔導士も呼んできてください」
「リーリス、申し訳ありません……」
「いいから動かないで!!」
リーリスは両手を構えてジャンヌの肉体に魔法を施し、症状を抑える。呪いに対抗するには聖属性の魔法が最も効果的なのだが、バイコーンによって埋め込まれた「呪毒」を完全に浄化する事はリーリスに出来ない。
(くっ……いつもより症状が悪化してます。このままでは……!!)
必死に魔法を発動させるが、ジャンヌの意識は既に途切れかかっており、黒色化の侵食を止められない。このままでは不味い事は分かっているが、リーリスだけでは止めることが出来ない。
「ジャンヌ……お前の祖父はここにいるぞ……!!」
「ジャンヌ!!しっかりしろ!!目を覚ませ!!」
皇帝と先帝は必死に声をかけるがジャンヌは既に返事も行えず、息を荒げながら天空を見つめる。瞼も開く事も出来ない程に衰弱しており、このままでは命が持たない。リーリスはまだ薬を持ってこない兵士達に苛立つが、そんな彼女の背後から気配も感じさせずに彼女の肩を掴む者がいた。
「俺も手伝わせて」
「貴方は……!?」
後方を振り返ると、そこには深刻な表情を浮かべる直央の姿があった。その場にいた全員が彼がここに現れた事に疑問を抱くが、直央は返事も聞かずにジャンヌの傍に近寄る。治療中のために服をはだけた状態のジャンヌに近づいた皇帝が真っ先に怒鳴りつける。
「貴様!!我が孫娘に近づくな!!」
「待て!!いいから落ち着くのだ……お主、回復魔法も扱えるのか?」
「一応は……手伝います」
エルフ王国の勇者である直央ならば回復魔法の心得もあるのかと先帝は期待すると、直央はそれに応えるように両手を差し出し、ジャンヌの右手を掴む。
「小回復」
「っ……!?」
「これは……!?」
直央が魔法名を告げた瞬間、ジャンヌの肉体が光り輝き、膨大な聖属性の魔力が注ぎ込まれる。その光景に誰もが驚くが、ジャンヌの肉体に広がっていた「黒色化」が収まり、彼女も意識を取り戻す。
「こ、これは……身体が楽になりました」
「おお、ジャンヌよ!!意識を取り戻したのか!?」
「よくやったぞ勇者殿!!」
「いえ……」
自分の手を握りしめる直央に対してジャンヌは戸惑いの表情を浮かべるが、すぐに自分の衣服が乱れている事に気付き、慌てて頬を赤く染めて身体を覆い隠す。その様子を見た直央は苦笑し、その場を立ち去ろうとする。
「じゃあ、俺はこれで……部屋に戻ります」
「あっ……」
「礼を言うぞ勇者よ……だが、娘の痴態を見た事に関しては決して誰にも言いふらすな」
「弟よ……いくら何でも命の恩人に対してそれはないだろう」
ジャンヌを抱えながら皇帝は直央に礼を告げるが、自分の大切な孫娘の身体を見るだけではなく、触れた直央を睨みつける。そんな大人気の無い態度に先帝は呆れてしまうが、一方でリーリスは直央の回復魔法の効果に不思議に思う。
(小回復……確か最も回復効果が低くて時間が掛かる魔法だと思っていましたがこれほどの効果があるなんて……やはり直央さんも勇者ですね)
直央の職業は尋ねてはいないが恐らくは「暗殺者」で間違いなく、治癒魔導士ではない。それでもジャンヌの容態を回復させる程の効果の高い回復魔法を扱える点ではルノと同様に才能に満ち溢れた人物である事は間違いない。
「お爺様……申し訳ありません」
「何を謝っているのだ!!早く、誰かリーリスを呼んで来い!!ジャンヌよ、儂はここにいるぞ!!」
既に視力も失っているのかジャンヌの瞳は焦点が合っておらず、皇帝は必死に呼びかける。その様子を見たリーリスは溜息を吐き出し、他の人間をかき分けて二人の前に辿り着く。
「退いて下さい!!具合はどうですか?」
「おお、リーリス……頼む、儂の孫を救ってくれ!!」
「落ち着かんか!!ここはリーリスに任せろ!!」
取り乱したようにジャンヌの身体を抱き締める皇帝を先帝が落ち着かせ、どうにか彼からジャンヌを引き剥がす。すぐにリーリスはジャンヌを横にして容態を確認し、周囲にいる者達に指示を与える。
「すぐに私の研究室から薬を持ってきてください!!それと大きな布とお湯も用意して!!」
「は、はい!!」
「それと男の人はここから離れて下さい!!今から王女様の服を脱がしますから……」
「それはいかん!?お前達、すぐにここから離れろ!!」
『はっ!!』
皇帝の命令に集まっていた男性陣は引き下がり、その間にリーリスはジャンヌの様子を伺う。服を脱がした限りでは既に身体のあちこちの皮膚が黒色化しており、危険な状態だった。ジャンヌは強力な呪いに侵されているため、通常の回復薬では効果は薄い。
「回復魔法を施します。すぐに他の治癒魔導士も呼んできてください」
「リーリス、申し訳ありません……」
「いいから動かないで!!」
リーリスは両手を構えてジャンヌの肉体に魔法を施し、症状を抑える。呪いに対抗するには聖属性の魔法が最も効果的なのだが、バイコーンによって埋め込まれた「呪毒」を完全に浄化する事はリーリスに出来ない。
(くっ……いつもより症状が悪化してます。このままでは……!!)
必死に魔法を発動させるが、ジャンヌの意識は既に途切れかかっており、黒色化の侵食を止められない。このままでは不味い事は分かっているが、リーリスだけでは止めることが出来ない。
「ジャンヌ……お前の祖父はここにいるぞ……!!」
「ジャンヌ!!しっかりしろ!!目を覚ませ!!」
皇帝と先帝は必死に声をかけるがジャンヌは既に返事も行えず、息を荒げながら天空を見つめる。瞼も開く事も出来ない程に衰弱しており、このままでは命が持たない。リーリスはまだ薬を持ってこない兵士達に苛立つが、そんな彼女の背後から気配も感じさせずに彼女の肩を掴む者がいた。
「俺も手伝わせて」
「貴方は……!?」
後方を振り返ると、そこには深刻な表情を浮かべる直央の姿があった。その場にいた全員が彼がここに現れた事に疑問を抱くが、直央は返事も聞かずにジャンヌの傍に近寄る。治療中のために服をはだけた状態のジャンヌに近づいた皇帝が真っ先に怒鳴りつける。
「貴様!!我が孫娘に近づくな!!」
「待て!!いいから落ち着くのだ……お主、回復魔法も扱えるのか?」
「一応は……手伝います」
エルフ王国の勇者である直央ならば回復魔法の心得もあるのかと先帝は期待すると、直央はそれに応えるように両手を差し出し、ジャンヌの右手を掴む。
「小回復」
「っ……!?」
「これは……!?」
直央が魔法名を告げた瞬間、ジャンヌの肉体が光り輝き、膨大な聖属性の魔力が注ぎ込まれる。その光景に誰もが驚くが、ジャンヌの肉体に広がっていた「黒色化」が収まり、彼女も意識を取り戻す。
「こ、これは……身体が楽になりました」
「おお、ジャンヌよ!!意識を取り戻したのか!?」
「よくやったぞ勇者殿!!」
「いえ……」
自分の手を握りしめる直央に対してジャンヌは戸惑いの表情を浮かべるが、すぐに自分の衣服が乱れている事に気付き、慌てて頬を赤く染めて身体を覆い隠す。その様子を見た直央は苦笑し、その場を立ち去ろうとする。
「じゃあ、俺はこれで……部屋に戻ります」
「あっ……」
「礼を言うぞ勇者よ……だが、娘の痴態を見た事に関しては決して誰にも言いふらすな」
「弟よ……いくら何でも命の恩人に対してそれはないだろう」
ジャンヌを抱えながら皇帝は直央に礼を告げるが、自分の大切な孫娘の身体を見るだけではなく、触れた直央を睨みつける。そんな大人気の無い態度に先帝は呆れてしまうが、一方でリーリスは直央の回復魔法の効果に不思議に思う。
(小回復……確か最も回復効果が低くて時間が掛かる魔法だと思っていましたがこれほどの効果があるなんて……やはり直央さんも勇者ですね)
直央の職業は尋ねてはいないが恐らくは「暗殺者」で間違いなく、治癒魔導士ではない。それでもジャンヌの容態を回復させる程の効果の高い回復魔法を扱える点ではルノと同様に才能に満ち溢れた人物である事は間違いない。
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