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帝国の危機
リーリスの胸中
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――結局、会議では打開策は見つからず、ルノの捜索を開始する事が決定しただけで肝心のエルフ王国の対応は後回しとなる。王国が追い詰められている事は理解しているが、今の帝国に軍隊を派遣する余裕はない。
「はあっ……なんでこういう面倒な役回りはいつも私なんですかね」
溜息を吐きながらリーリスは直央が宿泊している部屋に向かい、会議の内容をどのように伝えるべきか思い悩む。ルノが相手ならば馬鹿正直に会議の結果を伝える所だが、王国から苦労して訪れた直央に対し、帝国は援軍は派遣できない事を伝えるのは酷だった。
「どうしましょうかね。こんな事ならもっと開発部の予算を上げて貰うべきでした。そうすれば色々な魔道具が作れたのに……あ、魔道具と言えばあれがありましたね」
リーリスはルノのために用意した「ガトリング」を思い出し、彼女が作り出した魔道具の中でも魔導大砲と同じく効果力の威力を誇る武器である。欠点があるとすれば魔力の消耗量が激しいのでルノにしか扱えないという点だが、彼と同じ異世界人である直央ならば扱いこなせるのではないかと思い至る。
「一応、直央さんにも見せてあげますか。さてと、大人しく待機していてくれるといいんですけど……」
直央が宿泊している部屋の前に止まり、リーリスは聞き耳を立てる。特に何も聞こえず、まさか部屋を抜け出したのかと彼女は慌てて扉を開くと、そこには奇怪な行動を取る直央の姿が存在した。
「ふうっ……」
「直央さん?」
部屋の中では直央が椅子に座り込みながら瞼に隈を作りながら空中に指を伸ばす場面が映し出され、その行為がステータス画面を操作している事に気付き、リーリスは話しかける。
「新しいスキルでも習得してるんですか?」
「ああ、リーリスさんか……そうだよ。とりあえず、役立ちそうなスキルを片っ端から覚えている」
「あんまり無理は止めた方が良いですよ。スキルの中には覚えても必ずしもいい影響を与えるとは限らないスキルもあるんですから」
余程エルフ王国の事が心配だったのか直央は寝付けなかったようであり、ずっと何時間もステータス画面を開いて覚えられるスキルを調べていたのか明らかに疲労困憊という様子だった。そんな彼にリーリスは溜息を吐きながらも会議の結果を伝えた。
「ルノさんが未だに戻りません。もしかしたら魔王軍に捕まった可能性があります。帝国はルノさんの捜索を行います」
「なら……エルフ王国の援軍は?」
「残念ながら軍隊はすぐに派遣できません。準備するにしても一週間は掛かりますし、王国に辿り着くまでに最短でも二週間は掛かります」
「それじゃあ、間に合わない……」
リーリスの言葉に直央は落胆を隠せず、拳で机を叩きつける。その動作だけで机が罅割れ、机の上に載っていたコップが床に落ちて割れてしまうが直央は意にも介さずに溜息を吐き出す。そんな彼にリーリスはどのように声を掛ければ良いのか分からず、黙り込む。
(こんな時にルノさんがいれば……と考えるのは流石に甘えすぎですね)
このような状況に追い込まれてやっと帝国はルノという存在にどれ程頼り過ぎていたのかを思い知らされ、リーリスは自分達の情けなさに嫌気が差す。薄々とは気づいていた事だが、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり、いざという時に彼がいなくなれば何もできない。
(早く帰ってきてくださいよ……無事ならそれでいいんです。もう無茶な頼み事なんて控えますから……)
純粋にルノの身を案じている自分にリーリスは気が付き、今更ながらにリーリスは自分の中でルノという存在が思っていたよりも大きな存在になっている事を知り、自嘲気味に笑い声をあげる。そんな彼女に直央は睨みつけ、何がおかしいのかとばかり視線を向ける。
「ふうっ……直央さん、実は直央さんに見せたい物があるんです」
「見せたい物……?」
「実は私、こう見えても地球の……」
「リーリス様!!こちらにおられましたか!!」
リーリスが自分の正体を話そうとした時、扉が押し開かれ、女官が駆け込む。何事なのかと二人は振り返ると、女官は顔面を真っ青にした状態でリーリスに縋り付く。
「お、王女様が……王女様の容態が急変しました!!」
「ジャンヌ様が!?」
「……ジャンヌ?」
女官の言葉にリーリスは目を見開き、直央は首を傾げるが名前を聞いて帝国の王女である事を思い出す。女官は慌てふためきながら今現在のジャンヌの状態を伝える。
「先ほどまでは気分が良く、数日ぶりにベッドから起き上がって庭を散歩していたのですが……突如として倒れられ、血を吐いて気絶したんです!!」
「こんな時に……!!それでどう対応したんですか?」
「無暗に動かしてはならぬと王女様の護衛のリノン様の言葉により、今も裏庭で介抱されています!!すぐにリーリス様も向かってください!!」
「ああ、もう……裏庭ですね!!」
「あっ……」
王女の倒れた裏庭に向けてリーリスは駆け出し、そんな彼女に直央は手を伸ばすが、引き留める事は出来ずに黙って見送った。
「はあっ……なんでこういう面倒な役回りはいつも私なんですかね」
溜息を吐きながらリーリスは直央が宿泊している部屋に向かい、会議の内容をどのように伝えるべきか思い悩む。ルノが相手ならば馬鹿正直に会議の結果を伝える所だが、王国から苦労して訪れた直央に対し、帝国は援軍は派遣できない事を伝えるのは酷だった。
「どうしましょうかね。こんな事ならもっと開発部の予算を上げて貰うべきでした。そうすれば色々な魔道具が作れたのに……あ、魔道具と言えばあれがありましたね」
リーリスはルノのために用意した「ガトリング」を思い出し、彼女が作り出した魔道具の中でも魔導大砲と同じく効果力の威力を誇る武器である。欠点があるとすれば魔力の消耗量が激しいのでルノにしか扱えないという点だが、彼と同じ異世界人である直央ならば扱いこなせるのではないかと思い至る。
「一応、直央さんにも見せてあげますか。さてと、大人しく待機していてくれるといいんですけど……」
直央が宿泊している部屋の前に止まり、リーリスは聞き耳を立てる。特に何も聞こえず、まさか部屋を抜け出したのかと彼女は慌てて扉を開くと、そこには奇怪な行動を取る直央の姿が存在した。
「ふうっ……」
「直央さん?」
部屋の中では直央が椅子に座り込みながら瞼に隈を作りながら空中に指を伸ばす場面が映し出され、その行為がステータス画面を操作している事に気付き、リーリスは話しかける。
「新しいスキルでも習得してるんですか?」
「ああ、リーリスさんか……そうだよ。とりあえず、役立ちそうなスキルを片っ端から覚えている」
「あんまり無理は止めた方が良いですよ。スキルの中には覚えても必ずしもいい影響を与えるとは限らないスキルもあるんですから」
余程エルフ王国の事が心配だったのか直央は寝付けなかったようであり、ずっと何時間もステータス画面を開いて覚えられるスキルを調べていたのか明らかに疲労困憊という様子だった。そんな彼にリーリスは溜息を吐きながらも会議の結果を伝えた。
「ルノさんが未だに戻りません。もしかしたら魔王軍に捕まった可能性があります。帝国はルノさんの捜索を行います」
「なら……エルフ王国の援軍は?」
「残念ながら軍隊はすぐに派遣できません。準備するにしても一週間は掛かりますし、王国に辿り着くまでに最短でも二週間は掛かります」
「それじゃあ、間に合わない……」
リーリスの言葉に直央は落胆を隠せず、拳で机を叩きつける。その動作だけで机が罅割れ、机の上に載っていたコップが床に落ちて割れてしまうが直央は意にも介さずに溜息を吐き出す。そんな彼にリーリスはどのように声を掛ければ良いのか分からず、黙り込む。
(こんな時にルノさんがいれば……と考えるのは流石に甘えすぎですね)
このような状況に追い込まれてやっと帝国はルノという存在にどれ程頼り過ぎていたのかを思い知らされ、リーリスは自分達の情けなさに嫌気が差す。薄々とは気づいていた事だが、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり、いざという時に彼がいなくなれば何もできない。
(早く帰ってきてくださいよ……無事ならそれでいいんです。もう無茶な頼み事なんて控えますから……)
純粋にルノの身を案じている自分にリーリスは気が付き、今更ながらにリーリスは自分の中でルノという存在が思っていたよりも大きな存在になっている事を知り、自嘲気味に笑い声をあげる。そんな彼女に直央は睨みつけ、何がおかしいのかとばかり視線を向ける。
「ふうっ……直央さん、実は直央さんに見せたい物があるんです」
「見せたい物……?」
「実は私、こう見えても地球の……」
「リーリス様!!こちらにおられましたか!!」
リーリスが自分の正体を話そうとした時、扉が押し開かれ、女官が駆け込む。何事なのかと二人は振り返ると、女官は顔面を真っ青にした状態でリーリスに縋り付く。
「お、王女様が……王女様の容態が急変しました!!」
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「先ほどまでは気分が良く、数日ぶりにベッドから起き上がって庭を散歩していたのですが……突如として倒れられ、血を吐いて気絶したんです!!」
「こんな時に……!!それでどう対応したんですか?」
「無暗に動かしてはならぬと王女様の護衛のリノン様の言葉により、今も裏庭で介抱されています!!すぐにリーリス様も向かってください!!」
「ああ、もう……裏庭ですね!!」
「あっ……」
王女の倒れた裏庭に向けてリーリスは駆け出し、そんな彼女に直央は手を伸ばすが、引き留める事は出来ずに黙って見送った。
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