最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
245 / 657
帝国の危機

リーリスの胸中

しおりを挟む
――結局、会議では打開策は見つからず、ルノの捜索を開始する事が決定しただけで肝心のエルフ王国の対応は後回しとなる。王国が追い詰められている事は理解しているが、今の帝国に軍隊を派遣する余裕はない。


「はあっ……なんでこういう面倒な役回りはいつも私なんですかね」


溜息を吐きながらリーリスは直央が宿泊している部屋に向かい、会議の内容をどのように伝えるべきか思い悩む。ルノが相手ならば馬鹿正直に会議の結果を伝える所だが、王国から苦労して訪れた直央に対し、帝国は援軍は派遣できない事を伝えるのは酷だった。


「どうしましょうかね。こんな事ならもっと開発部の予算を上げて貰うべきでした。そうすれば色々な魔道具が作れたのに……あ、魔道具と言えばあれがありましたね」


リーリスはルノのために用意した「ガトリング」を思い出し、彼女が作り出した魔道具の中でも魔導大砲と同じく効果力の威力を誇る武器である。欠点があるとすれば魔力の消耗量が激しいのでルノにしか扱えないという点だが、彼と同じ異世界人である直央ならば扱いこなせるのではないかと思い至る。


「一応、直央さんにも見せてあげますか。さてと、大人しく待機していてくれるといいんですけど……」


直央が宿泊している部屋の前に止まり、リーリスは聞き耳を立てる。特に何も聞こえず、まさか部屋を抜け出したのかと彼女は慌てて扉を開くと、そこには奇怪な行動を取る直央の姿が存在した。


「ふうっ……」
「直央さん?」


部屋の中では直央が椅子に座り込みながら瞼に隈を作りながら空中に指を伸ばす場面が映し出され、その行為がステータス画面を操作している事に気付き、リーリスは話しかける。


「新しいスキルでも習得してるんですか?」
「ああ、リーリスさんか……そうだよ。とりあえず、役立ちそうなスキルを片っ端から覚えている」
「あんまり無理は止めた方が良いですよ。スキルの中には覚えても必ずしもいい影響を与えるとは限らないスキルもあるんですから」


余程エルフ王国の事が心配だったのか直央は寝付けなかったようであり、ずっと何時間もステータス画面を開いて覚えられるスキルを調べていたのか明らかに疲労困憊という様子だった。そんな彼にリーリスは溜息を吐きながらも会議の結果を伝えた。


「ルノさんが未だに戻りません。もしかしたら魔王軍に捕まった可能性があります。帝国はルノさんの捜索を行います」
「なら……エルフ王国の援軍は?」
「残念ながら軍隊はすぐに派遣できません。準備するにしても一週間は掛かりますし、王国に辿り着くまでに最短でも二週間は掛かります」
「それじゃあ、間に合わない……」


リーリスの言葉に直央は落胆を隠せず、拳で机を叩きつける。その動作だけで机が罅割れ、机の上に載っていたコップが床に落ちて割れてしまうが直央は意にも介さずに溜息を吐き出す。そんな彼にリーリスはどのように声を掛ければ良いのか分からず、黙り込む。


(こんな時にルノさんがいれば……と考えるのは流石に甘えすぎですね)


このような状況に追い込まれてやっと帝国はルノという存在にどれ程頼り過ぎていたのかを思い知らされ、リーリスは自分達の情けなさに嫌気が差す。薄々とは気づいていた事だが、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり、いざという時に彼がいなくなれば何もできない。


(早く帰ってきてくださいよ……無事ならそれでいいんです。もう無茶な頼み事なんて控えますから……)


純粋にルノの身を案じている自分にリーリスは気が付き、今更ながらにリーリスは自分の中でルノという存在が思っていたよりも大きな存在になっている事を知り、自嘲気味に笑い声をあげる。そんな彼女に直央は睨みつけ、何がおかしいのかとばかり視線を向ける。


「ふうっ……直央さん、実は直央さんに見せたい物があるんです」
「見せたい物……?」
「実は私、こう見えても地球の……」
「リーリス様!!こちらにおられましたか!!」


リーリスが自分の正体を話そうとした時、扉が押し開かれ、女官が駆け込む。何事なのかと二人は振り返ると、女官は顔面を真っ青にした状態でリーリスに縋り付く。


「お、王女様が……王女様の容態が急変しました!!」
「ジャンヌ様が!?」
「……ジャンヌ?」


女官の言葉にリーリスは目を見開き、直央は首を傾げるが名前を聞いて帝国の王女である事を思い出す。女官は慌てふためきながら今現在のジャンヌの状態を伝える。


「先ほどまでは気分が良く、数日ぶりにベッドから起き上がって庭を散歩していたのですが……突如として倒れられ、血を吐いて気絶したんです!!」
「こんな時に……!!それでどう対応したんですか?」
「無暗に動かしてはならぬと王女様の護衛のリノン様の言葉により、今も裏庭で介抱されています!!すぐにリーリス様も向かってください!!」
「ああ、もう……裏庭ですね!!」
「あっ……」


王女の倒れた裏庭に向けてリーリスは駆け出し、そんな彼女に直央は手を伸ばすが、引き留める事は出来ずに黙って見送った。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。