244 / 657
帝国の危機
戻らぬルノ
しおりを挟む「兎にも角にも……ルノ殿が戻らない事は話は勧められないのう」
「そうですね。またルノさん頼りになるのは心苦しいですが、現状で帝国が即座に力を貸せる戦力があるとすればルノさんだけですからね」
「しかし……エルフ王国ですら対応できない数の昆虫種をルノさん一人でどうにか出来るのでしょうか?」
「それを言ったら帝国の軍隊だって敵わねえだろ。あいつにどうしようも出来ない敵に帝国軍が敵うはずがねえ……」
「情けない限りじゃのう……一人の少年に頼り切る事しか出来んとは」
会議は難航し、現状で帝国が動かせる戦力は限られ、やはり軍隊を派遣するぐらいならばルノに支援して彼がエルフ王国に向かう方が良いという判断に至る。結局、今回もルノに頼ってしまう事に会議室の面々は溜息を吐き出し、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり過ぎた。
「それにしてもルノ殿は無事なのか?リーリスの報告によれば魔王軍の幹部の元へ向かったと聞いているが……」
「あの手紙の内容を確認する限りではもう帝都には居ないでしょうね。迎えに行くとしても行き違いになる可能性もありますし、時間が掛かり過ぎます。ここは大人しく待つ方が良いでしょう」
「それにしても魔王軍の奴等は何人幹部が居るんだよ。しかも全員化物揃いじゃねえか」
「本当に化物も含まれていましたよね。ダマラン大臣はともかく、蛇竜を魔人族に変異させるなんて有り得ませんよ」
「うむ……まあ、会議の続きはルノ殿が戻ってからにしよう」
結局はルノが戻るまで会議を中断し、別室に待機させている直央を呼び出して彼からもう少し詳しい事情を問い質す事にした。彼等の誰もがルノがいつも通りに問題を解決して戻ってくる事を疑っておらず、今回も彼が何とかしてくれると思い込んでいた――
――しかし、リーリス達の思惑とは裏腹にルノは翌日になっても戻って来ず、急遽彼等は会議室に集まり、戻らぬルノの事について話し合う。
「……既にルノ殿が消息を絶ってから1日が経過した。白原に向けて迎えの部隊を送り込んだが、状況的に考えてルノ殿の身に何かあったのだろう」
「今朝、念のために屋敷の様子を見てきましたがルノさんや魔獣達が戻っている様子はありませんでした。そしてルノさんの性格から考えても私達に連絡を寄越さずに消えるはずがありません」
「という事は……魔王軍に捕まったか、あるいは殺されたか、生きてはいるが我等と連絡が取れない状況に陥っているという事か」
「くそっ!!あのガキ……無事なのか?」
全員の顔色が暗く、ルノが戻って来ない事に彼等は不安を隠せない。誰よりも強く、幾度も魔王軍を撃退してくれたルノが戻って来ない事にリーリス達は動揺を隠せず、先帝でさえも顔色を悪くする。
「考えたくはないが、ルノ殿が捕まった場合、我々はどうすればいい?」
「勿論ルノ様を助け出すべきです!!すぐに白原に軍隊を派遣しましょう!!」
「正直、私もその意見には賛成したい所ですが、その場合はエルフ王国の対応はどうするんですか?」
「それは……」
「落ち着いて……調査は私達の部隊に任せればいい」
先帝の言葉にドリアが真っ先にルノの捜索を願い出るが、リーリスが頭を抑えながら首を振る。すぐに情報収集に優れた人員で構成されている部隊を持つヒカゲが進言すると、皇帝は頷く。
「うむ。ルノ殿の捜索はヒカゲに一任しよう。すぐに冒険者ギルドにも連絡を行い、彼等にも調査を申し込む」
「分かりました……御免」
ヒカゲも焦っているのか皇帝の言葉を聞くと即座に行動を開始し、急ぎ足で会議室を退室する。しかし、ルノが白原に向かった事を考えると帝都近辺に存在する可能性は薄く、幾らヒカゲの部隊を以てしてもすぐにルノの消息が掴めるとは思えない。
「弟よ、ルノ殿の事はヒカゲに任せるとしてもエルフ王国の件はどうする。ナオ殿の話によれば一刻も争うぞ」
「分かっています。同盟を結んでいる以上、帝国も援軍を派遣しないわけにはいかない……このまま王国が滅びれば帝国も無事では済まない以上、何としても助けなければ……」
帝国と王国が同盟を長らく結んでいるのは両国が隣国同士であり、周辺諸国から領地を守るためである。二つの国を中心に他の国が取り囲んでいる状態のため、これまで両国のどちらかに他国が侵攻した場合は必ず両国は力を合わせて対応していた。もしもエルフ王国が滅びてしまえば帝国も無事では済まず、巨人国や獣人国のような大国が動き出してしまう。
「しかし、援軍を送ると言っても我等も余裕はないぞ。今動かせる兵力はせいぜい5000が限界……それに魔王軍がルノ殿を捕えたと考えた場合、帝都の警備も高めなければならん」
「うむ……各領地から兵士を呼び集めるにしても時間が掛かり過ぎてしまう。一体どうすればいいのか……」
皇帝と先帝の会話に他の人間は黙り込み、良案が思いつかない。ここにルノが居ればと誰もが考えてしまうが、今更そのような泣き言は言っていられない。
「そうですね。またルノさん頼りになるのは心苦しいですが、現状で帝国が即座に力を貸せる戦力があるとすればルノさんだけですからね」
「しかし……エルフ王国ですら対応できない数の昆虫種をルノさん一人でどうにか出来るのでしょうか?」
「それを言ったら帝国の軍隊だって敵わねえだろ。あいつにどうしようも出来ない敵に帝国軍が敵うはずがねえ……」
「情けない限りじゃのう……一人の少年に頼り切る事しか出来んとは」
会議は難航し、現状で帝国が動かせる戦力は限られ、やはり軍隊を派遣するぐらいならばルノに支援して彼がエルフ王国に向かう方が良いという判断に至る。結局、今回もルノに頼ってしまう事に会議室の面々は溜息を吐き出し、帝国の中でルノと言う存在はあまりにも大きくなり過ぎた。
「それにしてもルノ殿は無事なのか?リーリスの報告によれば魔王軍の幹部の元へ向かったと聞いているが……」
「あの手紙の内容を確認する限りではもう帝都には居ないでしょうね。迎えに行くとしても行き違いになる可能性もありますし、時間が掛かり過ぎます。ここは大人しく待つ方が良いでしょう」
「それにしても魔王軍の奴等は何人幹部が居るんだよ。しかも全員化物揃いじゃねえか」
「本当に化物も含まれていましたよね。ダマラン大臣はともかく、蛇竜を魔人族に変異させるなんて有り得ませんよ」
「うむ……まあ、会議の続きはルノ殿が戻ってからにしよう」
結局はルノが戻るまで会議を中断し、別室に待機させている直央を呼び出して彼からもう少し詳しい事情を問い質す事にした。彼等の誰もがルノがいつも通りに問題を解決して戻ってくる事を疑っておらず、今回も彼が何とかしてくれると思い込んでいた――
――しかし、リーリス達の思惑とは裏腹にルノは翌日になっても戻って来ず、急遽彼等は会議室に集まり、戻らぬルノの事について話し合う。
「……既にルノ殿が消息を絶ってから1日が経過した。白原に向けて迎えの部隊を送り込んだが、状況的に考えてルノ殿の身に何かあったのだろう」
「今朝、念のために屋敷の様子を見てきましたがルノさんや魔獣達が戻っている様子はありませんでした。そしてルノさんの性格から考えても私達に連絡を寄越さずに消えるはずがありません」
「という事は……魔王軍に捕まったか、あるいは殺されたか、生きてはいるが我等と連絡が取れない状況に陥っているという事か」
「くそっ!!あのガキ……無事なのか?」
全員の顔色が暗く、ルノが戻って来ない事に彼等は不安を隠せない。誰よりも強く、幾度も魔王軍を撃退してくれたルノが戻って来ない事にリーリス達は動揺を隠せず、先帝でさえも顔色を悪くする。
「考えたくはないが、ルノ殿が捕まった場合、我々はどうすればいい?」
「勿論ルノ様を助け出すべきです!!すぐに白原に軍隊を派遣しましょう!!」
「正直、私もその意見には賛成したい所ですが、その場合はエルフ王国の対応はどうするんですか?」
「それは……」
「落ち着いて……調査は私達の部隊に任せればいい」
先帝の言葉にドリアが真っ先にルノの捜索を願い出るが、リーリスが頭を抑えながら首を振る。すぐに情報収集に優れた人員で構成されている部隊を持つヒカゲが進言すると、皇帝は頷く。
「うむ。ルノ殿の捜索はヒカゲに一任しよう。すぐに冒険者ギルドにも連絡を行い、彼等にも調査を申し込む」
「分かりました……御免」
ヒカゲも焦っているのか皇帝の言葉を聞くと即座に行動を開始し、急ぎ足で会議室を退室する。しかし、ルノが白原に向かった事を考えると帝都近辺に存在する可能性は薄く、幾らヒカゲの部隊を以てしてもすぐにルノの消息が掴めるとは思えない。
「弟よ、ルノ殿の事はヒカゲに任せるとしてもエルフ王国の件はどうする。ナオ殿の話によれば一刻も争うぞ」
「分かっています。同盟を結んでいる以上、帝国も援軍を派遣しないわけにはいかない……このまま王国が滅びれば帝国も無事では済まない以上、何としても助けなければ……」
帝国と王国が同盟を長らく結んでいるのは両国が隣国同士であり、周辺諸国から領地を守るためである。二つの国を中心に他の国が取り囲んでいる状態のため、これまで両国のどちらかに他国が侵攻した場合は必ず両国は力を合わせて対応していた。もしもエルフ王国が滅びてしまえば帝国も無事では済まず、巨人国や獣人国のような大国が動き出してしまう。
「しかし、援軍を送ると言っても我等も余裕はないぞ。今動かせる兵力はせいぜい5000が限界……それに魔王軍がルノ殿を捕えたと考えた場合、帝都の警備も高めなければならん」
「うむ……各領地から兵士を呼び集めるにしても時間が掛かり過ぎてしまう。一体どうすればいいのか……」
皇帝と先帝の会話に他の人間は黙り込み、良案が思いつかない。ここにルノが居ればと誰もが考えてしまうが、今更そのような泣き言は言っていられない。
0
お気に入りに追加
11,307
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。