最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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帝国の危機

帝国の対応

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――エルフ王国の勇者である直央を王城へと招かれ、一先ずは会議室へと案内される。彼の口からエルフ王国の現状を直接伝えられ、先帝と皇帝、そして将軍達は難しい表情を浮かべた。


「まさか一大強国と呼ばれたエルフ王国がそこまで追い詰められているとは……昆虫種の規模は分からぬのか?」
「分かりません……最初の頃はエルフ王国の軍隊だけで対応してたんですけど、日に日に被害が増して俺が国を抜け出した時には世界樹に立て籠もって侵入を防ぐのが精いっぱいでした」
「よくそんな状況で脱出できたのう」
「俺は暗殺者の能力を全部覚えています。だから戦わずに目立たないようにここまで逃げてきました」
「その年齢で暗殺者の職業を極めたなんて……凄い優秀」
「まあ、勇者ですからね。普通に考えればルノさんと同じ才能スペックを持つのはおかしくないです」


直央の言葉に幸いにも帝国の人間は同情しており、彼が内密にルノに救援を求めようとした事を責める人間はいない。実際に直央がルノを連れ出して王国に向かっていたら許せる行為ではないが、王国が滅亡の危機に陥っているのならば同情の余地はある。それでも国を治める立場である皇帝と先帝は苦言を告げる。


「しかし、それほどの危機に陥りながら同盟国の我々ではなく、真っ先に無関係のルノ殿に救援を求めた事は納得できんのう」
「うむ。何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうぞ」
「す、すいません……ルノ君の噂はよく耳にしていたし、それに……」
「それに?」


言い淀む直央に先帝が問い質すと、直央は言いにくそうに答えた。内容は非常に帝国の人間にとっては耳が痛い話だった。


「あの……あくまでも噂なんですけど、気分を悪くしたら謝ります。えっと……これまでに帝国で起きた事件を全て解決したのは帝国軍ではなく、民衆の英雄と呼ばれているルノ君のお陰だと聞いていたので……助けを求めるならルノ君から先に話をした方がいいのかなと思いまして……」
『…………』


直央の言葉にあからさまに会議室の全員が顔を反らし、噂の内容に関しては7、8割は間違ってはいない。実際にこれまでの魔王軍の起こした騒動を解決しているのはルノであり、帝国軍も関わっていないわけではないが問題を解決する際に一番役立っていたのはルノである事に間違いない。

勿論、これまでの事件全てがルノ一人で解決したはずがなく、彼一人ではどうしようも出来ない事態も多々あった。日の国での魔王軍の行動はリーリスやヒカゲが共に行動していなければ気付かず、犯人にも辿り着けなかっただろう。エルフ王国の王子であるデブリの護送に関してもギリョウやドリアの将軍の力がなければリディアの襲撃の際に部隊は皆殺しにされていた可能性も高い。だが、火竜などの竜種クラスの化物を打ち倒したのはルノであり、彼が居なければ既に帝国は何度か滅亡の危機を迎えていただろう。


「ちっ……何も言い返せねえのがむかつくな」
「ルノさんに頼りっぱなしですよね私達……」
「情けない……たった1人の少年に儂等は頼り過ぎておる」
「民衆は既に僕達よりもルノさんに信頼を寄せているのでは……」
「……否定できない」
「ええい、落ち込んでいる場合か!!」


国を守る将軍達は直央の言葉に少なからずショックを受けてしまい、本来は自分達が行う役目をルノに任せている事に気付いて自己嫌悪に陥る。しかし、そんな彼等に先帝は怒鳴りつけて話を強制的に戻す。


「反省は後だ。それよりも問題なのはエルフ王国に対して帝国はどのように対処するべきか話し合わなければならない。ナオ殿と言ったな?悪いがここから儂等で協議する。お主もここまでの道中で疲れているだろう。別室を用意してあるから少し休んでいてくれ」
「あ、はい……」
「悪いようにはしない。今は安心して休んでくれ」


先帝の言葉に直央は何か言いたげな表情を浮かべるが、黙って会議室を退室する。その姿を見送ると、皇帝は会議室の面々と向き合う。


「さて……実際問題、我々はどうするべきか話し合おうではないか」
「話し合うと言っても……同盟を結んでいる以上、援軍を出さない訳にいかないのでは?」


皇帝の言葉に真っ先にドリアが反応するが、皇帝の隣に座っている先帝は難しい表情を浮かべて首を横に振る。


「そうしたい所だが、我々も今日戦って戻ってきたばかりだ。兵士達も岩人形との戦闘で疲れておる。それにエルフ王国まで道のりを考えると明日明後日到着できる距離ではない。援軍に向かうにしても準備は必要じゃ」
「それにエルフ王国の軍隊でさえも対応できない「昆虫種」との戦闘しなければならない事を考えると、やっぱりそれ相応の武器も必要ですよ」
「しかし、さっきお主は例の大砲とやらはもう50台も残っていないと言っていたではないか。しかも弾に関しても殆ど残っておらんのだろう?」
「そうですね。壊れたのを修理したとしてもせいぜい100台ぐらいでしょうね。それに大砲の弾も新しく用意しないと……」
「な、何故意味深な顔で僕を見るんですか!?」


ルノが存在しない以上、吸魔石に魔力を注ぎ込める優秀な魔術師はドリアしかおらず、自然と全員が彼に視線を向けた。
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