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帝国の危機
エルフ王国の現状
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――直央によると、約一か月前からエルフ王国にて異変が起きていた。彼等が住んでいる大森林の内部にて遥か昔に絶滅したはずの「昆虫種」が大量発生し、王国に襲い掛かる。最初は軍隊も対応していたのだが、先の2体の土竜の襲撃によって兵力は減少しており、抵抗虚しく多くの森人族を失った。
勇者として召喚された直央は昆虫種が発生した原因を調べるため、かつて昆虫種を封印したという「守人家」の元に向かう。守人家とは王国から信頼が厚い貴族であり、エルフ王国の奥地に住んでいる。彼等の先祖には過去に召喚された勇者が存在し、それが理由なのか彼等は「封印魔法」と呼ばれる特別な魔法を扱える事が出来た。
この魔法は「結界」と呼ばれる魔法で構成された障壁を作り出し、外部から隔離する事であらゆる攻撃から身を守り、しかも結界の使い方によっては敵を封じ込める事も出来るという。結界内部の物体は時間の概念さえも受け付けず、生物を封じ込めた場合は結界を解かない限りは永久に生きたまま閉じ込める事が出来る。
守人家は遥か昔、現在の国王が即位する前の時代の国王に「昆虫種」の封印を命じられる。当時、多くの国家を滅亡の危機に陥れた昆虫種だったが、冬季が訪れた事で殆どの昆虫種が絶滅してしまう。しかし、完全に絶滅する前に昆虫種の卵だけを回収し、当時のエルフ王国の国王は守人家に命じて封印を施す。
どうして当時の国王が世界を危機に陥れた昆虫種を殺さずに封印したのは昆虫種の圧倒的なまでの力を惜しみ、軍事利用するつもりだったと考えられる。しかし、結局は昆虫種を封印する事に成功しても制御する事は失敗に終わり、結局は今までの間は封印され続けていたという。
昆虫種の危険を考えれば封印よりも始末した方が良いと主張する者も当然居たが、結局は今の国王の代でも昆虫種の封印は維持され、手出しは出来なかった。だが、どういう訳なのか唐突にエルフ王国内に大量の昆虫種が姿を現し、王国に襲い掛かった。
「ちょっと待ってください!!じゃあ、今の王国は昆虫種によって蹂躙されているという事ですか?」
「……そうだよ。俺も必死に戦ったけど、奴等は数が多くて対処しきれない」
話の途中でリーリスは口を挟み、絶滅したはずの昆虫種が復活したという話だけでも驚きだが、エルフ王国が昆虫種の卵を数百年も封印していたという話は流石に帝国の将軍として黙ってはいられない。
「一体何を考えているんですかエルフ王国は!!そんな化物の卵を何百年も各国に秘匿していたなんて……この事を他国に知られれば十分に戦争に発展する理由になりますよ!?」
「その事は国王様も言っていた……こんな大事なるのなら早急に卵を始末しておくべきだったって……」
「ああ、もう……それでエルフ王国はどうなっているんですか?まさか、壊滅したんじゃ……」
「今のところは持ち応えている……と思う。だけど限界は近い……だから俺はルノ君に助けを求めに来たんだ」
「虫の良い話ですね。同盟国の帝国ではなく、ルノさん個人に救援を求めるつもりですか?図々しい!!」
直央の言葉にリーリスは大きなため息を吐き出し、今度ばかりはエルフ王国のやり方に彼女ですらも怒りを抱く。本来、国の大事ならば同盟国の帝国に救援を求めるのが筋だろう。しかし、エルフ王国は帝国軍ではなく、帝国の最大戦力であるルノ個人に救援を求め、彼の親類である直央を送り込む事で説得させようとしている。
エルフ王国が帝国に救援を求め、表向きは帝国に属しているルノに協力を求めるのならばリーリスとしても納得は出来る。しかし、直央を内密に送り込み、彼を利用して先にルノに事情を伝えて協力を求めようとしたのは王国が領地内に帝国の軍隊を招き寄せる行為を避けているからに過ぎない。
(この機に乗じてルノさんを王国内に受け入れ、昆虫種を討伐した後に王国に招き入れる魂胆が見え見えですね。あの爺……人の良さそうな顔で何て腹黒い)
リーリスは苛立ちを隠せずに親指の爪を噛み、そんな彼女に直央は申し訳なさそうに顔を伏せる。そんな彼の顔を見てリーリスは直央としても自分が利用されている事に気付いている事を知り、率直に尋ねる。
「直央さん、貴方はルノさんの親戚ですよね?だったら今回の王国の行動がどれだけ身勝手で帝国に迷惑を与えるのか理解してます?」
「それは……」
「帝国だけではなく、ルノさんも危険に晒そうとしているんですよ?それを何とも思わないんですか?」
「分かってるよ!!」
直央はリーリスの言葉に悲しげな表情を浮かべ、それでも彼は諦めるわけには行かず、その場に跪く。
「自分が何をやっているのかは理解している……でも、もう俺だけの力じゃどうしようも出来ないんだ……!!どれだけ倒しても昆虫種は減らないし、こうして話している間にも被害は増している……もう俺達だけの力じゃ止められないんだ!!」
悲痛な表情を浮かべながら直央は涙を流し、その姿がとても演技には見えず、リーリスは黙り込む。
勇者として召喚された直央は昆虫種が発生した原因を調べるため、かつて昆虫種を封印したという「守人家」の元に向かう。守人家とは王国から信頼が厚い貴族であり、エルフ王国の奥地に住んでいる。彼等の先祖には過去に召喚された勇者が存在し、それが理由なのか彼等は「封印魔法」と呼ばれる特別な魔法を扱える事が出来た。
この魔法は「結界」と呼ばれる魔法で構成された障壁を作り出し、外部から隔離する事であらゆる攻撃から身を守り、しかも結界の使い方によっては敵を封じ込める事も出来るという。結界内部の物体は時間の概念さえも受け付けず、生物を封じ込めた場合は結界を解かない限りは永久に生きたまま閉じ込める事が出来る。
守人家は遥か昔、現在の国王が即位する前の時代の国王に「昆虫種」の封印を命じられる。当時、多くの国家を滅亡の危機に陥れた昆虫種だったが、冬季が訪れた事で殆どの昆虫種が絶滅してしまう。しかし、完全に絶滅する前に昆虫種の卵だけを回収し、当時のエルフ王国の国王は守人家に命じて封印を施す。
どうして当時の国王が世界を危機に陥れた昆虫種を殺さずに封印したのは昆虫種の圧倒的なまでの力を惜しみ、軍事利用するつもりだったと考えられる。しかし、結局は昆虫種を封印する事に成功しても制御する事は失敗に終わり、結局は今までの間は封印され続けていたという。
昆虫種の危険を考えれば封印よりも始末した方が良いと主張する者も当然居たが、結局は今の国王の代でも昆虫種の封印は維持され、手出しは出来なかった。だが、どういう訳なのか唐突にエルフ王国内に大量の昆虫種が姿を現し、王国に襲い掛かった。
「ちょっと待ってください!!じゃあ、今の王国は昆虫種によって蹂躙されているという事ですか?」
「……そうだよ。俺も必死に戦ったけど、奴等は数が多くて対処しきれない」
話の途中でリーリスは口を挟み、絶滅したはずの昆虫種が復活したという話だけでも驚きだが、エルフ王国が昆虫種の卵を数百年も封印していたという話は流石に帝国の将軍として黙ってはいられない。
「一体何を考えているんですかエルフ王国は!!そんな化物の卵を何百年も各国に秘匿していたなんて……この事を他国に知られれば十分に戦争に発展する理由になりますよ!?」
「その事は国王様も言っていた……こんな大事なるのなら早急に卵を始末しておくべきだったって……」
「ああ、もう……それでエルフ王国はどうなっているんですか?まさか、壊滅したんじゃ……」
「今のところは持ち応えている……と思う。だけど限界は近い……だから俺はルノ君に助けを求めに来たんだ」
「虫の良い話ですね。同盟国の帝国ではなく、ルノさん個人に救援を求めるつもりですか?図々しい!!」
直央の言葉にリーリスは大きなため息を吐き出し、今度ばかりはエルフ王国のやり方に彼女ですらも怒りを抱く。本来、国の大事ならば同盟国の帝国に救援を求めるのが筋だろう。しかし、エルフ王国は帝国軍ではなく、帝国の最大戦力であるルノ個人に救援を求め、彼の親類である直央を送り込む事で説得させようとしている。
エルフ王国が帝国に救援を求め、表向きは帝国に属しているルノに協力を求めるのならばリーリスとしても納得は出来る。しかし、直央を内密に送り込み、彼を利用して先にルノに事情を伝えて協力を求めようとしたのは王国が領地内に帝国の軍隊を招き寄せる行為を避けているからに過ぎない。
(この機に乗じてルノさんを王国内に受け入れ、昆虫種を討伐した後に王国に招き入れる魂胆が見え見えですね。あの爺……人の良さそうな顔で何て腹黒い)
リーリスは苛立ちを隠せずに親指の爪を噛み、そんな彼女に直央は申し訳なさそうに顔を伏せる。そんな彼の顔を見てリーリスは直央としても自分が利用されている事に気付いている事を知り、率直に尋ねる。
「直央さん、貴方はルノさんの親戚ですよね?だったら今回の王国の行動がどれだけ身勝手で帝国に迷惑を与えるのか理解してます?」
「それは……」
「帝国だけではなく、ルノさんも危険に晒そうとしているんですよ?それを何とも思わないんですか?」
「分かってるよ!!」
直央はリーリスの言葉に悲しげな表情を浮かべ、それでも彼は諦めるわけには行かず、その場に跪く。
「自分が何をやっているのかは理解している……でも、もう俺だけの力じゃどうしようも出来ないんだ……!!どれだけ倒しても昆虫種は減らないし、こうして話している間にも被害は増している……もう俺達だけの力じゃ止められないんだ!!」
悲痛な表情を浮かべながら直央は涙を流し、その姿がとても演技には見えず、リーリスは黙り込む。
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