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帝国の危機

その頃、帝国では……

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――時は数日前に遡り、ルノが魔王を宇宙に追放した日に遡る。リーリスは緊急の用事をルノに伝えるため屋敷に訪れたのだが、即座に異変に気付く。


「こ、これは……ルノさんの身に何か起きたんですかね?」


半ば破壊された扉に視線を向け、リーリスは周囲に気を配りながらもルノの姿を探す。時間的には彼と離れてからそれ程経過していないはずであり、屋敷内に残っているのではないかと考えて探索する。


「見事なまでに荒らされていますね。それに争った痕跡も残っている……何があったのか知りませんけど、私一人だけだと不安ですね」


倒れた机や椅子を確認してリーリスは屋敷の中で戦闘が起きたことを推理し、周囲に気を付けながら様子を伺う。その際、机の影から聞き覚えのある鳴き声が聞こえて来た。


「ぷるぷるっ……」
「む、その声は……スラミンですね!!」
「ぷるるんっ」


机の影に隠れていたスラミンを発見し、リーリスは優しく抱き上げる。特に見た所は怪我はなく、怯えたように普段よりも震えているスラミンに問い質す。


「何があったんですか?」
「ぷるぷるっ……ぷるるんっ」
「うん、何を言っているか全然分かりませんね……」


尋ねておいてなんだがスライムの言葉が分からないリーリスではスラミンが何を伝えようとしているのか分からず、困った風に首を傾げると、スラミンは彼女の元から離れて地面に落ちている手紙を指差す。


「ぷるるっ!!」
「手紙?どうしてこんな所に……ルノさんが残したんでしょうか?」


不思議に思ったリーリスは手紙を拾い上げ、ルノが手掛かりでも残してきたのかと思ったが、書いている内容を見て目を見平く。彼女が発見したのはルノが書き残した手紙ではなく、魔王軍の幹部であるエルミナとアリシアが書き残した手紙である。


「何てことを……他の魔物達は人質に取ったんですか。命知らずな……でも、ルノさんが私達に相談もせずに抜け出したところ、相当に焦っていたようですね」


ルノが手紙の内容を確認して単独で魔王軍の元へ向かった事は間違いなく、リーリスは溜息を吐き出す。しかし、すぐに彼女は手紙を懐に入れてスラミンを抱きかかえた。


「ここに残ってもしょうがないですし、一度王城に戻りましょう」
「ぷるぷるっ……ぷるんっ!?」
「え?どうかしました?」


リーリスに抱きかかえられたスラミンが何かに気付いたように激しく振動し、身体を変形させてある方向を指差す。リーリスはスラミンが指し示す方向に視線を向けるが、上に続く階段が存在するだけで何も見えない。


「何もいない……いえ、誰か居ますね!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」


感知能力の優れたスラミンが何かを示している事は間違いなく、リーリスは杖を構える。すると階段から少年の声が上がり、出てきたのは一見は少女と間違える程に顔立ちが整った少年だった。


「お、落ち着いて……俺は何もしないよ」
「貴方は……ああ、思い出しました。確かルノさんの親戚の方ですね」
「え?知ってるの?」



――姿を現したのはエルフ王国に召喚された勇者である「白崎直央」であり、彼の存在はルノから聞いていたリーリスは咄嗟に杖を降ろそうとしたが、どうして直央がここに居るのか疑問を抱く。ルノの姿が見えない事も気にかかり、警戒を解かずに直央を問い質す。



「貴方の事はルノさんから聞いていますよ。自分と同じで変わった名前の従弟だと聞いています」
「ルノ君め……どういう説明してるの」
「ちなみに貴方がエルフ王国に召喚された勇者と聞いていますよ。そんな人物がどうしてここに?」
「何もかもお見通しという事か……その前にその杖を下ろしてくれない?」


ナオは両手を上げたまま敵意が無い事を示し、リーリスは一応は杖を下す。しかし、直央が暗殺者のように気配を殺して接近してきたことは間違いなく、警戒は解かない。


「どうして直央……さんがルノさんの家に居るんですか?従弟の屋敷に遊びに来たという割には随分と妙な恰好ですね」
「こっちにも色々と事情があってね……ルノ君は何処?」


現在の直央の姿はまるでヒカゲのような忍者を意識させる黒装束を着こんでおり、腰元には小袋を装着していた。リーリスは直央の来ている衣装に見覚えがあり、日の国に訪れた時に服屋で販売していた物だと思い出す。


「それは日の国の衣装ですね。忍者のコスプレですか?」
「え?コスプレなんて言葉知ってるの?」
「えっと……ルノさんから教えてもらったんですよ」


流石に自分も元は地球人(転生前)である事は明かせず、リーリスは適当に誤魔化す。直央はコスプレという地球の言葉を知っていた彼女に驚くが、気を取り直してルノの居場所を尋ねる。


「あのさ……出来ればルノ君の居場所を教えて欲しい。どうしても会いたいんだ」
「そういう訳にいきませんね。ここは帝国の領地、そしてルノさんに与えられた屋敷です。この惨状を見てくださいよ?まるで強盗に襲われたみたいですよね。そして屋敷の中には貴方が居た……十分に怪しいです」
「うっ……そう来たか」


リーリスの言葉に直央は眉を顰め、状況的に自分も怪しい人物である事に気付く。
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